IGAS2022レポート スマートファクトリーを具現化~省力化・省人化を目指し自動化、機器連携

(プリテックステージニュース アフターIGAS2022特集より)

 国際総合印刷テクノロジー&ソリューション展のIGAS2022が11月24日から28日まで、東京ビッグサイトで開催された。来場者数は5日間で3万3,078人。このうち海外からの来場は2,969人だった。会期中は約2万4,000㎡、1,875小間の会場に218社が出展。統一テーマは“Venture into the innovation!―新たなイノベーションへの挑戦―”。会場では、プリプレス、プリメディア、印刷、製本、紙工、ラベル、パッケージング、クロスメディア関連の最新の技術、サービス、ソリューションと新しいビジネスの創出が提供された。また、プレオープンイベント、アフターイベントをオンラインで実施するハイブリッド展示会として開催された。IGAS2022のトレンドとイノベーションに繋がる出展内容を紹介する。

 IGAS2022では労働力不足、エネルギーや資材価格、人件費の高騰という課題に対し、自動化や省力化を訴えるソリューションに来場者の注目が集まった。IoTなどによる機器間連携やロボットアーム、AGV(自動搬送ロボット)、検査装置を駆使して、工程と工程間で人が介在していた物を移動する作業や、オペレータの機械操作・品質チェックなどの効率化を訴えるブースが多かった。これまで〝生産性の向上〟とは工場から出荷されるアウトプット量の拡大を目指すものだったが、商業印刷・出版印刷という印刷出荷額の主力を占めてきた領域で印刷量が減少する中、省力化・省人化に直結する打ち出し方が目立った。イノベーションの潮流は大きく変わったといえる。

 一方で、付加価値の向上も印刷産業の課題で、新事業の開拓、新たなビジネスの創出に着手しないことには既存の領域が縮小している現在、事業の存続が危ぶまれる。各社のブースには様々なビジネス創出の支援、印刷会社が実際に展開したビジネスや印刷物の事例の展示も注目された。省力化して生まれた余力を付加価値創造に振り向けるという提案である。また、SDGsなどの社会課題への取り組みに対する支援も訴求されていた。

 全体的にIGAS2022では“スマートファクトリー”の構築に向けた具体的な装置や手法、考え方が打ち出されたといえる。

オフセット印刷機は
自動運転がキーに

 オフセット印刷の分野のキーワードは“自動運転”である。刷り出し時の見当合わせや濃度調整にとどまらず、印刷機の運転中にカメラで全数の絵柄を取り込み、自動的に目標値に見当や濃度を調整する。オペレータはモニタに映し出された各色の濃度のトレンドグラフをチェックするだけで、抜き取り検査をすることがない。エラーが生じた時にだけストップし、問題に対応することになる。小森コーポレーション(KOMORI)、リョービMHIグラフィックテクノロジー(RMGT)の2社とも、印刷機のデモンストレーションでは自動運転と複数ジョブの連続印刷を強調していた。

KOMORIブース
RMGTブース

 刷り上がった後は、AGVにより折りや断裁などの後加工に刷本を搬送。この間に人手は介在しない。RMGTの実演ではホリゾンブースへとAGV自動搬送ロボット)が刷本を運ぶブース間連携が見られた。また、RMGTが出展した菊全ジャストサイズの8色機の7胴目と8胴目には、印刷機に刷版を取り出し供給するロボットアームが取り付けられた。現実的には印刷中にオペレータが刷版の取り出し、準備をした方が時間の無駄を省けるが、オフセット印刷機の完全自動化に向けたチャレンジとして今後に期待される技術である。

ロボット活用が目立つ製本・加工

 製本・加工の分野ではロボット活用の展示が目立った。ホリゾンや正栄機械製作所、工藤鉄工所をはじめとする製本・加工ブースでは、徹底した省力化を目指したソリューションが提案された。

 最大の出展小間数となるホリゾンでは、ベンダー間連携のハブとして様々な自動化ラインが展示・実演された。ブースでは富士フイルムブースのB2判デジタル印刷機で出力された刷本がAGV(でホリゾンブースのシートカット装置に運ばれてカットされ、無線綴じ機で製本加工されるデモンストレーションを披露。シートカット装置にはダックエンジニアリングの検査装置が設置され、検品作業も自動化する。また、リコージャパンのカラー、モノクロデジタル印刷機と無線綴じ機のインライン装置、コニカミノルタの帯掛けまで自動化したカードの印刷・スリットのインライン装置、理想科学工業のロボットアームを活用した無線綴じ機へのブックブロック投入など、挑戦的なシステムが並んだ。

帯掛けまでを自動化
ロボットアームで無線綴じ機に本身を投入

 ホリゾンブースではSCREENグラフィックソリューションズ(SCREEN GA)、ミヤコシ、キヤノンマーケティングジャパンも協力し、デジタル印刷から加工までの自動化ラインを見せた。

 正栄機械製作所ではロボットアームを活用し、折機で折って集積された折丁をパレットに積み上げる実演を披露した。パレタイジングロボットはすでにオフ輪工場などで導入されているケースがあるが、汎用的なロボットアームを使うことで導入コストを引き下げ、パレタイジングロボットの普及促進を図った展開といえる。

 工藤鉄工所では障害物を認識して回避する搬送ロボットでワンプに包まれた用紙を運び、自動ワンプカッターでワンプを切る工程の自動化を提案した。イメージとしてはワンプを切った用紙を、断裁機や紙揃機まで搬送ロボットが運ぶまでのスマート化が実現できそうである。

