【アンケート調査結果】パーソナライズ印刷の「リアルな手応え」と「参入への高い壁」
パーソナライズ印刷の「リアルな手応え」と「参入への高い壁」
実践企業10社のアンケートから見えたホンネ
ニュープリンティング株式会社が運営するオンラインニュースサイト「NEWPRINET」では、印刷企業におけるパーソナライズ印刷への取り組み実態や現場のホンネを可視化することを目的とした特別アンケート調査を実施した。
紙やインクの価格高騰や、デジタル印刷機の普及を背景に、「大量生産」から「個客最適」へと価値の重心がシフトするなか、先行して取り組む企業はどのような手応えを感じ、どのような障壁に直面しているのか。本稿では、すでに日常的なビジネスとしてパーソナライズ印刷を展開している実践企業10社のリアルな回答をもとに、その集計結果、現状分析、未来予測、そして抱える構造的課題を詳細に報告する。
- 調査概要
- 調査対象: 「NEWPRINET」読者(印刷会社)
- 有効回答数: 10社
- 回答企業の従業員規模:
- 10名未満:1社
- 11〜50名:6社
- 51〜100名:2社
- 101名以上:1社
カテゴリ別の主要な集計結果
回答者がすべて「デジタル印刷機」を標準装備
「現在の保有設備を教えてください(複数回答可)」の設問では、回答した10社すべてが「デジタル印刷機」を保有していた。また、「枚葉印刷機」を併せ持つ企業も8社に上り、デジタルとアナログのハイブリッド運用体制を確立している。
パーソナライズ印刷取り組み状況は100%
■ 【Q1】貴社における「パーソナライズ印刷(可変・小ロット含む)」への 取り組み状況は?
本アンケートでは、回答者全員がパーソナライズ印刷を「①すでに日常的なビジネスとして取り組んでいる(または過去実績あり)」を選択した。未導入企業の予測ではなく、実戦を重ねてきた「当事者」だからこそ語れるデータが抽出された。
価格競争からの脱却より「既存顧客の囲い込み」が最多
■【Q2】実際にやってみて(または準備してみて)感じている 「一番のメリット」は?(複数回答可)
一番のメリットについて、最も多くの票を集めたのが「既存顧客との関係が深まり、囲い込みができた」(9票)であった。

- 既存顧客との関係深化・囲い込み:9票
- 新規顧客の開拓(新規業界等): 5票
- 自社の技術力・ブランドイメージ向上:5票
- 単価・利益率が高い(価格競争からの脱却): 4票
単なる「高単価・高利益率」という経済的メリット以上に、競合他社とのスイッチングを防ぐ「強力な顧客防衛策」としてパーソナライズ印刷が機能している実態が明らかになった。
最大のボトルネックは技術的課題を超えて「営業・提案力」が突出
■【Q3】推進する上で「最も苦労している(ボトルネック)」ことは? (複数回答:最大2つまでお選びください)
ボトルネックについての、「提案力・営業力の不足(クライアントに価値を伝えきれない)」が6票でトップとなった。

【推進上のボトルネック(複数回答・最大2つ)】
- 提案力・営業力の不足:6票
- 小ロット・多品種ゆえの後加工・仕分け・配送の手間:4票
- 現場のオペレーション負荷・人材不足: 3票
- 顧客データの取り扱い・データ連携・セキュリティの担保: 3票
- システム(Web-to-Printなど)や設備の導入コストの回収: 2票
システムの導入そのものよりも、「受注した後に発生するアナログな手間(後加工・仕分け・発送)」や、そもそも「クライアントにパーソナライズの費用対効果を正しく提案できない」というソフト面(人材・営業プロセス)に大きな壁がある。
クライアントの期待価値 「レスポンス」と「ロイヤルティ」の2強
■【Q4】クライアントがパーソナライズ印刷を導入する際、 最も「期待している効果(求めている価値)」は何ですか? (複数回答:最大2つまでお選びください)
パーソナライズ印刷を進める上で最も期待していることとして、実利的な効果を求める声が上位を占めた。

【クライアントの期待価値(複数回答・最大2つ)】
- レスポンス率の向上(DM開封率、QR遷移率アップ等): 5票
- ファン化・ロイヤルティの向上(特別感、CX向上): 4票
- デジタル施策(Web・SNS)との連動・融合(MAツール連携等): 3票
- 無駄な印刷・在庫の削減(SDGs対応): 3票
- クライアント側も「何を期待すべきか(ROI)」を測りかねている: 2票
- 贈答(ギフト)やイベントでのプレミアム感演出: 2票
- SNS等での拡散(バズ)効果: 1票
この結果から、クライアント企業は、単なる「個別印刷」ではなく、顧客との直接的なエンゲージメント強化(ファン化)やコンバージョン(レスポンス)に直結するマーケティングツールとしての役割を印刷会社に求めていることが読み取れる。
デジタル施策としての取り組み、併せて無駄な印刷物の削減も無視できないニーズである。
ビジネスモデルとして確立することの難しさ
■【Q4】今後5年で、印刷業界においてパーソナライズ印刷は どの程度「必須の技術」になると思いますか?
