コダック 印刷工場のスマート化を提案── 現場を変える4つの技術とそのメカニズム

人材不足、資材高騰、小ロット化──。印刷現場を取り巻く環境は、ここ数年で大きく変化した。「同じ人数で、より多く、より速く、より安定して」という要請に応えるためには、単に機械を入れ替えるだけでは不十分であり、工場全体のプロセスを見直し、データと自動化を前提とした“スマートファクトリー”への転換が求められている。 そうした課題に対し、コダックはワークフロー「PRINERGY」、CTP「TRENDSETTER/MAGNUS」、無処理プレート「SONORA」、インクジェット「PROSPER インプリンティングシステム」を提供している。それらがどのようにオフセット印刷の現場の変革に寄与しうるのか。コダックジャパン プリント事業部プリント営業本部 東日本営業グループ 兼 ビジネスデベロプメントグループ セールスマネージャーの赤坂康佑氏、プリント事業部プリント営業本部 ビジネスデベロプメントグループ ソフトウェアスペシャリストの星 裕子氏に話を伺った。

── まず、今の印刷業界の現状についてお聞きしたいのですが、現場ではどんな声が上がっていますか?

赤坂 お客様のところを回っていると、「人が集まらない」という声を本当に至るところで聞きます。以前は2人でこなしていた作業を、今は1人でやらなければならないというケースが増えています。しかもベテランが減っていますから、属人化した技術の継承という問題も同時に起きています。

── コスト面でも厳しい状況が続いています。

赤坂 そうですね。紙の価格もインキの価格も上がっています。お客様としては、できるところからコストを抑えたいというのが本音だと思います。そこに人手不足が重なっているわけですから、現場の負担は相当なものになっていると想像できます。

── 小ロット化の影響も大きいのではないでしょうか。

赤坂 まさにそこが核心で、昔はロングランの仕事が中心でしたから、手作業のコストはある程度吸収できました。今は小ロット・多品種・短納期が当たり前になっています。にもかかわらず、プリプレスの作業というのはジョブの大きさに関わらず発生します。1枚の仕事でも1万枚の仕事でも、RIPをかけて、面付けをして、出力するという工程は変わりません。だからこそ、プリプレス工程の自動化が急務になっているのです。

Trendsetterの前で赤坂康佑氏(左)と星裕子氏

── そうした課題に対して、コダックさんはどういったアプローチを取られているのですか?

赤坂 私たちが提案しているのは、4つのソリューションを軸としたスマートファクトリーの実現です。ワークフローシステムの「PRINERGY(プリナジー)」、高精度なCTPソリューション「SQUARESPOT(スクエアスポット)」、無処理プレートの「SONORA(ソノラ)」、そしてオフセット印刷機にインラインで搭載するインクジェットシステム「PROSPER Imprinting System(プロスパー インプリンティングシステム)」。この4つのソリューションによる工場全体のスマート化を提案しています。

── ではまず、PRINERGYについて教えてください。

星 PRINERGYは、入稿から出力までを一気通貫で処理するワークフローシステムです。その中核となるのが「ルールベースオートメーション(Rule-Based Automation)」、略してRBAと呼ばれる機能です。ジョブが入稿された瞬間から、プリフライト、面付け、出力まで、あらかじめ設定されたルールに従って自動的に処理を進めます。人が都度判断しなくても、定型化されたジョブであればボタン一つで工程が完結します。

PRINERGYの画面イメージ
PRINERGYのルールベースオートメーション

── RBAは導入のハードルが高そうなイメージもありますが、実際はどうですか?

星 画面操作を中心としたシンプルな設計ですので、専門的な知識がなくても直感的に設定・運用できます。

日常的なルール設定はお客様ご自身で簡単に行っていただけますが、より高度な要件や個別対応が必要な場合には、「プロフェッショナルサービス」というサポートをご用意しており、要件をヒアリングしたうえで最適なルールをご提供しています。

── MISとの連携はどう行うのですか?

