グローバルグラフィックス 高速IJに対応したRIPソリューション

高速インクジェット印刷機の性能を引き出す

DIRECT、Fundamentals

グローバルグラフィックス ソフトウェア社(英国)はこのほど高速、大判、高解像度対応の次世代デジタル印刷機向けのRIPソリューション『DIRECT』を発表した。同社が印刷関連ベンダーに提供しているデジタル印刷機やプリプレス機器のコアRIP『Harlequin RIP』は高速処理、高品質のスクリーニングなどで高い評価を得ているが、発表したソリューションは、RIPを核に、プリントヘッドコントローラボードまでを包含し、インクジェット印刷機の印刷速度をさらに向上させる。

同社の日本法人であるグローバルグラフィックス株式会社は日本国内に向けて、今年2月に東京・東池袋のサンシャインシティコンベンションセンターで開催されたpage2020で、『DIRECT』に、ジョブの修正、プリフライト、リモートプルーフィング、殖版、バリアブルデータの生成、自動化等のワークフロー機能を備えたインクジェット印刷機のRIPコンプリートソリューションとして『Fundamentals』を発表した。『DIRECT』はそのワークフロー機能を除いたもので、ワールドワイドでの公開となる。

『DIRECT』、『Fundamentals』の開発の背景にあるのがインクジェット印刷機の高機能化。インクジェット印刷機の標準解像度は600dpiから1,200dpiと移行しつつあり、従来の4倍以上のデータレイトで印刷用のラスターイメージを生成することが求められている。ホワイトや拡張色域カラーでさらなる付加価値を提供するため、搭載されるインクジェットヘッドの数も増加。さらには印刷機の速度も200m/分、300m/分と向上した。

高速インクジェット印刷機に採用されているシングルパス方式の印刷品質面での課題はモットリングやチェーニング、隣接するプリントバー間もしくは特定のプリントバー内での濃度バラツキ(例えばスマイル問題)、ノズル不良がある。これらに対しても高速に対処する必要が生じてきた。

『DIRECT』と『Fundamentals』はこれら超高速インクジェット印刷機が抱える様々な課題に対する解決策といえるもので、グローバルグラフィックス関連会社の業界を先導する技術を連動させた競合力の高いシステムをライセンシーに提供するものである。これらソリューションを採用することにより、オンザフライでターゲットとするジョブを印刷することができるようになる。印刷品質も一段上のレベルに引き上げることが可能となる。

『DIRECT』では同社の系列会社のMeteor Inkjet社が有しているインクジェットヘッドドライブ技術を含む。『Fundamentals』は『DIRECT』にHybrid Software:社の『STEPZ』と『CLOUDFLOW』が追加されたものである。

DIRECT とFundamentals の違い(図をクリックすると拡大します)
DIRECT とFundamentals の違い(図をクリックすると拡大します)

『DIRECT』、『Fundamentals』は、同社のライセンシー(インクジェット印刷機ベンダー)が開発するモーター制御やインク供給システムを制御するモジュール「プリンタコンポーネント」や、インクジェットヘッドの吐出のタイミング制御と位置の管理を行うモジュール「タイミングコントローラユニット」(TCU)と接続できる。図のグリーン色のコンポーネントとインクジェットヘッドドライバボードは Meteor社が提供するものである。もし、ライセンシーがインクジェットヘッドのドライブするボード、あるいはテクノロジーを既に有していれば、それらに置き換えることもできる。インクジェットヘッドは、ライセンシーがメジャーなインクジェットヘッドメーカーから選択して調達することになる。

RIPサーバーには『Harlequin Scalable RIP』と、『ScreenPro DIRECT』が含まれている。『Harlequin RIP』は世界トップクラスのスピードを提供するRIPとして高く評価されており、複数の『Harlequin RIP』(Farm RIP)を使用して高速にページを分散処理する。その右側にある複数の『ScreenPro』 エンジンは、RIPが生成する8bitのコントーンのCMYKラスターにスクリーニングを加える。『ScreenPro』の中に『Print Flat』という機能があり、濃度補正はこの中で行われる。

Harlequin Scalable RIP + ScreenPro Directの高速性(図をクリックすると拡大します)
Harlequin Scalable RIP + ScreenPro Directの高速性(図をクリックすると拡大します)

Farm RIPの数や『ScreenPro』の数は、使用する印刷ジョブや印刷機の仕様に合わせて最適化できる。 例えば、Farm RIPを10個、『ScreenPro』 を3個という運用も可能となる。同社のDIRECT ベンチマークでは、ライセンシーから提供される代表的な印刷サンプルジョブと印刷機の仕様から、オンザフライで印刷機を止めずに連続して印刷するために必要となるPCの仕様や、Farm RIP、『ScreenPro』の数をアドバイスすることもできる。

『DIRECT』、『Fundamentals』の一つ目の大きな特徴はRIPが生成するラスターイメージをディスクに一切書き出さずに、シェアードメモリ上から後段のプロセスに引き渡すことである。RIPが生成した8bitコントーンのCMYKラスターは、次の『ScreenPro』へとシェアードメモリ上で受け渡されるので、ディスクへの書き込み、読み出しが一切発生せず、処理時間が短縮される。

