【インタビュー】日本WPA 池上鎌三郎会長 水なし印刷から“環境ソリューションカンパニー集団”へ
水なし印刷を通じて環境にやさしく高品質な印刷物の提供を目的とした活動を展開している一般社団法人日本WPA(日本水なし印刷協会)は、6月24日、2026年定期総会&セミナーを開催し、任期満了に伴う役員改選で新会長に池上鎌三郎氏(株式会社ファビオ)を選出した。
WPAのルーツはアメリカにある。アメリカでは1978年の下水規制強化を機に水なし印刷への関心が高まり、1993年、印刷業者らが結集し、水なし印刷の採用を啓蒙するWPA(Waterless Printing Association)が結成された。同団体は水なし印刷実施のトレードマークをつくり、使用基準を明確化。そのトレードマークはのちにウォーターレスマーク(バタフライマーク)へと変更され、環境ラベルと同様に行政や企業、そして印刷業者からマーク取得の気運が高まっていった。
次第に日本でも水なし印刷を指定する企業が増加した。そして2001年、JGAS2001で、凸版印刷をはじめとする日本全国のWPA加盟印刷会社約20社が集まり、日本のWPA活動の第一歩を踏み出した。現在は水なし印刷の普及に加え、カーボンフットプリントへの取り組みやPGGソフトの提供など、活動の幅を広げている。
PGG(Printing Goes Green)は、印刷物のライフサイクルで排出される二酸化炭素量を、科学的根拠に基づき正確かつ簡便に計算するソフトウエアのこと。日本WPAでは、今秋、既存のPGGをリニューアルし、新PGGとしてスタートするなど、カーボンオフセット活動の推進と水なし印刷の普及を進めていく。新会長となった池上会長に日本WPAが進める環境にやさしい印刷事業を中心に話を伺った。

日本WPA会長
池上鎌三郎氏
会員企業一社ではできないことを組織の力で解決する
一般社団法人日本WPAは、「水なし印刷」を通じて環境にやさしく高品質な印刷物を提供することを目的に、環境保全・事業発展・普及活動に取り組む組織です。スローガン『この印刷物、工程まで美しい』のもと、水なし印刷の推進だけでなく、カーボンオフセット事業、CO2排出量を計算する「PGG」の提供など、水なし印刷を超えた活動を行っています。
事業方針としては、「水なし印刷の価値の向上」と「カーボンオフセットの普及」を通じて会員企業に還元することを大切にしています。印刷市場に水なし印刷とカーボンオフセットを普及・浸透させることで市場からの需要を増やし、会員企業と賛助会員の受注につなげる。同時に会員企業も増やすことを目指しています。
これはつまり、会員企業一社一社ではできないことを組織の力で解決しようということであり、それこそがWPAの役割だと感じています。
実際のところ、水なし印刷はまだ広く知られているとはいえません。加えて、一社単体でいくら頑張っても限界があります。
具体的には、水なし印刷のロゴマーク(バタフライマーク)の普及を目指し、お客様から「水なし印刷で印刷してほしい」と声が掛かるようになること。その結果として、会員企業の受注増加につながると考えています。
特に、来年から時価総額3兆円以上の企業に対して、また1兆円以上の企業については2028年から、製品におけるライフサイクル全体で発生するCO2排出量の可視化(スコープ3)が義務付けられます。まだ大手企業からのスタートであり、中小印刷業には関係ない話のように思えますが、取引先に大手企業がある場合、無視できない問題です。スコープ3が注目されているこのタイミングに、CO2排出量を可視化できるソフト(PGG)の提供は大きく注目される事業になっています。
環境に配慮した取り組みを進めることは、今もハードルの高い仕事です。特に首都圏と地方では関心の度合いに地域格差を感じます。行政の環境対策の推進を担当しているような部署であっても、「コストが掛かる」「入札が出来ない」という理由で断られることはよくあります。環境対応は目に見えない活動であることが、理解を浸透させることの難しさにつながっていると感じます。
水なし印刷も同様で、他の印刷方式と比較して誰もが一目でわかるほど品質に差があるわけではありませんし、カーボンオフセットの結果も目に見えるわけではありません。ですから、理解を広く浸透させていくためにも、粘り強く継続していくことが大事だと思っています。
そして、今からスコープ3などへの対応を進めておくことで、数年後に本格的に時代の要請が高まったとき、他社よりもレベル高く環境に配慮した活動を会員企業が提案・提供できる存在になっているということが大切だと思っています。