星 「Business Link」という機能を通じて、JDF(Job Definition Format)および JMF(Job Messaging Format)を用いたデータ連携を行うことで、ジョブの自動作成や、各ジョブがどの工程にあるかといった進捗・ステータス情報をMIS側で把握することが可能となります。ただ正直なところ、完全なJDF連携というのは日本市場にはまだハードルが高い部分もあります。今は、CSVやXMLといったシンプルな形式でジョブ情報を受け渡すところから自動化を始めて、徐々に範囲を広げていくアプローチをお勧めしています。エクセルから書き出したデータでも、アクセスから書き出したデータでも構いません。まず「自動化に載せられる仕事の形」を作ることが最初の一歩です。

── 色管理についても、PRINERGYと連携した仕組みがあると聞いています。

星 COLORFLOWというカラーマネジメントソフトウェアがありまして、PRINERGYと連動して動作します。COLORFLOWの特徴は、ターゲットベースの統合色管理です。まず、基準となるターゲット──例えばJapan ColorやG7、あるいはユーザー独自の標準印刷条件──を設定します。そのターゲットに対してオフセット印刷機の1号機、2号機、オンデマンド機、インクジェットプリンターなどの複数の出力デバイスをプロファイル化していきます。

── デバイスごとにICCプロファイルを自動で生成していくイメージでしょうか。

星 実際には、測色器でチャートを測定し、その測定データをCOLORFLOWに取り込むと、ターゲットとの色差やドットゲイン、グレーバランスなどを解析し、最適な補正カーブやICCプロファイルを自動生成します。重要なのは、ターゲット側の条件を変更した場合でも、それに連なる各デバイスのプロファイルやカーブが一括で再計算される点です。つまり、「基準を変えたら、全部を手作業で作り直す」のではなく、「ターゲットを変えれば、連なるデバイス側は自動的に追従する」仕組みになっているわけです。

COLORFROWのイメージ

── それは現場の負荷を大きく下げそうですね。

星 従来は、印刷機ごとに個別に調整し、場合によってはRIP側のカーブも手で調整していたと思います。COLORFLOWを使えば、測色結果に基づいて、どのデバイスがどれだけターゲットから外れているのかがレポートとして出てきます。その上で、「これは印刷機側のメンテナンスで対応すべきか」「RIP側のカーブで吸収すべきか」といった判断も、データを見ながら行えるようになります。

── クラウドへの移行についてはいかがでしょうか。

星 ヨーロッパを中心に、ここ6年でクラウドベースへの移行が急速に進んでいます。クラウド化によって、単なるRIPの機能を超えた新しい価値が生まれています。その一つが「アナリティクス」機能です。クラウド上でPRINERGYが収集した作業データを分析することで、プリフライトにどれだけ時間がかかっているか、出力処理のピーク時間帯はいつか、どのクライアントのジョブで承認待ちが多発しているかといった情報を可視化できます。

── それは具体的にどう活用するのですか?

星 たとえば、オペレーターのシフト配置と仕事が集中する時間帯が実は合致していない、というケースが実際にあります。感覚で運営していると気づきにくいですが、データで見れば一目瞭然です。人員配置の最適化をはじめ、その時間帯だけ処理能力を増強するといった経営判断にも直結します。さらにRIPでラスタライズされた際のアミ点情報をもとにインキ使用量を試算して、コスト計算まで行えます。

── インキコストの把握は今の時代に重要ですね。

星 まさにそうで、絵柄の重いジョブとそうでないジョブでは実際のコストが大きく異なります。しかし多くの印刷会社では、色数や判型で一律の単価を設定されているケースがほとんどです。実際のインキ消費量に基づいてコスト分析ができれば、採算性の高い仕事を優先的に受注するといった経営判断にも活用できます。

── ライセンスの形態も変わってきているそうですね。

星 はい、サブスクリプションでの提供が始まっています。繁忙期には出力ライセンスを最短3ヵ月単位で追加購入して、閑散期には縮小するという柔軟な運用が可能になりました。従来は最もフルスペックの構成で購入していただくしかありませんでしたが、仕事量に合わせた最適なサイズで使っていただけるようになっています。

── オンラインでのクライアントとのやり取りはどうサポートしていますか?

