マーチング委員会 「マーチングEXPO2025」開催、地域の未来を支える“ローカルゼブラ”思想 全国の実践事例・コミュニティ形成・企業連携が示した地域活性の現在地
一般社団法人マーチング委員会は12月1日、東京都港区のコニカミノルタジャパン株式会社で「マーチングEXPO2025」を開催した。会場には各地域でマーチング活動を牽引する委員会メンバーが参加し、地域課題やコミュニティ形成、ローカルゼブラ企業の思想を共有した。
第一部では、株式会社ロードフロンティア代表の並木将央氏が登壇し、地域衰退の背景にある構造的課題や、地域を支える共助・互助の重要性について講じた。
続いて、マーチング委員会の井上雅博理事長が「マーチングイノベーション読本」を紹介し、活動を支える思想と実践の枠組みを解説した。
第二部では、各地域の委員会が事例発表を行い、現場から生まれた多様な取り組みが次々と報告された。文化資源を活かした観光企画や次世代技術との協創など、広がりと厚みを増す活動内容が示された。
地域の未来を支える「ローカルゼブラ」思想
冒頭では、マーチング委員会の井上雅博理事長が登壇し、新しくなったコニカミノルタジャパン本社のオフィスで開催できたことへの感謝を述べた。続けて「ローカルゼブラ」の概念に触れ、地域への貢献と企業の成長を両立させる姿勢が持続可能な社会につながると語り、委員会活動の重要性を強調した。また、「マーチングイノベーション読本」をリリースしたことも紹介。著者である並木氏によるローカルゼブラや成熟社会の地域活性化についての解説に加え、マーチング委員会の活動内容も掲載されている。会員の助けとなるツールを今後も提供していく意欲を示した。
第一部講演:並木将央氏が語る“地域を滅ぼす構造”とコミュニティの再構築
まず、並木氏が提示したのは「地域を滅ぼしているのは誰か」という問いだ。消滅可能性都市の問題を取り上げ、人口減少による治安悪化の本質は「犯罪が見えなくなること」だと指摘した。警察官の減少、空き家の増加が犯罪の温床となりうる現状を説明した。
さらに、地域衰退の根本原因について「親の愛が地域を滅ぼしている」と述べ、あえて強い表現で現状を突いた。地方の親が自らの仕事に誇りを持てず、子どもに「東京へ行った方が幸せになれる」と伝えてしまうことが若者流出を加速させていると説明した。「東京で必死に働いても500万円。しかし、地元で400万、300万でも幸せに暮らせるかもしれない。そう言い切れるだけの誇りと情景を取り戻さなければならない」と強調し、さらに地域の統廃合を防ぐには「金と人を外に出さない仕組み」が必要だと語った。
地域活性化の鍵は“コミュニティ” 四つの助と生産者マインドの重要性
並木氏は地域の思想や情景を変えてはいけないとしたうえで、その地の歴史・文化・自然を生かしながら地域課題の解決と利益の両立を図るローカルゼブラ企業の重要性に触れた。
「四つの助」(自助・共助・互助・公助)を再整理し、特に共助と互助の正しい理解が不可欠だと説明。多様な価値観をもつ人々が互いに尊重し合いながら協働し、地域に新たな繋がりをつくることが成熟社会の地域活性化につながると語った。
コミュニティの定義についても「情緒的な交わりと論理的なやり取りによる合意形成を基盤とした、共助をベースにした共同体」と説明し、人とのつながりを重視する姿勢が個人のキャリア形成や自己成長にも寄与するとした。また、多数の“生産者マインド”を持つ人材を呼び込むことで、強固なコミュニティが形成されると述べ、地域ごとに異なる課題を受け入れながら“地域のハブ”をつくることの重要性を改めて強調した。
マーチングイノベーション読本の紹介――地域の声を受けとめ、つなぎ、未来を育てる存在へ
続いて井上理事長より、新たに制作された「マーチングイノベーション読本」が紹介された。読本の冒頭では、
私たちは長年、地域に根ざした印刷業を営んできました。だからこそ、地域の声を受けとめ、つなぎ、新しいハブとなる力を持っていると信じています。
ひとつの会社では実現できないことも、共助の関係のなかで挑戦する。そして、その挑戦を後押しする存在でもありたい。
というメッセージが掲げられている。
井上理事長は「いろんな場面で活用して広めてもらえれば地域が元気になり、我々も元気になる」と述べ、読本が会員活動の後押しとなることに期待を寄せた。また、マーチング委員会のホームページでEブック版・PDF版を無料公開していると紹介した。
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地域マーチング委員会が各地の事例を発表
全国のマーチング委員会が今年度の活動を報告し、地域文化資源の再発見、教育支援、先端分野との協創、地域共創コミュニティの創出など、多分野にわたる事例が披露された。神楽を軸にした観光プラン、海外の日本人学校へのアート寄贈、ロボットスポーツによる新産業創出、地域から自然発生した交流会まで、委員会の取り組みは地域活性に貢献している。
