【KSI視察レポート】韓国・ソウル京畿道の出版都市坡州(パジュ)に本社工場を構えるKSI社を訪問 人手不足に悩む日本の印刷業界へヒント、Chae Jong Jun CEO が語る「集中制御・省人化」

デジタル印刷の後加工機器ソリューションを提供する株式会社トヨテックとニュープリンティング株式会社は6月26日、韓国・ソウル京畿道の出版都市坡州(パジュ)に本社工場を構えるKSI社(韓国学術情報誌株式会社)を訪問した。KSI社はデータベースを起点にデジタル印刷、オフセット印刷、製本工程に至るまでの自動化・無人化に取り組んでいる。印刷製造の次世代モデルを目指すKSI社のチェ・ジョンジュンCEO(Chae Jong Jun)にスマートファクトリーの現在地と未来展望を聞いた。

AI・データベース起点で印刷現場を再設計

KSI社が進めるスマートファクトリーは、AIとデータベースを起点に印刷から後加工までデジタル印刷とオフセット印刷・製本工程を自動化・無人化を進めることで、小ロット案件でも生産性を確保する狙いだ。

印刷需要の多様化が進む中で、必要な部数を必要なタイミングで製造する体制づくりを行っている。
チェ・ジョンジュンCEOは「スマートファクトリーの未来は、さらに高度な自動化と無人化を実現します。AIとデータベース連携を深化させることで、受注から出荷までの一連の流れをより滑らかにし、少量多品種に強い生産体制を構築します」と述べる。

チェ社長

印刷業界が直面する省人化、短納期化、品質安定化という課題に対して、KSI社の取り組みは一つの先進事例として注目される。

印刷・製本のスマートファクトリー化とワンストップ・ソリューション

KSI社は「BOOKTORY」ブランドを展開し、デザインから印刷、製本、配送までを自社内で一貫して提供する。最新のデジタル印刷機とオフセット印刷機は、厳しい色彩管理(CMS)技術によって高品質な印刷を行う。
同社が展開する論文・書籍印刷サービス「BOOKTORY」はパジュ(坡州)の自社印刷工場において、AIや自動化技術の導入を進め、 印刷データの自動エラー検知、自動面付ソフト「CTP自販機」、色彩管理(CMS)をAIの活用により、少部数多品種の印刷工程における人間の確認ミスを減らし、短納期化とコスト削減という目に見える成果を出している。

折り機工場
芳野YMマシナリー無線綴じ機
MasterNettowdork

「BOOKTORY」の生産拠点(坡州出版都市)では、5台のHPindigo、RICOHProなどPOD機、オフセット印刷機では菊全判RMGT1060TP4台、RMGT1060ST1台、芳野YMマシナリーの無線綴じライン、スタール紙折機11台の主要設備を持ち、自動面付けソフトCTP自販機」が入稿された多種多様なサイズ・ページ数のデータを、AIシステムが解析し印刷用紙に対して「どのページをどう配置すれば紙の無駄(ロス)が出ないか」を自動で計算し、一瞬で印刷用レイアウトを組み上げる。

HPindigo
HPindigo

KSI社は、自社開発ソフトへのAI(人工知能)搭載と生産現場の自動化・無人化を軸として、大幅な経営合理化を達成した。データベースから自動組版、製版、印刷、製本に至る工程に先端技術を導入することで、深刻化する労働コストの上昇に対応した。その結果、印刷・製本工程における人員を約60%削減するなど、自動化により劇的な生産性向上を実現した。
チェ・ジョンジュンCEOは、「韓国の労働市場は業績が悪くても給与を上げなければならないという構造的な課題を抱えています。加えて、残業代は通常の50%増、休日や夜間10時以降の労働に対しては200%増の支払いが義務付けられます。あらゆるコストを削減するのは経営者の仕事です。徹底してコストを下げることが、新たな仕事を作り出すことが可能になります」と述べ、市場競争を勝ち抜くためのコスト戦略の重要性を強調した。
同社は自社開発ソフトへのAI導入を強力に推進している。従来のワークフローを根本から見直し、データベースを用いた自動組版から印刷、製本までをシームレスに連携。特に製版工程においては、ファイルデータから製版、印刷、製本までを自動で完結させる「CTP自販機」の高度な自動面付システムを構築した。この取り組みにより、刷版工程の完全無人化を達成した。印刷および製本工程においても、従来比で約60%の人員削減に成功した。
印刷原価の削減は容易ではないとされる中で、KSI社が成長を続けている要因について、チェ・ジョンジュンCEOは「生産現場における徹底した自動化と無人化を行っています。当社はソフト面でのAI活用と生産設備の自動化を加速させており、ハードウェアとソフトウェア、そしてAIを高度に融合させた次世代のワークフロー構築を急いでいます」と述べる。今後の展望について、チェ・ジョンジュンCEOは「優秀な人材を確保し、ソフト、ハード、AIを密接に連携させることで、ワークフロー全体の自動化を完成させたい」と語った。人的資源を付加価値の高い分野へ集中させつつ、現場の生産活動は極限まで自動化・無人化を進めるという同社の戦略は、労働コストの増大に悩む印刷業界において、一つの先駆的なモデルケースとなりそうだ。