星 「KODAK INSITE(インサイト)」というWebベースの校正システムとの連携が大きな柱になっています。印刷会社とそのクライアントをつなぐプレビュー・校正システムで、入稿データのプリフライトや、校正、承認状況をブラウザ上で管理できます。このインサイト上の承認状況がPRINERGYのアナリティクスと連携することで、どのクライアントのジョブがどの工程で滞留しているかを一元的に把握できる。管理者にとって非常に有効な情報になります。

── セキュリティの観点ではいかがでしょうか。

星 ここ数年、印刷業界でもランサムウェアの被害を耳にするようになってきました。クラウドであれば、システムが何らかの原因でダウンした場合にも、バックアップから速やかに復旧できます。クライアントとのデータのやり取りに使うシステムですから、稼働の継続性は非常に重要です。日本のお客様はセキュリティへの慎重さから、クラウド化にまだ踏み切れていないケースもありますが、コロナ禍以降、少しずつ意識が変わってきているのは感じています。

── PRINERGYで構築したワークフローは、最終的にCTPで版に出力されるわけですが、コダックのCTPセッターの特長はどこにありますか?

赤坂 最大の特長は「SQUARESPOT(スクエアスポット)」と呼ばれる独自のレーザー技術です。一般的なCTPセッターが採用する円形のレーザービームとは異なり、SQUARESPOTは正方形の均一な光点で版面を露光します。この違いがアミ点再現の精度に決定的な影響を与えています。

── 具体的にどのくらいの差があるのですか?

赤坂 他社のCTPセッターと比較して、アミ点の再現精度で明らかな差があります。たとえば50%のアミ点を指定すれば、限りなく50%に近い値で出力される。これが一見シンプルに聞こえるかもしれませんが、印刷工程全体で見ると非常に大きな意味を持ちます。アミ点の形状と大きさが安定していれば、ドットゲイン、つまりインキがプレートから紙に転移する際に網点が太る現象の挙動が予測可能になります。ドットゲインの管理精度が上がれば、刷り出し枚数、いわゆるヤレ紙の削減にも直結します。

── COLORFLOWとの連携も大きいわけですね。

赤坂 まさに。PRINERGYのCOLORFLOWで管理される色数値とCTPの出力値が信頼できるものになるのは、SQUARESPOTの精度があってこそです。逆に言えば、ここにブレがあると、後段のCOLORFLOWでの補正が追いつかなくなります。プリプレス全体をシステムとして考えたとき、CTPの精度はすべての土台です。

── 自動化という観点ではどうですか?

赤坂 CTPセッターはJDF/JMFでの運用にも対応していますから、MISとの連携によってプレートの出力枚数や版の状況を管理することができます。手差しタイプからパレット搬送型まで、自動化の度合いに応じた多様な構成を用意していますので、工場のレイアウトや仕事量に合わせて段階的に自動化を進めていただけます。

Trendsetter
MAGNUS Q800 プレートセッター

── 無処理プレートのSONORAについて教えてください。現像処理が不要というのは、現場にとってどれほど大きいことなのでしょうか?

赤坂 非常に大きいですね。現像という変動要因が工程から完全に取り除かれるわけですから。現像処理を行う場合、現像液の温度、濃度、補充量、処理機の状態といった複数の変動要因が最終的なプレートの品質に影響します。SONORAであれば、これら現像液に起因する変動要因が限りなく最小化されます。CTPで露光したものがそのまま印刷に使えますから、品質が極めて安定するのです。

SONORA XTRA

── ワークフロー全体への影響はどうですか?

赤坂 プレートの再出力や品質確認の工数が削減されますから、工程全体がスムーズに流れます。それだけでなく、自動現像機が不要になることでスペースが解放されて、CTPセッターを印刷機の近くに設置することが可能になります。機長が版を取りに来られる距離にCTPを置けるということは、工場内の動線設計が根本的に変わります。プレートを印刷機ごとに自動仕分けするコンベヤーシステムと組み合わせれば、プリプレスから印刷までの搬送を自動化することも視野に入ってきます。理想を言えばAGVで印刷機にまでのプレート搬送まで自動化します。

── SONORAの普及はどのくらい進んでいますか?