みちのくマーチング委員会
みちのくマーチング委員会代表佐々木あきえ氏(永代印刷株式会社)は「地域魅力向上事業・モニターツアー経過報告」として、花巻市大迫町の神社と神楽を軸にした「神社周遊プラン」を紹介した。
盛岡市から約1時間、早池峰山の麓にある早池峰神社、佐々木氏の実家である大償神社、そして両社をつなぐ田中神社を巡る内容で、国指定重要無形民俗文化財・ユネスコ無形文化遺産である「岳神楽」と「大償神楽」を鑑賞できる特別公演を設定。盛岡駅発着の日帰りツアーとして企画され、地域観光魅力向上事業に採択され補助金も得た。
佐々木氏は、これまで地域と関わる活動が生活の延長にあり、実家である神社や、会社のことが常に一つの流れの中にあったと振り返り、「私の中に元々あるものだったので、地域の当たり前が、気づけば私自身の当たり前になっていました。ですが、インバウンドを人を呼びましょうという話になったとき、これまでの“私の当たり前”にはなかった視点や、こういうものがあればいいという新しい気づきをたくさんいただくことができました」と語った。さらに近隣住民からも歓迎されたことを話し、「会社も地域も豊かにする仕組みづくりを続けたい」と今後の展望を述べた。
いわきマーチング委員会
いわきマーチング委員会代表鈴木一成氏(株式会社いわき印刷企画センター)は、高雄日本人学校児童生徒への校舎イラスト寄贈について報告した。
いわき市で教員を務め、高雄日本人学校へ転任した佐藤貴一氏の依頼を受け、「湯島本郷百景」のイラストを手掛ける上野啓太氏が校舎の中庭風景をイラスト化。原画とクリアファイル、ポストカードを制作し、鈴木氏が直接学校を訪問して生徒へ贈呈した。
さらに鈴木氏は、今年3月に県内3社と共に発足した「福島県カプセルトイ協会(ふくガチャ)」の進捗も報告した。4月には郡山市役所で記者会見を開催。カプセルトイの“収集性・話題性・親しみやすさ”を活かし、観光振興、伝統文化継承、企業PRを支援する新たな地域メディアとしての役割を示した。
福島の魅力を“ガチャ”を通じて手軽に知り、来訪のきっかけを作ることを目指して活動を広げている。
あだちマーチング委員会
あだちマーチング委員会代表瀬田章弘氏(弘和印刷株式会社)は「ロボットスポーツ協会との協創・経過報告」として、一般社団法人ロボットスポーツ協会(RSA)の設立と活動の広がりを説明した。
瀬田氏は足立区だけでなく、ロボットスポーツ特区の相模原市でも活動を進めており、2拠点での展開となっている。RSAは2030年に日本初のロボットスポーツ世界選手権を開催する中長期ビジョンを掲げ、競技リーグの整備、ファンが熱狂できる大会づくりを進めている。
また、荒川区・足立区ではロボット製作教室を実施し、地域の子どもたちに“技術に触れる場”を提供。「地域に根ざしたロボットチームが増え、地域同士で対戦する未来をつくりたい」と呼びかけた。
もばらマーチング委員会
もばらマーチング委員会代表鎌田貴雅氏(株式会社さくら印刷)は「茂原交流会について」として、茂原から自然発生した地域コミュニティの動きを紹介した。
4月8日には、茂原市にあるコミュニティスペース「SAKURAGI」(さくら印刷運営)で「マーチングアカデミー」を開催。講師として並木氏が登壇し、「成熟社会の地域イノベーション」をテーマに講義を行った。後半の座談会では質疑が白熱し、予定時間を超える盛況だった。
この学びの場から“自発的に”生まれたのが「茂原交流会」である。有志が集まり、毎月ゲストを招き、地域課題を深掘りしながら「茂原をもっと元気にするには?」を議論するローカルコミュニティとなっている。
湯島本郷マーチング委員会
湯島本郷マーチング委員会代表利根川英二氏(株式会社TONEGAWA)は「湯島本郷マーチング通信 創刊100号記念セミナー」の開催報告を行った。長年にわたる継続発信の節目となる回であり、地域のつながりを強める情報発信活動の成果が共有された。
みずほFG、全国で展開する地域創生の取り組みを紹介
各委員会の報告の後、株式会社みずほフィナンシャルグループ(みずほFG)が、同社が全国で進めている地域創生の取り組みを紹介した。同銀行は47都道府県すべてに支店網を持つ唯一のメガバンクで、このネットワークを活用しながら各地域での支援事例を展開している。具体的には、物産展の開催支援、国内産品の海外展開、ビジネスマッチング、インバウンド観光客の誘致、公共交通を軸にしたMAASの実証支援など、多面的な取り組みが報告された。
取り組みのひとつとして、大手町タワーの「森のプラザ」で定期開催されている「あおまる47物産展」が紹介された。これは東京建物株式会社とみずほFGが連携し、全国の名産品を首都圏で発信する取り組みであり、地域の魅力発信と販路拡大に寄与しているという。
今回の「マーチングEXPO2025」では、各地の実践と議論を通じ、ローカルゼブラの思想に基づく地域活性の可能性が改めて示された。




