井上総合印刷 デザインと折り加工が融合したものづくり~宇宙工学から生まれた「ミウラ折り」で印刷の魅力発信 

 栃木県宇都宮市の株式会社井上総合印刷では、コンパクトに折りたたむことができ、開くときは対角部分をもってパッと左右に引くだけの『ミウラ折り』の製造を行っている。同社では、東京大学名誉教授で航空宇宙工学者の三浦公亮氏が発明し、宇宙探査衛星のソーラーパネルに利用されている「ミウラ折り」を活用した製品の製造を一手に行っている。「ミウラ折り」を活用した楽しいものづくりについて、同社の井上加容子氏に話を伺った。

井上社長

強度と広げやすさが特徴の「ミウラ折り」

 井上総合印刷の業務は、パンフレット、チラシ、ポスターといった一般印刷物をはじめ、名刺、ハガキ、シール、封筒や包装紙などの商業印刷物、書籍や冊子等の出版印刷物に加え、クオカードやオリジナルパッケージなど特殊印刷物まで多岐にわたる。業務に一貫しているのが、“印刷を通じて地域に貢献すること”であ
り、最近ではレンタルスペース&カフェ(カフェ・インクブルー)や、観光地「大谷」にある老舗旅館をリノベーションしてオープンした蕎麦屋(そば倶楽部稲荷山)の経営なども行っている。

 同社の「ミウラ折り」との関係は、2017年にまでさかのぼる。知人の紹介から、当時、ミウラ折りを製造していた会社を紹介された。その頃、完全手作業で製造されていたものを、機械化することになり宇都宮に工場が移転すると決まり、印刷を発注できる会社として探しており、井上総合印刷が、印刷製造を受注することになった。

 井上総合印刷では速乾性のあるUV印刷機で印刷し、ミウラ折りの折り機で実際に折加工をするまでには、いくつもの課題があったが、約半年間の試行錯誤を重ねて実現。オフィシャルパートナーとして、印刷、一次加工、二次加工まで製造を全て担うことになった。

 しかし、ミウラ折りの権利を持っていた株式会社miura-ori labが2020年末に経営破綻したことを機に、2021年、井上総合印刷が「ミウラ折り事業」を譲受。これにより正式に印刷から折り上げまですべての工程を一貫して行う体制となった。さらに、三浦教授が所有する権利も含め、それまで分散されていた「ミウラ折り」に関する権利を整理し、全て同社が引き継いでいる。

さまざまに活用されるミウラ折り

 「ミウラ折り」の魅力について、井上社長は、第一に、強度と広げやすさという構造の特徴を上げている。「ミウラ折りの原理は、葉っぱの組織や虫の羽など生物のすべてに共通するカタチを採用したもので、宇宙開発の一端として開発され、その開発が身近なものになったのがミウラ折りなのです」と語っている。

 さらに、“折る”という行為が海外からも注目されているポイントでもあると解説する。「日本には折り紙の文化があり、幼い頃から“折る”行為は身近なものです。しかし、海外には折り紙の文化がありません。だからこそ三浦教授のミウラ折りは、海外からも注目されているのです」と魅力を語る。現在、「ミウラ折り」は教科書にも紹介されるなど、日本文化を反映した世界に誇れる“折り加工”として認識されている。

アーテイストびわゆみこ氏による PrintArt作品「umbel」(「umbel」は 井上総合印刷所からも購入できる)

「ミウラ折り」の可能性

 「ミウラ折り」を活用した代表的なものにマップがある。コンパクトに折りたため、開くときもパッとワンアクションで開くことができる。さらに折りの特徴から、普通に折りたたんだ形状のものよりも丈夫で破れにくい。そのため観光ガイドマップや山歩きマップなどで重宝する。

 最近ではアーティストによるデザインの融合にも挑戦しており、その一端は昨年開催されたIGAS2022の会場に展示された。その作品は、アーティストのびわゆみこ氏によるランプシェード「umbel」で、展示会のために特別に、ユリの花びらをスキャニングし印刷した「PrintArt」の世界。また、他の事例としては都内有名ホテルフロントデザインとしても採用された。ミウラ折りの複雑な折りの形状とライティングの融合が魅力的な空間を生み出すオブジェとなって訪問客を出迎えている。

 「ミウラ折り」については、専用のWebサイトも開設し、魅力を発信。具体的に何が作れるのか、どのような効果があるのかがわかりやすく解説されている。作例としては、マップの他に、パンフレット、マスクケース、レジャーシート、シェード、折袋(オリフクロ)などのほかに、間仕切り用のアコーディオンブー
スや、避難所で活用できる段ボールベッドなどがある。中でも秀逸なのが、レジャーシートやシェードで、コンパクトに折りたためるため収納に困ることがなく、大きく簡単に広げられる特徴が生かされている。
 マップのように開いたり・閉じたりを頻繁に行うものには表紙をつけ、表紙が邪魔になるレジャーシートやシェードには表紙なしの加工も選択できるなど、製造における自由度が高い。そのため、アイデアや活用シーンによって、様々な使い方の可能性を秘めている。

 井上社長は、改めて「ミウラ折り」の技術の全てを継承したことについての責任を感じているという。「ミウラ折りの可能性に応えるべく、これからも提供し続けていくことが責任だと思っています」。その一方で、魅力ある「ミウラ折り」を活かした新たな可能性も見出していきたいと意欲的で、その背景には経営方針である“印刷で地域に貢献”があると指摘する。「地元にも貢献していきたい、そして印刷業界も大切にしたい。地域に根差しながら業界を盛り上げていきたい」と展望している。

関連記事

最新記事