スマートファクトリーの潮流

 機器単体による効率化には今後も各メーカーが挑戦していくだろう。一方で、複数の機器と機器、機器とソフトウェア、ソフトウェアとソフトウェアを連携させたシステムや製造ラインを駆使し、スマートファクトリー化を目指す流れが加速しそうだ。

 機器・ソフトウェアの連携は単なるデジタル印刷機、後加工機の連結やデータの送受信だけでは実現しない。デジタル印刷機と後加工機のスピードを調整するバッファー装置、製本・加工に最適な面付の指示、API、IoTなどの様々な技術が盛り込まれている。各自動化ラインがどういった技術をベースに連結しているか、会場では目に見えにくい部分もあった。

 AI活用もスマートファクトリーの一つの要素になってくる。ソフトウェアなので各社のプレゼンテーションや説明を聞かないとなかなか把握できないが、ミヤコシは従来のオフセット印刷機に必要とされる熟練オペレータの高度なノウハウを補完し、損紙の低減や品質の安定化、オペレータのスキルレス化に貢献するAIを出展した。今回は出展機の間欠オフセットラベル印刷機『MLP13M』に搭載した。また、J SPIRITSは最適な配送ルートを設計するAIと、同社のMIS「PrintSapiens」とのデータ連携を紹介。リョービMHIグラフィックテクノロジーはAIを活用し、音声で機器に指示するシステムをパネルで紹介した。

ミヤコシのMLP13M
ダックエンジニアリングブース
シリウスビジョンブース

 スマートファクトリーではもう一つ、生産される品質を担保することも必要になる。自動運転では人の目でチェックする工程が省かれるため、アウトプットされる製品の品質を安定化させる技術が欠かせない。今回のIGAS2022では、インライン、アウトラインを問わず、検査装置の出展が多かった。ダックエンジニアリング、広瀬鉄工、シリウスビジョン、ウエブテック、ジクスをはじめ、デジタル印刷機向けに検査装置を自社開発し、展示機器に実装したキヤノン、欧州で実績のある製品を参考出品したニッカなど、多くのブースで検査装置が見られた。

デジタル印刷の新技術

 デジタル印刷機の分野ではプリンタやヘッド、インクともにインクジェットの出展が多い。枚葉のB2判対応デジタル印刷機、高速のロール式デジタル印刷機、大判プリンタが各ブースで見られた。

 リコージャパンは今回、日本市場を意識して四六半裁の枚葉水性インクジェットデジタル印刷機を出展。プライマーなしで印刷用紙に印刷するもので、品質と生産性を両立させている。富士フイルムのブースでは導入実績が最もあるJetPressシリーズの高速モデルを出展。コニカミノルタはUVインクを採用したKM―1のハイクオリティモデルの実機を展示し、実演した。

リコーの水性インクジェット枚葉デジタル印刷機RICOH Pro Z75
コニカミノルタのKM-1e

 高速のロール式デジタル印刷機の分野ではSCREEN GAが新インクを搭載し、品質を向上させたTruepress Jet520シリーズを出展。ブース内では脱プラスチックの需要を見据え、紙包装用にプリントエンジンを改良したJetpackとそのサンプルを展示し、来場者の関心を集めた。ミヤコシは1タワーで両面を印刷するコンパクトなロール式の高速インクジェット印刷機を展示し、帳票印刷をはじめ、出版印刷、商業印刷への展開を提案。コダックは実機の展示がないものの、PROSPER ULTRA520プレスで事前印刷したロール紙のシートカットを実演した。

紙包装を提案したSCREEN
ワンタワーで両面印刷のミヤコシMJP20EXG

 このほかキヤノンではA3+サイズの水性枚葉インクジェット印刷機のサンプルを展示。残念ながら実機の展示がなかったが、乾燥による用紙への影響という課題がある水性インクジェット機で、用紙を加湿しながらインクを乾燥する新たな乾燥機構への期待は高い。

 電子写真方式の分野では富士フイルムビジネスイノベーションが開発した世界初の粉体トナーによるB2判デジタル印刷機が出展された。技術的な障壁を超えて、電子写真・粉体トナーで用紙サイズが拡大され、しかも両面機構を持つことから大きな注目を集めた。

富士フイルムの世界初の粉体トナー枚葉B2機
事前印刷用紙で実演したコダック

環境負荷低減も

 渡辺通商のブースでは紙リング製本、タンザックカレンダーなど環境負荷が少ない印刷製品を生産する製本機器が展示された。タンザックカレンダーはすでに金属の吊り具に代わるスタンダードな方式となっているが、今後、プラスチックが主流のリング綴じの分野でも紙への移行が進むとみられる。

 コスモテックは水の力でコスト削減と高品質を実現する湿し水冷却循環装置「TOP-ONE CFG」、消費電力を大幅に削減するハイプレッシャー加湿器「UruOs(ウルオス)」、印刷工場の廃液コストを大幅に削減する水溶性廃液処理装置「FRIENDLY(フレンドリー)」など持続可能なサステナブル社会に対応する環境機器製品を発表した。

渡辺通商の紙リング製本機
省電力を強調したコスモテック

 富士フイルムとSCREEN GAは、廃材を活用してブース内のパネルや台などを作り、環境負荷低減を提案。また、会場ではデジタル印刷機によるカーボンオフセット、機器の開発から製造、生産物、廃棄に至るまでの製品ライフサイクルを通したデジタル印刷機によるCO2抑制を訴求するなど社会課題への対応を打ち出す展示も目立った。

関連記事

最新記事