IDTechEx 二酸化炭素回収と利用・貯留の最新動向、“回収技術の道のりはまだ遠い”

IDTechExでは、シニア テクノロジー アナリストの Dr Michael Dent氏による調査記事「二酸化炭素回収技術:道のりはまだ遠い」を発表している。同内容は、『二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)2021-2040年』と題したもので、炭素価格付け、ポイントソースでの炭素回収、直接空気回収、CO2からの合成燃料、CO2からの合成化学物質、原油増進回収法および地中貯留を含む技術と業界の見通しについてまとめたもの。世界の技術的な環境活動の現状や課題が紹介されており、将来的な環境配慮活動の指針、考えるべきポイントなどの参考となる内容となっている。

その概要について公開されているので、紹介する。

『二酸化炭素回収技術:道のりはまだ遠い』

二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)、または二酸化炭素回収・貯留(CCS)とは、産業排ガスから、あるいは直接大気から二酸化炭素を取り除くのに使用される一連の技術のことです。二酸化炭素は回収後、恒久的に地下に貯留(二酸化炭素貯留)されるか、CO2由来の燃料や建築材料といった様々な産業用途に利用(二酸化炭素有効利用)されます。

CCUS技術は、気候変動との戦いにおいて重要な役割を果たす可能性が高く、国連ではCCUSを2050年までにCO2換算で年間15~63億トン削減可能であると予測しています。

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二酸化炭素回収能力累積量の予測 2010年-2040年  出展: 『二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)2021-2040年』

世界はすでにこの道を歩きはじめています。過去10年間で二酸化炭素回収技術の利用は着実に拡大しており、全世界の二酸化炭素回収能力は2020年に4,000万トンに達しました。2017年以降、30カ所以上の新しいCCUS施設の計画が発表されています。これらのプロジェクトがすべて進行すれば、全世界の回収能力は3倍の年間約1億4,000万トンになります。

しかしながら、2019年に360億トンに達した全世界のCO2排出量と比較すれば、これは焼け石に水の量です。

新型コロナウイルスの影響による世界経済の失速に起因して、全世界の排出量は2020年に約310億トンまで減少したと考えられていますが、もっと大局的に見れば、これはおそらく一時的な減少に過ぎず、全世界のCO2排出量は、今後数年にわたって増え続けていくと思われます。CCUSが排出量に有意義な影響をタイミング良く与えられようにするには、CCUSの規模を現在の水準の何百倍にも拡大する必要があります。

このCCUSの技術には、普及の妨げとなる大きな課題があります。

CO2の回収・有効利用・貯留にはそれぞれ課題がありますが、すべての面で共通しているのは経済性の問題です。

気体混合物からCO2を分離するには費用がかかります。分離は天然ガスの処理やアンモニアの製造など、CO2濃度の高い廃水においては非常に容易ですが、含有するCO2の相対量が減少するにつれて費用が増加します。標準的な石炭火力発電所の排煙から1トンのCO2を回収するのに、現在、40~80ドル程度かかっています。大気からのCO2直接回収となると、600ドル程度かかる可能性があります。

またCO2の回収に必要なエネルギーも問題となります。石炭火力発電所にCO2回収設備が備えられている場合、備えていない場合と比較して、同量の発電に25%程多くの燃料が必要となる可能性があります。

炭素を回収した後は、それをどう利用するかという課題もあります。

回収したCO2は、地下に貯留することも、各種の産業用途に利用することも可能です。地下への貯留は最も広く用いられている選択肢であり、工業規模のCCUS施設の大半では、回収したCO2を石油増進回収(EOR)に利用しています。これは、CO2を油井に圧入して生産性を高める方法です。この方法は本質的にCO2を使用してより多くの石油を採取するものであり、その石油もその後燃やされてCO2を排出するため、そういった意味でも多少問題があることに加え、商業的に採算が取れるようにするのに石油価格を高くする必要もあります。

新型コロナウイルスのパンデミックに起因する石油価格の下落により、2020年に石油増進回収(EOR)の存続が厳しくなり、テキサス州のペトラノヴァの施設が閉鎖されました。この施設のCO2回収設備は、単独の発電所内に設置されているものとしては世界最大でした。米国の45Q法案のようなカーボンプライシング施策と税額控除は、CO2の貯留の存続性を高めるのに役立ちますが、そのような施策は世界の大部分でまだ初期の段階にあります。

このような課題はあるものの、CCUSの進歩は、世界にとって無視するわけにはいかないものであるかもしれません。

世界中の革新的な企業が、CCUSに関連するこれらの課題を克服しようと取り組んでいます。例えば、捕捉技術の向上やCO2分子を迅速かつ安価に有用な化学物質や燃料に変換できる触媒の開発などが挙げられます。これからの数年間はこの産業の将来の成功を確実なものにするための重要な時期となるでしょう。

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IDTechExの調査レポート『二酸化炭素回収・有効利用・貯留(CCUS)2021-2040年』 では、この産業の成功の鍵を握る技術的および商業的要因を探っており、世界のCCUS産業を包括的に捉え、今後20年間の産業を形成する技術的要因と経済的要因の両方を詳細に分析している。また二酸化炭素回収・有効利用・貯留を個別に検討し、それぞれの分野における技術革新、主要企業、機会について考察するとともに、二酸化炭素回収技術に関する20年間の予測を行っている。

詳細は、調査レポートのWebサイトから確認できる。

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