【ニュープリネット:2026年経営課題アンケート】2026年をどう見る? 転換期を迎える印刷産業、人材確保・AI活用・資材価格高騰などによる市場見通しをアンケートから読み解く
ニュープリンティング株式会社は2025年12月19日、2026年の印刷業界のアウトラインを明らかにすべく、印刷業の経営者を対象に、2026年の予測と経営課題に対するアンケートを実施した。
ここ数年間で事業環境が劇的に変化している。加速する印刷需要の減少と資材高に加えて、デジタル化の急速な浸透により、「印刷の在り方」「仕事の在り方」はまったく新しいものになるかもしれない。そんな中で、印刷会社の経営者たちは市場と社会の変化をどう予測し、経営判断を下しているのだろうか。NEWPRINETではアンケートの結果を紹介する。
市場予測と経営戦略
- Q1.2026年の印刷産業全体の市場規模はどう推移すると予想しますか?
- 本設問に対し、「縮小する」が45・5%と最も多く、次いで「やや縮小する」が39・4%となった。一方、「横ばい」は9・1%にとどまり、「やや拡大する」は6.1%、「拡大する」は0%であった。全体として、約8割超が市場の縮小を見込んでいる結果となっている。
- Q2.2026年に貴社が直面するであろう課題をお聞きします(複数回答)
- 本設問に対し、最も多かったのは「エネルギー・材料費の高騰」で72・7%となった。次いで「売り上げ・仕事の減少」が60・6%、「人手不足」が36・4%と続いている。
- このほか、「価格競争の激化」が27・3%、「後継者・事業継承の問題」が24・2%、となった。コスト高と需要減という二重の圧力の中で、人材確保や事業承継といった構造的課題への対応も同時に求められている。

- Q3.2026年に貴社が注力する経営戦略は何ですか?(複数回答)
- 本設問に対し、最も多かったのは「販促・マーケティング支援事業」で51・5%となった。次いで、「設備投資」と「地域密着型・地域活性化」がともに30・3%で並んだ。全体として、印刷需要の拡大が見込みにくい中で、付加価値創出と顧客支援型ビジネスへのシフトが、2026年に向けた重要な経営テーマとなっている。

人材確保と育成
- Q4.貴社が実施している人材確保に対する取り組みを答えてください(複数回答)
- 本設問に対し、最も多かったのは「働きやすさ改善(勤務時間の見直し・休暇制度の充実など)」で51・5%となった。次いで、「新卒・中途採用の強化」が42・4%、「生産環境の自動化・省人化」が30・3%と続いた。人材不足が慢性化する中、採用と定着、省人化投資を組み合わせた複合的な対策が、今後ますます重要になる。

- Q5.貴社が実施している人材育成の取り組みを答えてください(複数回答)
- 本設問に対し、最も多かったのは「OJTを中心とした現場教育(先輩社員による指導、段階的な作業習熟など)」で59・4%となった。次いで、「外部研修・セミナーの受講(メーカー研修、業界団体研修など)」が43・8%、「生産設備のスキルレス化」が34・4%と続いた。
- 社外の知見を取り入れる取り組みと並行して、属人化の解消を目的とする設備改善の動きが見て取れる。

AI活用の状況
- Q7.既に貴社がAIを活用している業務を答えてください
- 本設問に対しては「営業・マーケティング」と「企画・デザイン」が69・2%で同率一位。次いで「マネジメント(管理)」が23・1%と第二位という結果になった。

- Q8.今後、AIによって効率化したい業務を答えてください(複数回答)
- 本設問に対しては「営業・マーケティング」が68・8%で最多、次いで「企画・デザイン」が65・6%となった。そのほか、「マネジメント(管理)」が56・3%、「総務・経理」が53・1%となった。