CO2排出可視化ソフトPGGを刷新
新年度の事業目標として、バタフライマーク掲載数は10%増、新PGG使用会員50社、新PGGになってもカーボンオフセット2,000トンの達成を目指します。
取り組み事業としては、水なし印刷の普及だけではありません。カーボンオフセットの普及と啓蒙として「カーボンオフセットセミナー」「ナレッジ共有勉強会」の提供、デジタル印刷機(POD含む)への展開なども行っています。
今秋には既存のPGGをリニューアルし、新PGGがスタートします。リニューアルのポイントは、感覚的に使えるよう操作性が簡略化されている点です。例えば、エアコンや照明など工場内の各装置について平均値があらかじめ登録されているため、簡単に扱えるようになる予定です。工場全体の電気消費量として僅かな部分は平準化し、本当に必要な数字をきちんと出すことで全体を効率化し、導入しやすいソフトとして脱炭素の活動を広く普及させていくことを目指しています。加えて、紙の種類を幅広くするなど改良し、中綴じや無線綴じなど後加工についてもフォローしています。
また、Jクレジットについては、これまで東北の東日本大震災復興支援のためのクレジットを優先的に取り扱ってきましたが、全国各地に会員企業がいることから、地元や目的など各社のニーズに合わせたJクレジットを選べるようにしていきたいと考えています。自社の事業目的に近い、あるいは地元に還元できるなど、身近な社会課題への対応や循環型社会をイメージしやすくなるのではないでしょうか。
会員が事業活動の中でJクレジットにトライしたくなるような仕組みを考えていきたいと思っています。
環境対応は企業の生存戦略になる
今後、環境に対応した取り組みは、単なる社会貢献やイメージアップの域を超えて「企業の生存戦略」に変化すると予想されます。サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量(スコープ3)の削減が顧客から強く求められるようになることで、印刷会社が環境対策を怠ることは失注の直接的なリスクにつながる可能性があるからです。
そこで日本WPAは会員企業に対して、単なる印刷事業者から顧客(発注元)の環境課題を解決するパートナーになることを提唱しています。「水なし印刷+カーボンオフセット」=「環境に配慮した印刷ソリューション」です。会員企業がお客様にとっての「環境ソリューションカンパニー」となり、競合他社と強力な差別化を図ることができるよう取り組んでいきたいと思っております。
現在の印刷業界は、元気のない話題ばかりが目立ちます。こういう時代こそ、組織としていかに儲けるか、いかに他社と差別化できるかという企業戦略を会員に還元していきたいと思っています。日本WPAの会員企業は、環境対応策を中心とした提案ができ、PGGを活用して明確な数値を提示できることから、リーディングカンパニーになりやすい立場にあると信じています。
これらは一社の頑張りだけでは実現できない、日本WPAという組織があるからこそ達成できている事業です。その組織の力を活用し、時代に応じた活動を推進していくべきだと思っています。
スコープ3の義務化も、大手企業から徐々に広がり、数年後に地方へニーズが及ぶというのがこれまでの流れです。しかし、その準備だけはしておく。ニーズが来たとき、日本WPAの会員企業であればすぐにでも対応できるようにしておくということこそが重要だと思っています。
「カーボンオフセット」や「水なし印刷」の認知度はまだ低く、顧客先へ浸透させ注目されるようにしなければなりません。小規模事業者にとって伝えるツールをつくることは大変なため、日本WPAではカーボンオフセットやCO2削減に関するチラシやパンフレットを用意しており、会員であれば誰でも使えるようになっています。
発注者から「環境対応にしたいから水なし印刷で刷りたい」という指名を増やすことが日本WPAの使命でもあると感じており、そうした声が増えることが一番うれしい成果です。環境印刷=WPAになれば、次のステップへと移る段階になるのではないでしょうか。
工場見学会やセミナーを通じて水なし印刷が持つ多くのメリットを伝え、バタフライマークとカーボンオフセットを広めていく。その結果、会員企業が他社と差別化できる総合的な“環境印刷”を提供する集団を目指していきたいと考えています。
▶日本WPAホームページは こちら
―出典:プリテックステージニュース 2026年7月15日号【暑中特集号】
この記事をシェアする