パーソナライズ印刷の普及度についての未来予測では、意見がふたつに分かれた。

- 生き残るために「必須(標準装備)」になる: 4社
- 一部の得意な会社だけがやればいい「差別化技術」にとどまる: 3社
- コストや手間の割に普及せず、一時的なブームで終わる: 2社
- わからない: 1社
「生き残るために必須」とする意見が最も多いものの、「差別化技術にとどまる」「ブームで終わる」とする冷ややかな見方もあり、汎用的なビジネスモデルとして確立することの難しさが窺われる。
現状分析:実践現場から可視化される課題
「デジタル印刷」の裏に潜む「超アナログな手間」のジレンマ
パーソナライズ印刷は、宛名印刷やバリアブル画像配置など、デジタルデータのスマートな処理がクローズアップされがちである。しかし、現場の声を紐解くと、ボトルネックの第2位に挙がったのは「小ロット・多品種ゆえの後加工・仕分け・配送の手間」であった。
同じものを大量に刷る印刷方法とは異なり、一人ひとりに最適化された成果物は、当然ながら「一通ずつ中身が異なる」。これを検品し、宛先ごとに仕分け、過不足なく配送ラインに乗せる工程はアナログな手間を要する。この「デジタルで印刷し、アナログで仕上げる」というワークフローのねじれが、現場のオペレーション負荷を押し上げる要因となっているようだ。
設備投資のROIと営業力の連動
システムやデジタルプレスの導入コストの回収についても課題として挙げている企業がある。高額な機材やWeb-to-Print等のソフトウェアを導入しても、それを十分に活用できるだけの「仕事(売上)」を引っ張ってくる営業提案力がなければ、投資回収のシナリオを描くことはできない。設備を動かすための「提案力の不足(60%)」と「投資回収の不安」は、表裏一体の構造的課題として存在している。
未来予測:方向性と示唆
営業の役割は「御用聞き」から「企画・マーケティングコンサルタント」へ
印刷会社が付加価値を見出し続けるためには、仕様通りに見積もりを作る受注型の営業スタイルを捨て、クライアントの「売上を伸ばすためのデータ活用提案」ができるコンサルタントへとシフトしていく必要がある。営業一人ひとりのマーケティング知識や提案スキルのアップデートが、これからの5年の明暗を分ける可能性がある。
「DM頼み」から「複数チャネル(同梱・パッケージ・ノベルティ)」への転換
郵便料金の値上げは、「DM」のボリュームに深刻な影響を与えつつある。アンケートの結果から、今後は郵便に依存しない「ECお届け箱への同梱物」「一人ひとりの名前を刻むパッケージやラベル」「イベント用の限定プレミアムグッズ」など、DM以外のあらゆる印刷・SPツールでのパーソナライズ対応力へとシフトしていくことが予測された。
回答者のリアルなホンネ
■【Q5】パーソナライズ印刷に関する「期待」「悩み」「メーカーへの要望」など、 ホンネをご自由にお書きください。
アンケートの自由記述には、マーケティング的な華やかさとは裏腹に、様々な課題と戦う現場の本音が凝縮されている。
コンサルティング人材の不足という絶望
「パーソナラナイズ印刷の実行者はほどなくユーザー自身になると感じています。つまり印刷会社の出番はプラスアルファの次の手であり、得意先へのコンサルティングが必須の業務になると考えています。残念ながらそうした人材の確保は印刷業界では難しいと感じています。」
郵便料金値上げへの危機感と、DMの限界
「郵便料金値上げによるDMの激減によりDMよりも、非商業印刷の会員向け可変印刷が主流であり、商業印刷物の受注にはつながっていない。DMは今後限りなくゼロに近づいていくのではないだろうか。」
旧態依然とした営業ベテラン層の意識改革