印刷業界への要望
印刷業界への要望については自由回答が多く寄せられている。印刷産業の再定義と価値向上を求める声が多く寄せられた。紙に刷ることにとどまらず、「情報伝達」「保存」「販促」といった本来的な役割を基点に、他業界との協業や共創による事業領域拡大を目指すべきだとの意見が目立った。また、AIやデジタル技術を活かした新たなビジネスモデルの創出、編集力や提案力といった非価格価値で選ばれる産業への転換を求める声が強い。さらに、価格競争の過熱が産業全体の体力を奪うとの懸念も示され、地域や異業種との連携を通じて価値創造を図る必要性が指摘された。
一方で、紙の良さを見極めて伸ばすべき領域の存在を挙げる意見もあった。印刷物が持つ体験価値—質感や佇まい、記憶に残る物質性—に可能性を見出す声も多く、印刷だからこそ生み出せる価値を再確認することの重要性が共有された。また、小規模事業者の厳しい状況を踏まえ、行政や他産業と連携した支援策の必要性も指摘された。全体を通じ、印刷産業の未来を切り開くには、共創による価値づくりと、業界全体の意識改革が不可欠だとの認識が示された。
以下に、「印刷業界への要望」に対する回答の一覧を掲載する。
- ・事業領域拡大への協業
・自社やパートナーの設備やノウハウ含めた共創産業への取り組みは不可欠
・技術の転用 - ・業界の価値向上と社会的なは支援の強化
・業界外への印刷魅力発信、知ってもらう事が必須であり大事ではないかと思います。 - ・印刷に携わってきた中小零細会社が、印刷×AIによる新しいビジネスモデルを生み出せたらと思います。
- ・印刷産業の再定義が必要。紙に刷るだけではなく、本来の目的である「情報伝達」「情報の保存」「販促/広告」を定義することにより我々の意識自体を改める必要がある。
- ・自社やパートナーの設備やノウハウ含めた共創産業化は不可欠
- ・やっぱり紙がいい、の分野を見極めて延ばすことに注力したいと思います。
詳細な記述を寄せた回答者による見解は以下の通り。
- ・印刷産業は、価値創造の余地が非常に大きく、かつ他業界との接点を数多く持つ、歴史ある産業だと考えています。 だからこそ、同業内での消耗戦にとどまらず、異業種や地域、文化・教育分野などとの協業を、より積極的に進めていくべきだと思います。 一方で、現在のネット印刷に象徴される過度な価格競争は、個社の体力を削るだけでなく、結果として産業全体、ひいては国の競争力を弱めてしまう懸念があります。 価格ではなく、編集力・提案力・技術力・信頼といった本来の価値で選ばれる産業へと、意識を転換していくことが重要です。 卑屈になることなく、自分たちの仕事に自信と誇りを持ち、 「印刷だからこそできる価値」を次世代に向けて発信していく。 そうしたマインドを、業界全体で育てていくことが、これからの印刷産業に求められていると感じています。
・印刷産業は本来、「情報を正確に複製し、社会に届ける」という重要な役割を担ってきました。 一方で、速報性や利便性が重視される情報については、今後さらに他の媒体へと置き換わり、その流れは加速度的に進んでいくと受け止めています。 そうした変化を前提としたうえで、これからの印刷産業には、情報の伝達にとどまらず、「体験や価値をどのように定着させるか」という視点が、より強く求められていると感じています。 手に取ったときの重さ、紙の質感、製本や加工による佇まいなど、受け手の記憶や感情にどう残るのかまで含めて設計された印刷物は、デジタルでは代替しにくい固有の価値を持ち得ます。 また、こうした価値を生み出していくためには、この産業で働くこと自体に意義を感じられる環境づくりも欠かせないと考えています。 技術や経験だけでなく、人間的な魅力を備えた人材が増えていくことで、印刷産業そのものの魅力が高まり、それが次の仕事や新たな挑戦を呼び込み、結果として産業の成長につながっていくのではないでしょうか。
・印刷産業はデジタルメディアの台頭により、紙メディアの減少傾向は四半世紀の時を経て進行してきていることに加え、COVID-19により国民の生活習慣が大きく変わり購買動機等の価値観が大きく変化したことにより、紙媒体を中心とした印刷産業の下落傾向は加速度を増している。地方においては企業の大小問わずソリューションプロバイダーへの変革が進んでいるが、首都圏、大阪、名古屋といった大都市圏では未だ小規模の請負印刷会社多く存在し、その存続は危機的な状況である。生産集約もさることながら、小規模事業者の合理的且つ経済的負担を軽減すべく支援事業が必要と感じる。一方で、一言で集約といっても同じ印刷専業者同士の合併では固定費削減などにより一時的なコスト削減には繋がるがその先の稼ぐ力に変える要素は少ないと考える。地域課題を解決するための行政や他産業との業務提携や合併を視野に印刷産業そのもの定義を「ものづくり」から「ことづくり」へと、初心に戻り再定義すべきである。

