インタビュー 〜これからのポストプレス戦略〜 全日本製本工業組合連合会 会長 田中眞文氏

製本産業として復活し、生き残るために
Webの活用とアライアンス力で新しい市場を創造する

 印刷市場が縮小していく中、印刷物に付加価値を与えるものとして、製本・後加工技術が注目されている。しかし一方で、製本・後加工を専業とする業態にとっては、印刷市場の縮小に加え、内製化が進む懸念もあり、ますます存在価値を発揮し、積極的な市場づくりが必要であるという。そのための指針が、全日本製本工業組合連合会が3年前に発表した「製本産業ビジョン2025-再・創業-」である。全日本製本工業組合連合会の田中眞文会長に、これからのポストプレス戦略について伺った。

全日本製本工業組合連合会 田中眞文会長

製本産業ビジョン2025から3年

 現在の印刷産業全体は市場そのものがシュリンクしています。それに併せて、製本産業の市場規模もシュリンクしていると実感しています。こうした縮小する市場の中で、各社がどのように生き残るのかを考えた時、製本や後加工の分野にだけにしがみついていると、事業そのものが縮小せざるを得ない状況になります。だからこそ、従来の事業以外の新しい分野にも、積極的に取り組んでいくことが必要であると思います。

 しかし実態として、新しい事業に取り組めるのかという課題もあるだろうと思っています。そこで、指針にしてもらうべく、製本組合ではビジョンを策定し、掲げてきました。3年前に発表した「製本産業ビジョン2025」では『再・創業』をテーマに掲げ、新しい市場をつくることを呼びかけました。

 ビジョンでは、今後の生き残りにかけて、主要顧客(市場)・技術(強み)・機能(お役立ち)の3つの視点で、『今のままで頑張れば5年後も大丈夫なのか?』を考える必要があると問いかけています。

 自社の現状を分析するにあたり、4つの姿があるとしています。従来から行っている『顧客深耕、囲い込み戦略』、さらに発展させた『新製品、新サービス提供戦略』や『新市場、エリア拡大戦略』、さらにその先の『多角化戦略』です。特に、現在の技術や製品、サービスを活用して新たな市場や顧客を開拓してく『新市場、エリア拡大戦略』へと広げることが必要であるとしています。

 つまり、新しい市場、“第3の市場”へと広げていかないといけないということです。“第3の市場”へと拡大させていくためにも、従来の市場にしがみついていては実現しません。そして何より、第3の市場へと拡大するための課題となってくるのが、経営者の意識ではないかと思っています。

 経営者が、「うちはダメだ」「他社に勝てる技術は持っていないから」と思っていると、新しいことは生まれません。実際、これまで顧客企業と繋がっていた背景には、「対応力がいい」とか、「よく知ってくれている」などの理由があるのかもしれません。ダメだと思うのではなく、何か新しいことを始めようという社長の意識によって会社も変わっていくのではないでしょうか。

全日本製本工業組合連合会がまとめた製本産業ビジョン

Web時代は仕事も変わる

 新しい市場へ取り組む方法の一つに、印刷通販サービスのようなWebを活用した受注があります。Web上で、自社の技術やサービスをオープンにし、アピールしていくということです。Webを活用するメリットは、お客様のほうからアクセスしてくれる点にあります。従来型の受注営業は、見積りをして価格競争になる可能性があります。しかし、ホームページなどへ問い合わせをしてくるお客様とのやり取りに価格競争はほとんどありません。

 特に最近は若年層を中心に、情報の獲得も、欲しい物の購入も、Web上で済ませてしまうという傾向があります。つまり、仕事のやり取りや発生の仕方が変わってきています。これは単に市場がシュリンクしていくという問題ではなく、仕事の流れそのものも変わってしまうということなのです。こうした時代の流れに乗り出さないままでいると、知らないうちに別の企業に仕事が獲られてしまったということになりかねません。

 一方で、製本組合の中でもオリジナルの商品を開発し、積極的に受注し、BtoCあるいはBtoBtoCの市場から仕事を受注している企業も登場しています。こうした仕事は、売上高としては小さいかもしれませんが、本業よりも受注の伸び率が良く、新しい顧客先との繋がりを生んだり、次の市場に繋がるフックになってきているのではないでしょうか。

 特に、Webを活用して若いお客様や一般の方を呼び寄せる仕事は、新しい市場でもあります。製本会社にとって当たり前の技術でも、エンドユーザーにとっては高度で貴重な技術が、製本会社には沢山あります。従来、こうした技術を個人が手にすることは不可能だったわけですが、Webを入り口にすることで、たった1個から、それもオリジナルでオーダーできるようになるからです。それはお客様にとっては全く新しいサービスであり、従来型の印刷や製本の発注にはとらわれない全く新しい仕事になるかもしれません。

 実際、サービスを前面に出したホームページを開設していると、「穴だけ開けて欲しい」というような従来では考えられないような発注が舞い込んでくることがあります。Webの活用は、普段は出会えないお客様と出会えるきっかけとなります。そして、こうした受注は、営業活動をしていないため、仕事として獲得できれば売上にプラスにはなる一方、獲得できなくてもマイナスにはならない市場でもあります。そう考えると、新しい市場を創り出せる可能性があると思うのです。

印刷産業は変わったね、と言われる時

 今、一番危惧していることの一つに、製本・後加工の内製化があります。製本の市場は、印刷の市場全体がシュリンクしても、春の年度末になると需要過多となります。そのため、製本会社が減っていくと印刷会社をはじめとするお客様においては、「製本業務を受けてもらえない」という状況を生んでいきます。

 そうなると、今後、印刷会社で製本工程を内製化しようという動きが増えてきます。設備を導入すれば、他のシーズンの内製化も進み、製本業界に仕事が回ってこないという事態を招きます。特に地方の製本組合は、規模が小さい地域もあるため、会員同士でアライアンスを組んでも対応が難しい状況に置かれる場合があります。

 こうした背景にはコロナで観光関係の市場が激減ししたことも影響していますが、これから急激に観光需要が復活してきた時、なおさら内製化に向かうという状況も考えられます。

 製本会社には技術力があります。しかし、会社が存続しなければ技術は絶えてしまいかねません。製本産業が存在意義を発揮していくためにも、これからは受け身ではなく、積極的に新しい仕事を提案し、市場を創り出していくことが必要だと思います。特に今は、コロナ禍から復活していく基調にあり、産業として復活していく戦略に取り組むタイミングでもあるのではないでしょうか。

 新たな市場を自ら作っていく時、自社に技術やアイデアがなくても、他社とアライアンスを組んで取り組むことで可能になると思いますし、組合の仲間との繋がりを活かして取り組むということも方法の一つです。製本産業としてのあり方を長期的に考えても、他団体との交流がより必要になってくると感じています。その中で、新しい組合のあり方を模索する必要が出てくるのかもしれません。

 印刷産業全体が前向きでポジティブになり、全体の意識が市場を増やしていこうとなった時、外から見ても「印刷産業は変わったね」と言われるような姿になるかもしれないのではないでしょうか。製本業界には、そこの会社にしかないものづくりや加工の技術があります。それを強みに、新しい市場の創造へと繋げることができるといいのかなと思っています。

全日本製本工業組合連合会
https://zenkoku-seihon.or.jp/

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