  • KSI社
  • (韓国名:韓国学術情報誌株式会社/所在地 30hoedonggri.paju.gyeonggi.korea)
  • 1992年設立。「坡州(パジュ)出版都市に本社を構え、2025年売上高は約400億ウォン(約44億〜46億円)、従業員約200名、韓国の印刷業界において売り上げ順位で8番目に位置する。デジタル印刷、オフセット印刷の圧倒的な設備力は韓国でも最大規模設備。パジュ(坡州)出版都市の自社工場ではデザイン・印刷から製本、配送までを「ワンストップ(One-Roof)」で完結する体制を整えている。
  • 1992年に韓国で初めて学術誌のデジタル化事業を開始し、現在では3,300以上の学会誌、135万編以上の論文をカバーする韓国最大のeジャーナルデータベースを持ち、世界中の大学や研究機関に提供されている。出版部門では学術専門書を中心に約9,400タイトル以上を出版、そのうち200以上のタイトルが韓国政府などの優秀学術図書に選定されている。BtoC向けを含め複数の専門ブランドのBOOKTORY(ブックトリー)は、学位論文や学術書の印刷・製本に特化し、一般ユーザーがオンラインで簡単にオリジナル写真集を作れるフォトブックサービス、エッセイ、小説、Webtoon(ウェブゥーン)などジャンルごとに10以上の専門出版ブランドを運営している。

生産革新を市場開拓の原動力に、AIが担うコスト戦略の中核

チェ・ジョンジュンCEOは、「生産現場の自動化・無人化が今後の市場開拓における最大の原動力と位置づけています。その戦略の要諦は、徹底した省人化によって生み出される圧倒的な価格競争力と生産キャパシティの拡大です。コストを下げて仕事を作っていきます」と明言する。

低コスト構造を武器に新規市場への参入や受注拡大を図る方針だ。この過程において、AIはワークフロー全体の最適化を担う「頭脳」としての役割を果たす。

具体的には、自社開発ソフトに組み込まれたAIが、膨大なデータベースの解析から自動組版、出力判断までを自律的に処理することで、人的ミスを排除しつつ24時間稼働が可能な体制を構築する。
また、韓国国内の急激な賃金上昇や労働規制への対応においても、AIによる無人化が解決の鍵となる。AIがハードウェアとソフトウェアを高度に連携させることで、熟練技能者に依存せず、高品質な印刷物を安定して供給できる体制を維持する。
同社は、AIを中核とした完全自動化をさらに進めることで、単なるコスト削減にとどまらない、次世代の印刷ビジネスモデルの確立を目指している。

左からイム専務ミョンウンミョンウン常務

KSI社は上製本(ハードカバー製本)向けソリューションとして日本のトヨテックから上製本アルバム制作の全自動化、スマートファクトリーを後押しするシステムを導入した。

「mitabook」とPUR無線綴じ機「SEB-400pur」3台を2024年から2025年にかけて導入した。韓国の出版・印刷市場では近年、書籍の小ロット多品種化が急速に進む一方で、製本品質への要求水準が高くなっている。フォトブックや記念誌、高級カタログ、教育教材など、耐久性とデザイン性を兼ね備えた製品への需要が増加しており、従来のEVAホットメルト接着剤を使用した無線綴じでは対応しきれないケースが増えていた。KSI社がPURおよび上製本ソリューションの導入に踏み切った理由は、まさにこうした市場の変化に対応するための戦略的判断であった。

