昇文堂 専務取締役・田中千佳子氏に聞く、カードづくりで広がるグッズと販促の可能性 田中紙工と「Card Game Factory」で業務提携、技術を結集し高品質を実現

トランプやカードゲームなど、企画から印刷・加工まで一貫して手がける株式会社昇文堂。明治時代に創業し、120年以上にわたって印刷技術を磨いてきた同社はいま、カードづくりを通して新しい形のグッズやコミュニケーションを提案している。専務取締役・田中千佳子氏は、「私たちの仕事はサービス業です」と語り、協力会社や顧客に寄り添う姿勢を大切にしている。その想いと、カードの可能性を広げる取り組みを聞いた。

昇文堂は、1899(明治32)年に石版印刷業として創業。時代の変化に対応しながら印刷技術を磨き続け、120年を超える歴史を誇る。現在は、オリジナルトランプの製作やカードゲーム、パズルなどを印刷から加工までをワンストップで手がけている。

印刷の美しさはもとより、紙の質感、裁断・加工の精度は0.1mm単位で調整され、世界でも通用するクオリティを提供している。独自に開発したニスはトランプに欠かせない滑らかな手触りと扱いやすさを実現し、こうした技術へのこだわりこそが昇文堂の強みであり、田中紙工をはじめとする協力会社との長年にわたる連携で培われている。
取引先は、カードゲーム・トランプのメーカーをはじめ、地方自治体、博物館、学校、企業など多岐にわたり、トランプやカード以外にも、ジグソーパズル、コースター、ステッカーなど、印刷の可能性を拡張した製品も展開している。

田中千佳子氏
昇文堂の手がけるトランプやカードゲーム

昇文堂に転機をもたらしたのが、株式会社田中紙工との出会いだった。カード加工で高い技術を持つ田中紙工と昇文堂が2010年に「Card Game Factory(カードゲームファクトリー)」事業の立ち上げで業務提携した。「カードゲームファクトリー」はトランプやカルタ、カードゲーム、トレーディングカードなど、カード関連製品をオリジナルで提供。両社の技術を結集し、企画から製造まで高品質なカードづくりを実現している。

さらに2018年に田中紙工の田中眞文社長が、後継者がいなかった昇文堂から事業を譲渡され、同社の代表に就任。両社は別法人として経営を行いながら、技術と信頼を補完し合い、カード製作において強固な連携を築いている。

専務取締役の田中千佳子氏が経営に関わるようになって以降、昇文堂は営業活動やブランディングの面でも大きく変化した。
「私たちの仕事は“サービス業”です。お客様や協力会社との関係を何より大切にしています」と田中氏は語る。

コロナ禍前はマジック用品が主力だったが、コロナ以降はタロット・オラクルカードなど占い系カードの需要が急増。スピリチュアル分野の顧客は要望が細かいことも多いが、昇文堂では一つひとつの依頼に丁寧に対応し、寄り添う姿勢で信頼を築いている。

また、秋葉原の本社1階をリフォームし、印刷現場が外からも見えるように工夫。以前は暗く閉ざされた印象だったが、ポスター掲示やデザイン演出により、道行く人にも「カードを作っている会社」と認識されるようになった。

昇文堂社屋

田中千佳子氏の主導でスタートしたのが昇文堂オリジナルブランド。2022年度グッドデザイン賞を受賞した知育カードゲーム「SAi」は、右脳を刺激し、色彩感覚や創造性を育む新感覚の知育ツールとして高く評価された。

自社商品を開発することで、営業ツールとしてサンプルに活用できるだけでなく、エンドユーザーに直接届ける機会も生まれた。こうした取り組みが、顧客との新たな接点づくりにもつながっている。

さらに初のロゴライセンス商品として、大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』のロゴを使用した「江戸トランプ」を制作。蔦屋重三郎ゆかりの地・千代田区から“江戸文化の粋”を発信している。

2022年度グッドデザイン賞受賞「SAi」

最近では、難病と闘う作家・あずけろ氏と共同で、新作カードゲーム「かえるた」を開発した。「かえるた」は、カエルをモチーフにした図鑑のようなカルタで、遊びながら自然やアート、知識に触れられる新感覚の知育カードゲームとなっている。筋拘縮型エーラス・ダンロス症候群と周期性発熱という難病を抱えながら創作活動を続けるあずけろ氏が、独自の視点で描いたカエルたちは、繊細で生命力にあふれ、カード1枚ごとに異なる表情を見せる。プレイヤーはカルタとして遊びながら、多様なカエルの特徴や生態を自然と学ぶことができ、子どもから大人まで世代を超えて楽しめる。その世界観と優しい色彩は、教育や福祉、アートの分野などでも活用の可能性を秘めている。

新作カードゲーム「かえるた」

昇文堂の強みは、カード製作に特化した小ロット対応と高品質な仕上がり。田中紙工との連携により、カードゲームやトランプの製造力は業界トップクラスを誇る。

同社はオンデマンド印刷も活用し、1~300部といった小ロットでもトランプ製作が可能。大ロット生産を前提としている同業他社では対応が難しいこの工程を、印刷から加工まで一貫した体制と、精密な調整技術が可能にしている。

トランプ製作は、ただ印刷してカットするだけではない。表裏の位置ズレが許されない両面印刷や、透け防止のための専用紙の使用など、特殊な製造工程が多く設備負担も大きい。さらに、54枚すべてのデザインが異なるため、データ処理や面付け、丁合にも高度なノウハウが求められる。昇文堂では、田中紙工をはじめとする協力会社との連携のもと、こうした難易度の高い工程を確かな品質でこなしている。

昇文堂の会社案内

近年では、ホテル向け宿泊客プレゼント用トランプや、アーティストのコンサートグッズ、推し活向けカードなど多様なニーズにも対応。販促用グッズとしても「手元に残る印刷物」としてトランプの価値を提案している。

「トランプは54枚のカードにたくさんの情報を込められ、遊ぶことで自然に広告効果が広がる」と田中氏は語る。文房具など他のノベルティよりも手元に残りやすく、54枚それぞれに情報やデザインを載せられるため、広告としての情報量は豊富。遊びながら企業や地域の魅力に触れられる体験型のPRツールとして、「遊べる広告」の形を提案している。

「アナログゲームは決して廃れません。カードは人と人とをつなぐコミュニケーションのきっかけになる。私たちはメイド・イン・ジャパンの品質と、日本の印刷技術の誇りを世界に発信していきたい」と田中氏は想いを述べた。120年を超える歴史を礎に、新たなグッズづくりで未来へと歩み続ける昇文堂。カードという小さな紙片の中に、ものづくりの誇りとサービス精神が息づいている。

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