二つ目の特徴は、1台のRIPサーバーPCが特定カラーのラスターイメージのみを生成して、インクジェットヘッドコントローラカードに転送するところにある。これによりデータ転送制御がシンプルになりデータ転送バンド幅を広げることができる。通常、RIPは CMYKすべてのプレーンのラスターを生成する。それらをシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックのそれぞれの色に応じたインクジェットコントローラカードに振り分け転送する。この流れでは、ページラスターデータの転送制御が非常に複雑になり、印刷速度低下の要因となる。

『DIRECT』、『Fundamentals』は様々な印刷機構成に対応する。例えば、CMYKの構成以外にも、『CMYK+ホワイト(ニス)』では印刷速度の低下なく、特色を追加可能。拡張色域カラーに対応で蛍光イエロー、蛍光オレンジ、蛍光グリーンも追加することができる。『CMYK+画像検査装置 デュプレックスデバイス』のように複雑な構成でも印刷速度を落とすことはない。

RIPしながら印刷

印刷機を止めないオンザフライ処理

『DIRECT』、『Fundamentals』では、通常オンザフライでRIP処理しながら印刷するため、印刷ジョブを投入した直後から印刷機を止めないで連続で印刷することができる。したがって、大量のRIP処理が完了し、印刷が開始されるまで数時間待つ必要がない。

オンザフライが基本だが、必要に応じてオフラインプリント(ナイトモード)による運用も可能。例えば、夜間にRIPして昼間に印刷することができる。稀な例になるが、極めて複雑な印刷ジョブの場合、RIP処理に時間がかかるものもある。そうした時にナイトモードを使うことによって効率的に印刷業務を進められる。

それぞれのPCが特定カラーのRIP処理を行い、直接インクジェットコントローラカードへと流す仕組みでは、特定カラーだけピクセル深度や解像度を変えることが簡単にできる。たとえばKだけを2 bitに, その他CMYを1 bitに、もしくはCMYを600dpiに、Kだけを1,200dpiにといった印刷が簡単に行える。RIPシステム自身が独立しているので、それぞれのRIP条件を簡単に設定でき、これもオンザフライによる高速処理を支えている。なお、RIPサーバーPC はLinuxとWindowsに対応している。

『Harlequin VariData』は、固定のオブジェクトと可変のオブジェクトが混在するバリアブルジョブの高速処理を可能にしているが、特定の条件では『Meteor Mixed Mode』と組み合わせることで、さらに効果を高める。『Meteor Mixed Mode』では、CMYプレーンが固定で、Kが顧客名や住所、バーコードなどのバリアブルデータという場合、Meteorのボードの中にあるバッファのメモリに固定のCMYプレーンを記憶させ、Kだけにデータを流すことができる。

『Harlequin VariData』には、『Internal (内部)VariData』と『External (外部)VariData』がある。Internal VariDataはソフトウェアだけで処理する。『External VariData』はハードウェアでキャッシュされたラスターとバリアブルのオブジェクトのラスターを合成する。

3 Harlequin VariData のバリアブルデータ処理
3 Harlequin VariData のバリアブルデータ処理(クリックすると図を拡大します)

図はカーディーラーの数万顧客へのDM の例である。 このジョブには

①ロゴの様に毎ページ共通となるオブジェクト

②顧客名の様にすべてのページで異なるオブジェクト

③車の写真、最寄りのカーディーラーの地図、セールス担当者名など顧客情報により切り替えて使用する何パターンかあるオブジェクト

という3種類のオブジェクトが含まれる。

RIPの中でこれらを自動的に判断して、①の共通オブジェクトと③のバリアブルでも頻度が高く再現するオブジェクトは、最初に出現したページでそのオブジェクトに対するラスターイメージをメモリ内でキャッシュして再利用することで、同じ内容のRIP処理を回避する。②の毎ページ異なるオブジェクトはその都度、RIPし、キャッシュされたオブジェクトと合成される。ページ内部のオブジェクトがどのタイプのオブジェクトかはVariDataが自動的に判別するので、通常のPDFで(PDF/VT でなくても)機能することも重要なポイントになる。

Harlequinの印刷処理速度の改善率は、使用するPC内のコア数、PCの性能、印刷ジョブの特質、複雑性により大きく変わる。ある顧客の多面付けされた複雑なベクターを含むラベル印刷における処理スピードの改善例では、8CPUcore・2スレッド使用時で『Internal VariData』をイネーブルにすると、単独のHarlequin RIPを1 スレッドで使用した場合より32倍以上高速に処理された。

品質を向上させるテクノロジー

高い出力品質(ScreenPro & PrintFlat)(クリックすると図が拡大します)
高い出力品質(ScreenPro & PrintFlat)(クリックすると図が拡大します)

