【コニカミノルタジャパン】印刷業界の将来と印刷会社の生き残り戦略~デジタル化による変革と持続可能な成長を目指して~

コニカミノルタジャパン株式会社は、業種業態別の製品・ソリューション提供を通じて、顧客とともに課題を解決することで新たな価値の共創を目指している。

国内の印刷市場規模(=出荷額)については1990年初頭から減少し続け最盛期の半分近くまで落ち込んでいる。ここ数年では減少傾向は緩和されたものの、情報伝達の多様化や原材料費の高騰などの多くの課題が噴出・顕在化し、多くの印刷会社が様々な取り組みをすることで生き残りや事業成長の道を模索している状況となっている。

デジタル技術については、2000年代以降より特に印刷工程の技術革新が進み、昨年実施された世界最大の印刷展示会DRUPAでは、インクジェットを始めとする各種のデジタル技術を活用した生産機の出揃いと、様々な自動化システムの展示が大きな注目を集めた。
これは、従来のアナログ中心の運用体制から、デジタルと自動化を軸とした新たなフェーズへと、本格的に移行しつつあることを示している。

稿では印刷業界の将来展望につき、まことに僭越ながら少し考察してみたい。

(1) 人材確保の課題

印刷業界では就業人口(下図左)の減少と高齢化が進行しており、熟練工の退職(下図右)による人員の減少に加えノウハウの喪失が深刻な課題となっている。

さらに若手人財については俗にいう3K職場のイメージがある製造現場を忌避するとともに自らの成長につながる職種を希望する傾向が強まっており、これを見える形で解消・実現する環境の整備が急務となっている。

(2) 情報伝達手段の多様化と個別化

印刷向け紙製品の需要は過去10年の出荷ベースでほぼ半減している。更に広告費については紙媒体が20~50%減少する中インターネット媒体は約3倍になるなど大きくシフトしている。これは印刷が単なる「情報伝達手段」から「価値提供手段」へと役割の変更が必要になりつつあることを意味し、これに資さない印刷物はコモディティとして安く買いたたかれることに繋がると考えられる。

印刷物の「価値」を高める手段はいくつか挙げられるが、短納期・在庫レス対応に加え、プロモ―ショナル用途ではパーソナライズやweb等マーケティング連動による販促効果の最大化への取り組みなどがある。これら以外にはニス・ラミネート・箔押しなどいわゆる装飾により、手に取る/所有する感動・喜びを高めることでダイレクトに印刷物の価値を高めることも有効な手段となりうる。

(3) 社会的責任の増大

SDGs(=持続可能な開発目標)は、2015年に国連サミットで採択された、2030年までに達成を目指す17の国際目標である。これは、世界の貧困をなくし、持続可能な社会と経済を構築するための包括的な目標で、地球上の誰一人取り残さないことを目指している。

印刷も製造業の一部であることから、カーボンニュートラル(温室効果ガスの削減)への対応が対外訴求の観点から最も分かりやすく、多くの印刷会社が取り組みを始めている。

代表取締役 大幸 利充氏

カーボンニュートラルの実現には、エネルギー使用量の削減、再生可能エネルギーの活用、廃液・廃棄物の削減が代表的な取り組みであり、最近ではJクレジットを利用しカーボンオフセットに対応するケースも出てきている。
また発注者側に対して、CO2排出量の実績データを有料で提供し、ビジネス化する動きなども出てきており、今後は単なるCSR観点だけではないSDGsに関連したビジネスの拡大も期待される。

戦略を考えるにあたり「アンゾフの成長マトリクス」と呼ばれるフレームワークを使いあらためて確認したい。これは「製品」「市場」に関して、「新規」「既存」の軸で分けることで4つのマトリクスを構成するものである。本稿ではテーマとなるデジタル化が寄与しうる二つの成長戦略にフォーカスして記載する。

1)市場浸透戦略

代表的なモデルとしては「印刷通販」が挙げられる。ECサイトの活用により、顧客接点を拡大するとともに、受注仕様を標準化・テンプレート化をすることで利便性を高め発注のハードルを下げることで、極めて効率的に小ロット・端物を中心としたジョブを集約している。このビジネスモデルでは受注~出荷までの全工程でデジタル技術を活用し効率的な小ロット大量生産を実現、さらに間接コストとして大きな割合を占める販管費(営業固定費)を排除することで低価格でサービス提供しており、工業製品としての印刷ビジネスの一つのあるべき姿・完成形とも言える。

一方で、印刷通販とは真逆のアプローチとなるが地方地域密着型のビジネスモデルも挙げられる。印刷が基本的には地産地消である特性を最大限に追及する形態でもあり。いわゆる御用聞きもこれに含まれる。基本的には実績重視(リピートオーダー)・人脈・口コミ等アナログ的な受注活動が中心となるが、競合優位性の獲得には超短納期対応や小ロットの特殊メディアや特殊加工対応など顧客のあらゆる要望に柔軟に応えていくことが必須であり、デジタル技術の活用もカギとなるモデルと言える。 また本モデルの派生的なアプローチとして、学校教育の現場などSDGsや環境活動を企画・推進することで地域に浸透・貢献し、顧客接点の拡大や強化を図る印刷会社も増えてきている。

2)新製品開発戦略

webサイト構築・運用支援や動画制作などを手掛ける印刷会社は多く存在する。デザインや制作部門を持つ印刷会社であれば親和性の高いモデルと言える。昨今はその発展形としてマーケティングオートメーションを活用し、包括的な販売プロ―ションの受注にチャレンジする印刷会社も増えてきている。MAツールを導入し、デジタル印刷機によるQRコード連動等のバリアブル印刷を活用すれば対応が可能でもあり、このモデルも親和性が比較的高いと言える。
一方で、マーケティングシナリオ構築や行動分析等の高度なノウハウが必須かつ重要であり、専門性の高い人材の獲得、育成がカギとなる。しかし、このハードルを乗り越えれば、受注金額(付加価値)の大幅な増大と継続的な受注が期待され、目指すべきビジネスモデルの一つと言える。

これ以外には、後工程を垂直統合するモデルが挙げられる。従来外注していた製本や梱包、装飾(箔、ラミネート、ニス)あるいは出荷までを含めて内製化するもので、昨今では発注者側のシステムと連携することで、オンデマンドでの生産や在庫管理・出荷までをワンストップで請け負う印刷会社も数多く出てきている。こういった受注からの各種データや工程指示管理を効率的に行うためにシステムのデジタル化が必須となる。

本稿では、デジタル化が必要な理由と、デジタル技術・デバイスを活用した成長戦略の可能性につき言及した。成長戦略については本稿でフォーカスしたモデル以外も存在し複数のモデルを組み合わせて実施し、相補・相乗効果を発揮しているケースも数多く存在する。
国内印刷会社は、世界に誇れる品質の高さやそれを実現する技術力を有している。業界が大きな転換点を迎える中、その底力によりそれぞれの強みや勝ち筋を見出し、あらたな成長戦略を描けるものと筆者は信じている。

本稿が戦略を考える上での一助となるのであれば幸いであり、またコニカミノルタとしてもデジタル技術を核とした印刷ビジネス全体をカバーする商品ポートフォリオの提供を通じ、お困りごとを共に解決するパートナーとして、その支援をさせて頂きたいと考えている。

 【会社情報】
コニカミノルタジャパン株式会社
本社:東京都港区芝浦1-1-1
HP:https://www.konicaminolta.jp/business/products/graphic/index.html

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