アルバム合本機のmitabook
PUR無線綴じ機

PUR接着剤がもたらす製本品質の革新

SEB-400purの最大の特徴は、PUR(ポリウレタンリアクティブ)接着剤を使用した無線綴じ機能にある。PUR接着剤は従来のEVAホットメルトと比較して、接着強度が格段に高く、耐熱性・耐寒性・耐湿性にも優れている。これにより、製本後の本が極端な温度環境に置かれても、ページが剥離するリスクが大幅に低減される。
特に韓国では、夏季の高温多湿と冬季の厳しい寒さという気候条件があり、書籍の保管・流通環境は製本品質に直接影響を与えてきた。PUR接着剤を用いることで、過酷な環境下でも長期にわたって製本品質を維持できるようになったことは、エンドユーザーである読者や企業クライアントから高い評価を得ている。

mitabookが実現する上製本の自動化と効率化

一方、上製本ソリューションの「mitabook」の導入は、KSI社の生産工程に大きな変
革をもたらした。上製本はソフトカバー(並製本)に比べて工程が複雑で、丸み出し・背固め・表紙貼り込みなど多くの作業ステップが必要となる。従来は熟練職人の手作業に依存する部分が多く、生産速度の向上や品質の均一化が課題とされていた。
mitabookはこれらの工程を高度に自動化し、安定した仕上がりを実現するシステムである。デジタル制御による精密な工程管理によって、職人の技術に依存することなく、均一で高品質な上製本を量産することが可能となった。これにより、KSI社は小ロット案件でも採算を確保しながら、上製本市場への参入障壁を大きく引き下げることができた。

3台体制がもたらす生産能力と柔軟性

SEB-400purを3台導入したことも、KSI社の戦略の重要な柱である。3台体制を構築することで、機種ごとに仕様や用紙種類を切り替えることなく、並行して複数のジョブを走らせることができる。
納期が重なる繁忙期においても、ラインを止めることなく安定した生産を維持できるため、顧客への納期厳守と受注機会の拡大に直結している。
また、1台がメンテナンスや清掃のためにダウンしている場合でも、残り2台で生産を継続できるという冗長性(レジリエンス)は、製造業にとって極めて重要なリスク管理の観点からも評価できる。

導入の成果と今後の展望

mitabookとSEB-400pur 3台の導入以降、KSI社では製品不良率の大幅な低下と生産リードタイムの短縮が確認されている。高品質なPUR製本・上製本を武器に、これまでリーチできていなかった高付加価値市場へのアプローチが可能となり、受注単価の向上にもつながっている。
KSI社は今後、デジタル印刷とオフセット印刷」の連携を強化し、オンデマンド上製本の分野においてもさらなる成長を目指している。mitabookとSEB-400purを核とした製本品質の高度化は、同社が韓国製本業界におけるリーディングカンパニーとしての地位を確固たるものにするための、盤石な基盤となっている。

  • 豊田 保 氏 
  • 株式会社トヨテック代表取締役社長。少量多品種・デジタルプリントのワンストップソリューション実現をサポートし、デジタル印刷の前後加工機を提案・提供し、印刷分野に特化した自動機器の開発・製造・販売およびメンテナンスを行っている。多様な加工機は、製本・ラベル・パッケージ・建装材など、幅広い分野で活用できる製品を提案している。またイタリアMetis社の建材/文化財向け2.5Dスキャナー(カラー+3D凹凸データ)の日本代理店として、テクスチャーの色情報+3D凹凸+グロス情報を同時に取得。Metis社は特許技術であるDCシンクロライト光源システムにより1度のスキャンで幾千通りのライティング情報を取得し、木目や革目のシボーデータ、油彩表現のスキャンに最適で、ハードウェア/ソフトウェア問わず幅広く取り扱っている。
  • 高東寅 氏(コ・ドンギン 氏)
  • 韓国の印刷業界で幅広い知己を持つ印刷機材サプライヤー「WENET」代表。トヨテックコリア支社長。三菱王子紙販売株式会社(旧ダイヤミック)や芳野YMマシナリー株式会社、工藤鉄工所など日本の機資材を扱う。

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