全国ぷらざ協議会 調査が証明:ポスティング型印刷広告をやめると小売業の売上は減少する
印刷したチラシを地域限定・期間限定で停止した場合の影響についての科学的検証した結果がSSRNのワーキングペーパーとして公開されている。これによると配布停止後は来店回数、週間支出額ともに減少し、特売品・非特売品の双方に影響が及んだという。全国ぷらざ協議会会長代行五百籏頭忠男氏から寄せられたレポートを紹介する。
調査が証明:
ポスティング型印刷広告をやめると小売業の売上は減少する
ドイツで一般的に行われているポスト投函型のチラシ広告。オランダでは今回、ディスカウントスーパーのLidl(リドル)を対象に、印刷されたチラシを地域限定・期間限定で停止した場合、事業にどのような影響が出るのかを科学的に検証する調査が行われた。
近年、一部の小売業者はポスティングによる印刷チラシ広告の配布を取りやめ始めている。しかし、印刷広告をやめたことで売上にどのような影響が生じたのかについて、詳細かつ第三者的に作成された数値データを得ることは、これまで容易ではなかった。
そうした中で、オランダの研究者アリエン・ファン・リン、クリストファー・O・ケラー、ジョンネ・Y・ガイトの3名による実証研究は、極めて価値の高いものとなっている。
その結論は明確だ。印刷チラシを廃止すると、購買行動において有意かつ持続的な減少が生じる、というものである。
研究概要
本実証研究「Quo vadis, Print Store Flyers?(印刷店頭チラシはどこへ向かうのか?)— 印刷チラシの廃止と再導入が購買行動に与える影響」は、オランダの食品小売市場において、ディスカウンターであるLidlを事例に、家庭向け印刷広告の廃止およびその後の再導入が、経済的・行動的にどのような影響を及ぼしたのかを分析している。
実証実験として用いられたのは、2023年初頭にユトレヒト州のみで週次のポスティング広告を停止し、他の11州では引き続き配布を継続したという施策である。
さらに2024年には印刷広告が再導入され、効果の持続性や可逆性についても分析が可能となった。
その結果、印刷チラシの廃止は、Lidlにおける購買行動を有意かつ長期的に低下させたことが確認された。
データと分析方法
実証分析は、2021年から2024年にかけての約1万世帯分の購買データを含むYouGovのスキャナーパネルデータに基づいている。
因果関係の主分析では、施策以前に少なくとも1回Lidlで買い物をしたことのある3,291世帯を対象とし、再導入効果の分析では3,032世帯が対象となった。
分析対象はFMCG(Fast-Moving Consumer Goods=日用品・食品などの回転率の高い消費財)に限定されている。これは、非食品分野の購入データが完全には収録されていないためである。
印刷広告廃止が購買行動に与えた影響
結果によれば、印刷チラシの廃止により、Lidlでの購買行動は明確に減少した。
週間の来店回数:−2.5%
週間の総支出額:−8.7%
影響は特売商品(−4.4%)だけでなく、非特売商品(−7.4%)にも及んでいる。
著者らは、チラシが単なる短期的な販促効果にとどまらず、より広範な「喚起・活性化機能」を果たしている点を明示的に指摘している。
「Lidlが印刷チラシの配布を停止した後、家庭は特売商品・非特売商品を問わず支出を減らした」
これらの効果はチラシ停止直後から現れ、観測期間全体を通じて持続した。
顧客タイプ別に見た異質な効果
マイナス効果は、Lidlを主な購買先としていない世帯に特に集中していた。
一方、Lidlを主要な買い物先とする世帯では影響は小さく、統計的に有意でない場合もあったが、完全にゼロではなかった。
この結果は、ポスティング広告が補完的・偶発的な来店客に対して、想起・行動喚起の役割を果たしていることを示唆している。
競合他社への影響
競合小売業者全体を合算すると、購買行動に大きな変化は見られなかった。
しかし詳細に分析すると、印刷チラシの配布を継続していた別のディスカウンターが、明確な恩恵を受けていたことが判明した。
来店回数:+2.1%
顧客売上高:+8.5%
他の業態(スーパーマーケット等)には、測定可能な効果は見られなかった。
著者らはこれを次のように要約している。
「消費者は、主要な購買先に移行したのではなく、別のハードディスカウンターへと購買をシフトした」
デジタル代替手段の役割
印刷チラシの廃止と並行して、LidlはLidl Plusアプリなどのデジタル代替手段を積極的に訴求していた。
しかし本研究は、デジタル施策が印刷広告の喪失を補完できなかったことを示している。
特に、印刷チラシ廃止をきっかけに初めてデジタルチラシへ移行した世帯では、Lidlでの購買減少が平均以上に大きかった。
著者らは慎重ながらも明確に次のように述べている。
「調査に基づく証拠から、デジタル代替手段は印刷チラシ廃止の影響を完全には防げないことが示唆される」
印刷チラシの再導入
2024年に印刷チラシを再導入した後、Lidlでは来店頻度および顧客売上高が部分的に回復した。
ただし、観測期間内では廃止前の水準には完全には戻らなかった。
一方、競合ディスカウンターが獲得した市場シェアの多くは、その後も維持された。
このため著者らは、印刷チラシ廃止の影響は非対称的であり、部分的には恒久的であると結論づけている。
経済的評価
補足的な収益性分析では、印刷・配布コストの削減(1世帯あたり週2~6セント)と、売上および粗利の減少が比較された。
現実的な小売マージンを前提とした場合、印刷チラシの廃止は多くのケースで経済的に割に合わないとの結論に至っている。
「典型的なケースでは、印刷チラシの廃止は財務的に裏目に出る」
総合結論
本研究は、食品小売業において印刷された家庭向け広告を自主的に廃止すると、売上および来店頻度が明確に減少し、その損失はデジタル施策によって完全には補填できないことを、実証的に示している。
さらに、後に印刷広告を再導入した場合でも、損失の一部は恒久的に残る可能性が高い。
- 情報・ダウンロード
- Arjen van Lin / Kristopher O. Keller / Jonne Y. Guyt
Quo vadis, Print Store Flyers? Effects of Retiring and Reinstating Print Store Flyers on Shopping Behavior
2025年11月、SSRNにてワーキングペーパーとして公開(無料ダウンロード可能) - 著者紹介
- アリエン・ファン・リン氏:ティルブルフ大学 経済経営学部 准教授(オランダ)
- クリストファー・O・ケラー氏:ノースカロライナ大学チャペルヒル校 ケナン=フラグラー・ビジネススクール 助教授(米国)
- ジョンネ・Y・ガイト氏:アムステルダム大学 ビジネススクール 准教授(オランダ)