「営業職を自ら望んで志望する人材が減ってきている印象。古い受注産業態勢が身に染みているベテラン層に、もはや無くてはならないこの価値を理解し、クライアントに合った提案ができるかどうかがカギであると考える。」
「絶対にミスが許されない」という重圧と利益のジレンマ
「大きなニーズがある一方で、検品・チェック体制が重要になるため、必ずしも利益性の高い業務とは言えない印象です。事故が発生してしまった際の対応も常に危惧しないといけないため、どの会社でも取り組める分野ではないと思います。」
考察:データから読み解く3つの本質的課題
課題1:コンサルティングスキルの空白地帯
アンケート結果が示す「営業・提案力の不足」と自由記述の「ベテラン層の受注体質」は地続きの問題である。パーソナライズ印刷を売るためには、クライアントに対し「パーソナライズした結果、レスポンス率が〇〇%改善し、売上がいくら増えるか」というビジネスモデルの提示が必要となる。
印刷会社のベテラン営業が長年得意としてきた「紙種」「製本仕様」「納期調整」の知識だけでは、マーケティング部長や経営層と対等に渡り合うことはできない。印刷会社の中に「マーケティング・コンサルティング」の機能をどう実装するか。社内教育が難しいのであれば、専門会社とのアライアンスや、デジタルマーケティング人材の外部登用を本格化すべき局面に来ている。
課題2:事故リスクと運用コスト(検品体制)の不均衡
個人情報を含んだ可変印刷や、顧客ごとに送付物を出し分ける「パーソナライズ印刷」は、一箇所の不配・封入ミスが重大な個人情報漏洩事故やクライアントのブランド毀損につながる。
自由記述にある「事故の恐怖」は極めてリアルだ。これを防ぐためには、カメラ検品システムや重量検査装置などの高額な設備投資と、現場における二重三重の厳格な手作業チェックが必須となる。これらにかかる「目に見えないコスト」と、クライアントが提示する「小ロット印刷費」との間で採算が合わず、結果的に「手間とリスクの割に儲からない」という経営判断に至るケースは少なくない。運用のシステム化によるミス防止と、それに伴う「管理・セキュリティ費」を正当な対価としてクライアントに見積もり提示できる交渉力が不可欠である。
課題3. 「紙のデジタル施策化」による新たな価値定義
郵便料金の値上げやデジタルシフトにより、たしかに「バラマキ型のDM」は消滅に向かう。しかし、それは「紙の終わり」を意味するものではない。
むしろ、MA(マーケティングオートメーション)ツールと連動し、Web上で特定の動きを見せた顧客にだけ、3日後にパーソナライズされた「美しい紙のカタログ」を自動で届けるといったような、「デジタル施策のラストワンマイル」として紙の価値は極めて高まっている。印刷クライアントの期待効果で「ファン化・ロイヤルティ向上」が50%に達しているのはその証拠だといえる。
これからの印刷会社は、自らを「印刷物の製造業」と定義するのをやめ、「クライアントと顧客をつなぐ感動体験(CX)の設計者」へとアップデートする必要がある。
結論
今回のアンケートから明らかになったのは、パーソナライズ印刷を「高収益なビジネス」へと昇華させるための営業提案・高効率な後加工・徹底したリスク管理といったスキームが、多くの企業においていまだ確立されていないという実態だ。
パーソナライズ印刷の主戦場は、「印刷」だけではない。その手前に位置する「企画・営業提案」と、その先にある「仕分け・検品などの後加工から発送まで」の両端にある。
「他社が安さだけでは決して横取りできない、信頼と仕組みの強固な結合」を作り上げ、真のマーケティングパートナーへと進化すること。それこそが、既存顧客を守り抜き、価格競争の渦から抜け出すためのカギとなる。
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