アイワード 石狩工場 製本部門をスマート化、データ連携で生産性・付加価値向上へ

厚物製本の瞬発力を向上

 株式会社アイワード(北海道札幌市/奥山敏康代表取締役社長)は、ミューラー・マルティニ社製のPUR・ホットメルト無線綴じライン『アレグロ』30鞍、中綴じ製本ライン『プリメーラ』6鞍の導入を機に、製本ワークフローシステム『コネックス』と連携した製本工程のスマート化に着手した。既設機のPUR・ホットメルト糊綴じライン『ボレロ』21鞍、中綴じ製本ライン『ブラボプラス』8鞍もコネックスに接続。これによりリアルタイムで各製本ラインの稼動状況の把握と記録が可能になった。今後は生産管理システム『プリネクト』(ハイデルベルグ社製)を通してMIS(経営情報システム)のプリントサピエンス(JSPIRITS社製)に稼動情報を集積して実原価算出の自動化を図っていく。

ミューラー・マルティニのアレグロとコネックスを中心にスマート化

 

専門書籍のニーズ見据える

 同社は1965年、「北海道共同軽印刷」として創業して以来、〝本づくり〟の技術を磨きながら、専門出版社や大学、企業をはじめとする顧客のニーズに応えている。従業員は約240名。札幌市に本社、札幌工場と東京都千代田区に東京営業部、石狩市に主力生産拠点の石狩工場を構える。敷地5,000坪、2,850坪の工場内にはB全判8色両面兼用印刷機2台、B全判7色印刷機1台、菊全判8色両面兼用印刷機1台、菊全判4色両面兼用印刷機1台、菊四裁判4色印刷機1台、B半裁判カラーオフセット輪転機の印刷機が稼動している。

 1985年には業界に先駆けて『文字情報処理システム』に着手。文字組版の自動化とデータベース化により、プリプレス工程の生産を向上するとともに、顧客にデータ資産の活用という新たな価値提供に乗り出した。その後も各工程で様々な自動化を進め、2017年からはハイデルベルグ社のAIを搭載した『XL106‐8P』の導入を機に、石狩工場のスマートファクトリー化に取り組んでいる。

 一方、2005年には高精細7色のスーパーファインカラー技術を確立。その後、高色域インキのワイドカラー、広演色インキのカレイドによる高精細印刷技術を取り入れ、高精細カラー印刷技術を高めてきた。その結果、美術館の図録や、医学書の図版、写真集の画像などの再現性が顧客から高い評価を得ている。

 同社の奥山敏康社長は「業界全体の市場が縮小する中で、専門出版物に対象の領域を絞り込んできました。そのために薄紙への両面カラー印刷と8cmの厚物製本、そして高精細カラー印刷の技術を磨き、これらを当たり前のように内製化し、お客様の期待に応えていきたいと考えています」と述べる。また、「都内の専門出版社の業務に応えていくことが第一の課題です。出版市場は全体的に減少していますが、人間が社会で活動している限り、書籍はなくなりません。とくに医療や教育の分野ではこれからも出版物が必要です。高齢化社会となり、医療と福祉の人材育成のニーズが高まっています。また、医療と福祉がボーダーレスとなり、新たな学問領域に関する書籍のオーダーも増えています」と市場を分析する。そうした顧客や商品の集中と選択の中で、設備戦略も密接にかかわってくる。

 専門書はコンテンツづくりに長い時間がかけられるが、学会の開催日、教科書の配布日など発行する日は変えられない。その限られた期間の中で集中し、安定した製品を生産することが、市場のニーズを取り込む鍵になる。石狩工場のスマートファクトリー化には、機械単体の自動化以外にも、工場内の情報や資材・仕掛品の流通や工程間の効率化、自動化により瞬発的な生産力を高める狙いがある。

 「当社の昭和の時代は自動化に向けた環境整備を進めました。平成時代に本づくりの各種要素技術を開発し、単体での自動化を進めました。令和ではそれらがつながっていく時代です。まず社内がつながり、その後、お客様とつながっていくという構想です」(奥山社長)。そうした展望の下、2017年の印刷工程に続き、今回、ポストプレス工程のスマート化に踏み込む。