赤坂 コダック国内のプレート出荷に占めるSONORAの割合は、現在すでに約7割に達しています。世界的に見ても同様の傾向で、無処理プレートはもはや特別な選択肢ではなく、標準的な印刷材料として定着しつつあります。

現行のSONORAは、印刷適性で有処理版とほぼ同等の水準に達しています。耐刷性についても同様で、以前のような制約はほとんどなくなっています。視認性についても、他社製無処理プレートの約2倍という高い識別性を備えていますから、版の取り違えリスクを低減できる点も実運用上のポイントです。

── SQUARESPOTとSONORAの組み合わせは、ヤレ紙削減という観点でも有効なのでしょうか。

赤坂 おっしゃる通りです。SONORAは非常に着肉のよい版ですので、立ち上がりが早い。そこにSQUARESPOTで精度の高いアミ点が加わることで、刷り出しからの品質安定が早まります。環境をしっかり整えさえすれば、その効果は明確に出ます。

── 環境面でのメリットも大きいですね。

赤坂 現像液という化学薬品の使用・廃棄が不要になり、現像機を動かすための電力や水の消費も削減できます。サステナビリティへの対応が求められる今、無処理版は自動化のツールであると同時に、環境負荷低減の選択でもあります。国内の製造拠点が群馬県にありますので、日本市場特有の要求にきめ細かく対応できる体制が整っているのも強みです。

── 4つ目のソリューション、PROSPER Imprinting Systemについて教えてください。

赤坂 PROSPERは、オフセット印刷機の印刷ユニット間、あるいは排紙部にインラインで組み込む連続噴射型インクジェットヘッドです。最大の特長は、オフセット印刷機のスピードをまったく落とさずに、バリアブルデータ、つまり可変情報をワンパスで印刷できることです。

── 従来はどうやっていたのですか?

赤坂 カットシートのデジタル印刷機はスピードとコストの面で、まとまったロットのバリアブル印刷に対応することが難しいものがあります。PROSPER Imprinting Systemはオフセット印刷とハイブリッドで運用することで、大ロットのバリアブル印刷でスピード、コストの面で優位性を生み出せます。

PROSPER Imprinting System

── どんな用途に特に向いていますか?

赤坂 ナンバリング印刷、シリアルコード、宛名印刷、QRコードの個別化といった用途でPROSPERの能力は際立ちます。大量部数のバリアブル印刷というジャンルは確実に存在していて、そこにはオフセットの生産性とデジタルの個別化能力を組み合わせる必要があります。PROSPERはその組み合わせをワンパスで実現します。

── 既存の設備を活かせるというのも大きいですね。

赤坂 そこがPROSPERの本質的な意義だと思っています。オフセット印刷機を置き換えるのではなく、既存の機械をより価値あるものに変える。オフセット・アンド・デジタル、この組み合わせが提供できる付加価値は非常に大きいといえます。

── 改めて、4つのソリューションが連携することの意味を聞かせてください。

赤坂 PRINERGYのCOLORFLOWがあるから、CTPのSQUARESPOTの精度が活きる。CTPが安定しているから、SONORAが持つ品質安定性をフルに引き出せる。プリプレスから版材までが一貫したコダックのエコシステムの中に収まっているからこそ、全体の品質管理を一元化できます。

── 自動化を進める際の心構えというか、注意点はありますか?

星 よく「すべての仕事を一気に自動化したい」とおっしゃるお客様がいらっしゃいますが、それではなかなか最初の一歩が踏み出せません。例外処理が多すぎて、かえって複雑になってしまうからです。大切なのは、まず定型化できるジョブから自動化のルートに乗せることです。最初は全体の2割、3割で構わないと思います。そこから少しずつ比率を上げていく。着実に成果が出るのは、そういうアプローチです。

── 営業段階からの意識も必要そうですね。

星 もちろんです。自動化に載せられる形での仕事の取り方を、営業段階から意識していただくことが前提になります。どのような強力なシステムも、入ってくるデータがバラバラであれば自動化はできません。仕事の入り口から整えていくことが、スマートファクトリー実現への近道だと思っています。

── 最後に、読者の皆さんへメッセージをお願いします。

赤坂 人材不足もコスト高騰も、今後さらに厳しくなることはあっても、緩和される見通しはなかなか見えません。だからこそ、今から取り組みを始めていただきたいのです。完全な自動化でなくてもいい。できるところから一歩踏み出すことが重要です。コダックには、その一歩をサポートする4つのソリューションが揃っています。

星 PRINERGYのクラウド化にしても、アナリティクスにしても、ツール自体は以前から存在していました。でも今、印刷業界全体がその必要性を実感し始めているタイミングだと感じています。ぜひ一度、私たちにご相談いただければと思います。工場全体の自動化のロードマップを一緒に描いていきましょう。

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