中小企業庁 2026年版【中小企業白書】発表、賃上げ30年ぶり高水準も4割が「業績改善なき賃上げ」 現状維持は最大のリスク、「稼ぐ力」を高め「強い中小企業」へ

中小企業庁は、「2026年版中小企業白書」を発表している。それによると約30年ぶりの高水準が続く賃上げの一方で、大企業との格差は依然大きく、少子高齢化による「労働供給制約社会」の到来が中小企業の経営を直撃しつつある。白書は「現状維持は最大のリスク」と断言し、価格転嫁の推進やAI活用、M&Aを通じた「稼ぐ力」の強化を中小企業に強く促している。概要を紹介する。

賃上げ水準は約30年ぶりの高さ

春季労使交渉において約30年ぶりの高い賃上げ水準が続いていることが確認された一方、大企業と比べた中小企業の賃上げ余力の厳しさが浮き彫りになった。日本経済の成長にとって、中小企業の持続的な賃上げの実現は極めて重要だが、大企業と比較して中小企業の賃上げ余力は厳しいため、更なる賃上げ原資の確保が課題となる。

中小企業では業績の改善をきっかけとしない賃上げを行う企業の割合が4割を超えており、賃上げを実施した企業のうちの過半数を占めていることが確認されている。

また「消費者態度指数」は伸び悩んでいる。「強い経済」の実現に向けて実質賃金プラスを定着させ、消費を喚起することが必要といえる。

中小企業における賃上げの実施状況

中小企業の雇用者数は減少へ

賃上げ問題と並んで白書が強く警鐘を鳴らすのが、構造的な人手不足の深刻化だ。

2010年代以降多くの業種において人手不足感は強まっている。一定の試算に基づけば、労働供給制約社会の到来に伴い、中小企業の雇用者数は減少が見込まれることから、人手不足は更に深刻になるおそれがある。

業種別の人手不足感を見ると、特に「建設業」「運輸業、郵便業」「情報通信業」などにおいて不足感が強いことが分かる。また、中小企業においては「専門的・技術的職業従事者」「サービス職業従事者」が不足している割合が高い。

戦略なき経営に警告

白書の第2部では冒頭、「こうした経営環境の転換期にある中で、現状維持は最大のリスクといえるだろう。短期的な損益を追うのではなく、長期的な視点で事業構造・組織構造を再構築していく『戦略』を持った経営に転換し、『稼ぐ力』を高め、『強い中小企業』へと成長することが重要である」ときわめて強い言葉で中小企業に変革を促している。

「稼ぐ力」=労働生産性の向上

白書では「稼ぐ力」を付加価値を生み出す力と定義した上で、「労働供給制約社会の中で、労働投入量の減少が見込まれる我が国においては、付加価値額を維持・増加させるために、労働投入量当たりのパフォーマンスを示す『労働生産性』の向上が不可欠である」と論じている。

中小企業の時間当たり労働生産性は上昇傾向にある。一人当たり労働時間は減少しつつも、付加価値額が増加していることから、時間当たり労働生産性もともに上昇傾向にある。

中小企業の付加価値額の推移
中小企業の一社当たり付加価値額の推移

その要因として、直近の期間において労働投入量(総労働時間)の増加を上回るペースで付加価値額が増加していることが確認されている。また、大企業と遜色ない労働生産性を誇る中小企業も存在している。

コスト上昇を価格に転換できない実態

白書が「稼ぐ力」強化の第一の手段として挙げるのが価格転嫁の推進だ。

景況調査を用いて中小企業・小規模事業者の売上単価DI、原材料・商品仕入単価DI、採算DIの推移を見ると、「原材料・商品仕入単価DI」が「売上単価DI」を大きく上回っており、コストの上昇分を製品・商品・サービスの販売価格に十分に転嫁できない状況が続いていることが分かる。

クラウド活用は進むが転嫁は不十分

企業規模別に従業者一人当たり情報処理・通信費の推移を見ると、「中小企業」の情報処理・通信費が近年増加していることが分かる。その増加内訳を見ると「クラウドサービス使用料」が増加しており、中小企業では資産計上されないクラウドサービスの活用が進んでいることが示唆される。

M&A、約7割が「検討したことない」

白書では、事業承継・M&A(買収)による事業再編も付加価値額増加の有効な手段としている。

しかし2015年以降でM&Aを実施したことがない事業者に対して買収を検討する上での問題点を確認したところ、約7割の事業者が「買収を検討したことはない」と回答していることが分かった。検討したことがある事業者が挙げる問題点としては、「買収候補先の探索や選定の難しさ」の割合が最も高く、次いで「買収資金の負担」「買収判断に必要な情報の不足」が続いている。

またPMI(M&A成立後の統合プロセス全般)の取組状況を確認したところ、「大いに取り組んでいる」「ある程度取り組んでいる」と回答した事業者は約4割にとどまっていることも明らかになった。