ハイデルベルグのシステムを中心にスマート化が進む石狩工場の印刷部門

アレグロ・ボレロの両軸で

生産管理・MISとデータ連携へ

 現在、石狩工場のポストプレス部門では、機械稼働情報の収集と可視化、分析、機械への情報伝達などを司るコネックスに、無線綴じラインのアレグロ、ボレロ、中綴じラインのプリメーラMC、ブラボプラスが接続している。今まではオペレータが手で入力していた作業日報から、着手・完了時間や、準備時間、トラブルなどを把握し、機械稼動率や時間原価などを割り出していた。コネックスによりそれらが自動化され、瞬時に機械の稼動情報が可視化される。今年1月からは生産を管理するプリネクトと、経営情報システムのプリントサピエンスとつながり、リアルタイムで社内全体への進捗状況の共有化、経営情報への反映、稼動状況からの改善を目指していく。

 「製本は作業者の勘と経験がものをいう工程でもあります。20年以上活躍してきたコロナラインなどを切り替える必要があり、今回、無線綴じラインも中綴じラインも集約化して、勘と経験に頼らないスマート化の方向に作り替える良いタイミングとなりました」(奥山社長)

 アレグロとプリメーラの導入に際しては、ミューラー・マルティニ ジャパンの助言を受けながら工場のレイアウトと動線も見直した。同時に無線綴じ機と中綴じ機のオペレータの異動で、両ラインが操作できる人員を増やし、繁忙期や突発的な欠勤などでも工場がスムーズに稼動するよう配置転換を試みた。“勘と経験”だけに頼らずに稼動できるラインとなったことで、「管理者は大変だったと思いますが、オペレータは新鮮な気持ちで機械を動かしてくれています」(奥山社長)と、生産体制のフレキシビリティさが増した。

 無線綴じラインにアレグロを選択した理由について奥山社長は、稼動実績という信頼性に加え、ボレロとの連携を挙げている。従来の無線綴じラインはホットメルト製本のみで、かつ厚物製本時の仮綴じの方法がボレロと異なっていた。このため、PUR製本や厚物製本が集中するとボレロの負担が増え、ボトルネックが生じることもあった。

 アレグロはPUR・ホットメルト兼用で、ボレロと同仕様の製本加工が可能となっている。かつ、今回、アレグロ、ボレロともにブックブロックフィーダーを装着し、仮綴じしたブックブロックの投入を自動化している。これにより厚物製本、PUR製本の瞬発力が高まった。

 「5,000冊のオーダーでも仮綴じに3回を要したら1万5,000通しです。30鞍のアレグロと21鞍のボレロの2台で一気に仮綴じし、ブックブロックフィーダーに投入すれば製本時間は大幅に短縮できます」(奥山社長)

 アレグロについて橋本宏司製本2部部長は、「アレグロはモーションコントロールにより、各ユニットが単独で駆動します。セッティングが早くなり、準備時間の短縮と小ロット対応の強化が図れています。また、アジールバーコードにより生産管理、品質管理が可能です。まさにスマートな製本ラインといえます」と評価。加えてブックブロックフィーダーについても「今まで手投げでブックブロックを投入していましたが、自動化され、生産性が一層向上すると期待しています」と述べている。

 同社の製本工程のスマート化は着手されたばかりだが、今後、プリントサピエンスやプリネクトと、コネックスのデータ連携が進めば、今まで気づいていなかった改善点も浮上してくる可能性がある。奥山社長は今年、オペレータをはじめ、現場の意見を聞きながら着実に歩を進める意向である。

製本2部 部長の橋本宏司氏

顧客との関係を変えるDX

ひと文字に想いを込める

 ポストプレス部門に続いて今後は、営業やデータ加工、校正などの前工程のスマート化を見据える。文字組版をはじめ、一つひとつの要素技術の自動化は確立されており、それらをつないでいくことが課題となっている。

 とくに営業戦略として、同社では専門書籍の製造という役割から、総合的な顧客サポートの強化を目指している。例えば、教科書出版社の電子教科書との連携、教師用の教本、教育委員会向けプレゼン用カタログなど、周辺領域まで手掛けることで顧客の利便性を高める。美術館であれば所蔵する作品のデータベース化や、そこから派生する関連サービス、商品の提供である。

 奥山社長は「リモート会議などのDXも良いのですが、それだけでは道具の範囲にとどまります。お客様との関係性を変えるDXがこれから必要です。品質面や価格面での競争ではなく、バックヤードを強化してお客様のニーズを包み込む力を持つことです。そこに向かって努力していけば、取引先という関係にとどまらない、パートナーシップを築ける可能性が高められると思います」とスマート化の先にあるDXを位置付ける。その土台になっているのが、「一文字一文字手間暇かけてきちんとした本を作るためのスマートなワークフローを作っていくのが私たちの使命です。出来上がった本を10年、50年と使っていただけるモノづくりを目指します」というミッションである。

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