次に品質面では『ScreenPro』と『PrintFlat』を提供している。

RIPはコントーン8-bit CMYKラスターイメージを生成する。その後に隣接するインクジェットヘッド間の、さらには特定インクジェットヘッド内部の濃度ムラ(スマイルと呼ばれる)を補正する『PrintFlat』処理を適用する。RIPされたコントーンラスターイメージは、『ScreenPro』内のインクジェットに最適化された『Advaiced Inkjet Screens (AIS)』を用いてスクリーニング処理を行う。

AISには『Mirror』、『Pearl』、『Opal』の3種類のスクリーニングが用意され、モットリングやチェーニングといった問題を避けるためにメディアのタイプ等の印刷条件によって使い分ける。『Mirror』はブリキ缶やフレキシブルパッケージなどの吸収性が悪く乾燥に時間がかかる印刷媒体への印刷や濃いメタリックインクによる印刷に適している。『Pearl』は吸収性の高い印刷媒体上で極めて自然な仕上がりが得られる。『Opal』は『Pearl』と同様に吸収性が高く湿りやすい媒体用にデザインされているが、ハイライト部分で『Pearl』と表現が異なる。高解像度出力でより良い結果になる場合がある。この3種類のスクリーニングを使ってもモットリング、チェーニング、ハイライトのノイズといった品質の問題が解決できない場合には『スクリーニングデザインサービス』により、カスタムスクリーニングを制作することもできる。

またAISは2値の他、マルチレベルスクリーニング(2 bitもしくは4 bit) にも対応する。これにより小径、中径、大径のようにインクドロップのサイズを制御して、階調表現を拡げることができる。

各Farm RIPには正確で一貫性があり予測可能なカラーマネジメントモジュール『ColorPro』を搭載している。このため、業界標準のICCプロファイル(v4とDeviceLink プロファイルを含む)を完全にサポートしている。

『Meteor』の『NozzleFix』と組み合わせ、ノズル欠補正も可能。ノズルの目詰まりや調子の悪いノズルを完全にオフにして、他の色のノズル、もしくは隣接するノズルで補正する。この機能はインクジェットヘッドコントローラーとして『Meteor』を使用した場合に使える機能となっている。

その他のソリューション

『Streamline DIRECT』は『Fundamentals』、『DIRECT』のオプションで、PDF以外のPDL(ページ記述言語形式)を印刷可能なPDFに変換する。このほか、デバイス速度を低下させる可能性があるPDFを却下したり、問題あるPDFを最適化し、印刷品質を落とすことなく印刷速度を最大化したりできる。また、全ての PDF ジョブについて、達成可能なライン速度を正確に予測することもできる。ベーシックなプリフライト機能もある。

『STEPZ』はベルギーのHybrid Software社のラベルとパッケージ用のアプリケーションソフト。『PACKZ』をベースにしたもので、デジタル印刷であまり必要のないトラッピング等の機能が外されているだけでほぼ同じ機能を持っている。MacもしくはWindowsの64 bit版に対応しており、他の形式に一旦変換せずに、PDFをネイティブに開き、編集、保存する。PDFで入稿される印刷ジョブの印刷適性を検証し、もし問題があれば修正するほか、殖版(Step & Repeat)に対応する。CSVファイルで提供されるバリアブル情報とPDF テンプレートと融合し、バリアブルPDFジョブを作成。中・大規模のバリアブルジョブの生成は『CLOUDFLOW』を推奨。

Hybrid Software社の『CLOUDFLOW』は様々なワークフローを自動化する。『PACKZ』との主な相違点はGUIがWeb ブラウザベースであること。加えて、複数ユーザーが自身のアカウントでLANやインターネットを通し、遠隔地にある自身のPC上のWebブラウザからアクセスすることができる。視覚的にワークフローを作成でき、承認フローやプリプレスフローなど様々なワークフローを自動化する。ただし、Webブラウザベースなので、かなり詳細にPDFを編集したい場合は『STEPZ』が推奨されている。

『DIRECT』、『Fundamentals』にはGlobal Graphicsのブランド化できるイグザンプルのGUIである『Press Operator Controller』(POC)が付いており、C# のソースコードが提供される。ライセンシー は、エンジン制御のための GUI 機能を追加することができる。Windows に対応している。

ブランド化できる『Job Cost Estimator』は、C# のソースコードが付属しており、印刷機ドライブと同一設定を使用し、特定ジョブのインクコストの見積りを正確に計算する。WPF C#の開発者は簡単に拡張することが可能。一般的なメディア、スタッフ、メンテナンスなどのジョブコストを含めることもできる。ジョブコスト予測ツールは自己完結型で、印刷機に接続する必要はない。印刷業者を利用せずにジョブのコストを予測したい場合に最適となっている。

グローバルグラフィックスのこれらのソリューションは、サードパーティのテクノロジーに依存していない。すべてのコードを保有しており、サードベンダーの技術の対応を待たなければいけない等の返答をすることがない。また、実質的に無料のBreakThroughサービスが提供可能となっている。

関連記事

最新記事