M&A(買収)を検討する上での問題点

AI活用、8割が業務時間の節減

「稼ぐ力」強化のもう一つの柱がAI活用・デジタル化による「労働投入量の最適化」だ。

省力化投資のうちAIを活用する目的について調査した結果、「業務時間の節減」と回答した事業者が8割を超えており、「人手不足の解消」「業務の属人化解消」と続いていることが確認された。これは、労働投入量を最適化する目的でAIを活用している可能性が示唆される。

AIの具体的な活用方法について自由回答をテキスト分析し業種別にヒートマップ形式で示したところ、いずれの業種においても「文書作成、要約、校正」「業務自動化・効率化(RPA含む)」に関連する回答が多い傾向があることが分かった。また「情報通信業」では「プログラミング、コーディング支援」、「小売業」では「広告、マーケティング、販促」に関連する回答が他業種に比べて高いことが見て取れた。

ITツール活用に約7割が取り組む

省力化投資のうちITツール活用の取組状況を確認したところ、「全体」では約7割の事業者がITツール活用に取り組んでいることが分かった。業種別に見ると「情報通信業」では取り組んだ割合が高い一方、「製造業」は取り組んだ割合が比較的低いことが分かった。

中小企業が導入しているITツール・サービスを確認したところ、「クラウド会計・給与計算」と回答する割合が最も高く、「勤怠管理・シフト作成ツール」「電子契約・電子請求書」と続いている。

省力化投資のうち、AI活用の取組状況(業種別)

先行研究によると、日本の企業が米国やドイツに比べDXの成果創出に至っていない要因の一つとして、社内の経営層・IT部門・事業部門の部門間連携が弱く、全社的な視点ではなく個別の業務プロセスを改善する「部分最適」にとどまる傾向があることが指摘されている。ITツール活用においては社内の部門間で適切に連携し社内での全体最適を目指すことが重要であると示唆される。

経営計画と進捗管理で付加価値向上

白書の第2部第2章では、経営計画の策定・実行管理も付加価値額増加に寄与することが確認されている。

経営計画の進捗管理・評価、見直しの実施状況別に付加価値額の変化率(中央値)を確認したところ、「計画の進捗管理・評価と計画の見直しを行っている」「計画の進捗管理・評価のみ行っている」「どちらも行っていない」の順で付加価値額の変化率(中央値)が高いことが分かった。

経営計画の進捗管理・評価、見直しの実施状況

原価管理の徹底で価格設定最適化

価格転嫁を実現する上で原価管理の徹底も重要な課題として指摘している。
原価管理によって得られた効果を確認したところ、「価格設定の最適化」と回答した割合が最も高く、次いで「予算管理の精度向上」「従業員のコスト意識向上」と続いていることが分かった。

一方で原価を「把握していない」事業者に対してその理由を確認したところ、「原価の把握は不要と判断している」事業者が17.9%存在していることが分かった。それ以外の事業者では「データが整備できていない」が最も高く、次いで「業務多忙で時間がない」「専門人材が不足している」と続いていることが確認された。

転職者は仕事内容重視の傾向強まる

労働供給制約社会において人材確保は中小企業の最重要経営課題の一つとなっている。

中小企業への入職理由について前職の企業規模別に確認したところ、「大企業から中小企業」「中小企業から中小企業」ともに2014年と比較して2023年では「仕事の内容に興味があった」の割合が上昇している一方、「とにかく仕事に就きたかった」の割合が低下していることが見て取れる。足下の人材不足感が強まる中で、転職者において仕事の内容を重視する度合いが高まっている。

中小企業への入職者の求職活動におけるインターネット利用状況(年代別)

また入職者の求職活動におけるインターネット利用状況を年代別に確認したところ、「50歳代以上」を除く各年代で「インターネットは利用しなかった」と回答した割合は約2〜3割にとどまっており、求人サイトや自社ホームページの充実化を進め求職者へのアプローチを行うことが重要となる。

中小企業への転職入職者の入職経路を確認したところ、「20歳代」「30歳代」では「広告(求人情報誌・インターネット等も含む)」と「安定所(ハローワーク)」の回答割合が同程度であるのに対し、40歳代以上では「広告」より「安定所(ハローワーク)」の回答が多いことが見て取れる。年代によって有効な採用チャネルが異なることが示されており、年代に合わせた採用戦略の重要性が示唆される。

付加価値額増加と労働投入量最適化

中小企業庁は「特に、価格転嫁の推進、成長投資による製品・商品・サービスの高付加価値化、事業承継・M&Aによる事業再編をはじめとした『付加価値額の増加』と、AI活用・デジタル化の促進による『労働投入量の最適化』に取り組むことが重要である。実際にこれらに取り組む企業は、取り組んでいない企業と比較して、付加価値額増加や労働投入量最適化を実現していることが確認できた」と方向性を明示している。

2026年版「中小企業白書」

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