栄光 グッズビジネスが事業の柱に向けて成長中、特殊印刷・特殊加工を駆使し、同人作家・クリエイター・法人の需要を取り込む
同人誌印刷会社の株式会社栄光(広島県福山市)は、特殊印刷・加工のノウハウを活かし、独自性の高いグッズ印刷サービスや、自社オリジナルグッズの製造・販売に力を入れている。UVインクジェットプリンターやレーザー加工機などの製造設備を保有していたものの、主力の同人誌印刷が好調だったため、グッズ需要の開拓にまで手が回らない状態が続いていたが、2020年以降のコロナ禍でこの領域を強化。今では同人誌印刷に続く事業の柱に成長しつつある。
栄光のオリジナル商品が注目されるきっかけとなったのが、2020年に制作・販売した『栄光 特殊装丁本 2020』だった。23種類の特殊印刷・加工のサンプルを一冊にまとめたもので、Webサイトで販売したところ、初版1,000部が90分で完売した。これが話題を呼び、増刷を重ねて合計6,000冊を発行するヒット商品となった。
同時期にはiPad用の木製テーブルを開発した。iPadによる創作活動時に、テーブルの角度と手の置き場をつけ、首や肩にかかる負担を軽減させるもので、レーザー加工機で加工した。2020年5月1日に50個を先行発売したところ即日完売。1ヵ月で2,000個が売れて生産調整が必要なほどだった。
iPadテーブルを開発した同社企画開発部の𠮷村昭二部長は、「自分たちが使って便利な物を出したところ、世の中に思った以上に受け入れられました」と振り返る。2021年に新人の女性社員が開発した「ぬいハウス」も想定以上の反響を受けた。キャラクターグッズ(ぬいドール)を入れて飾るためのボックスで、定番商品の一つに成長している。営業推進部の今川亮部長は「開発当初は理解されず、誰も売れると考えていなかったですね。社員の欲しいという想いから始まった商品です」と述べる。
そのバックには2万1,000人のXのフォロワーが付いている。開発した商品をアップするとおおよその需要が予測できる。iPadテーブルの開発当初にXを利用したアンケートにはフォロワー数を超える約6万票が集まった。回答のうち「欲しい」が34.5%、「お値段次第で検討」が33.7%で、「ほしくない」がわずか1.7%。商品化するための明確な目安があるのは大きな強みとなる。
そのiPadテーブルをはじめとする木製グッズはその後、栄光が提供する商材に大きなアドバンテージをもたらすことになる。
2.5次元表現の世界観
グッズの売上構成比は10~20%程度だが、ほぼゼロの状態から数年で急成長している。自社オリジナル商品に加えて、同人関連需要のグッズ、IP(知的財産)系のグッズの制作が増加。主にアクリル系が多く、小型のUVインクジェットプリンターだけで需要に対応しきれなくなりつつあった。2025年3月、swissQprintの大型UVインクジェットプリンター『Impala5』を導入し、生産増強を図った。
「基本は小ロットで多品種なのですが、5,000個ぐらいのロットが一気に入ると他の仕事が入れられない状況になります。Impala5を導入したのは生産力の強化が目的の一つでした。高速印刷の恩恵は大きいですね」(𠮷村部長)。その一方で、『Impala5』の特徴である高彩度印刷と盛り上げ印刷による新しい商材開発にも目を向けている。
盛り上げ印刷はインクを積層して立体的に表現する手法で、油絵調のように独特の風合いを得ることができる。イラストにこの手法を利用することで、今までにない世界観を演出することができる。
「当社では2.5次元と呼んでいます。私たちのお客様の多くがクリエイターで、個展を開きたいという方たちも少なくありません。こうした表現ができることを知って頂ければ色々なアイデアが生まれてくると思います」(今川部長)。新しいイラスト表現のほかにも、ワイドフォーマットの特徴を活かした等身大のグッズやパネルも想定している。
独特の表現手法はニス加工と箔加工を可能にしたコニカミノルタの『AccurioShine 3600+iFoil One』でも広がりを見せている。特殊装丁本の発行以来、“栄光=特殊印刷・特殊加工”というイメージが浸透した。とくにメタリック系の需要が伸びており、新たな表現手法を求める同人作家やクリエイターに支持を受けている。
『AccurioShine 3600+iFoil One』については、近年、同人誌の表紙やカードグッズに利用されるアルミ蒸着紙に加えて、角度によって色が変わる偏光紙ノスタルジー メランコリーにも対応している。
“木+アクリル”グッズ
グッズなどにそうした特殊印刷や特殊加工が求められるのは、「アクリルに印刷ができます、缶バッジができますというのが一回りしてしまい、できて当たり前になりつつあります。“何か変ったもの”を求められ始めています」(今川部長)という市場の変化がある。問い合わせや引き合いが増えているのは“木”。透明感のあるアクリルに加えて、温かみのある木製のグッズに着目するクライアントが増えている。
同社ではiPadテーブルの開発以前から、表紙に木材を採用した御朱印長など木製グッズを販売している。2019年には木製グッズを中心としたハンドメイドショップ『moku×moku』を開設。UVインクジェットプリンターやレーザー加工機などを駆使したグッズを提供してきた。
木製のグッズは、キャラクターライセンスを持つ大手出版社をはじめ、グッズメーカー、イベント会社、バイヤー、販売代理店などから受注。さらに栄光独自といえるアクリルと木材のハイブリッド製品が注目を浴びているという。例えば、アクリル+木材の御守りは実際に神社で販売されている。寺社仏閣専門の商社からのオファーで制作したもので、国内外の観光客や参拝者などの販売量が伸びている。
同社ではイベント開催が制限されて同人誌需要が一気に落ち込んだコロナ禍で、グッズビジネスの準備を進めてきた。同人誌需要がコロナ禍を上回った現在、グッズがもう一つの土台として順調に成長を続けている。
「オリジナルグッズを作っても、ヒット商品にするには高いハードルがあると思います。同人作家さんやクリエイターさんというお客様がベースになっているのは本当にありがたいことで、これから通販サイトも含めてオリジナル商品を展開をしていきたいと考えています」(今川部長)
同人誌印刷・グッズの栄光https://www.eikou.com/
moku×moku https://moku-moku.shop/
法人向けグッズご相談窓口ビジネスデスク https://business.eikou.com/






