マーケティングと紙メディアで拡・デジタル印刷

マーケティングと紙メディアで拡・デジタル印刷

 デジタル印刷は多品種・少量生産を効率化する特性を持つ。オフセット印刷のように版が不要のため、1枚からの極小ロットにも対応する。しかしながら従来型の印刷ビジネスの視点で見ると受注単価が低くなるため、人員による積極的な営業活動がしにくい。それでは単価が上がればどうだろうか。もしくは印刷周辺領域までグロスで受注することができれば、視点が変わるはずである。1点ものを効率よく生産するデジタル印刷の特性を活かした仕組みや仕掛けを作ることで、「多品種・少量生産」にとどまらない価値を提供することができる。

 今年2月に開催された印刷・メディアビジネスの総合イベントpage2022のデジタル印刷関連のブースでは、モノづくりに価値づくりを加えた提案が例年以上に見られた。その一つがクライアントのマーケティング活動で、仕組みや仕掛けがつくれるソリューションである。例えば、マーケティングオートメーションや、データアナライズ、Webサイト、ユニークQR(可変QR)などとダイレクトメールを連携させ、生活者の購買行動に沿った施策が展開できる。

 スマートフォンの普及はデジタルマーケティングを加速させたが、近年、その効果が薄れていると指摘されている。販促メールやメルマガに消費者が反応しにくくなり、リーチが取れないケースが増えているという。反対にDMは確実に生活者の手元に届く。それがプッシュ型メディアの利点だが、開封せずに捨てられてしまうDMは少なくない。なぜなら受け手の興味をそそらない商品やオファーで、なおかつ購買のタイミングがずれていれば生活者は全く関心を示さない。買ったばかりの商品のDMが来ても、ほとんどの人は見向きもしないだろう。ただ、興味をそそる商品やオファーで、タイミングが良ければDMの効果は劇的に変わる。それにはどの生活者が何に関心を持っていて、本当に欲しがっているのかを知る必要がある。

 コニカミノルタジャパンの『Print バル』や、リコージャパンのKICK STRATで示されたユニークQRを活用したDM、富士フイルムビジネスイノベーションの『Marketing Cockpit』は、生活者の行動履歴から嗜好などを分析し、DMの対象者の絞り込みやパーソナライズ化されたDM(場合によってはデジタルメディア)の送付で、販促効果を上げるソリューションである。デジタル技術を活用し、紙メディアの価値を向上させることで、デジタル印刷ビジネスの売上は変わってくる。

消費行動から確度の高いアプローチ

 コニカミノルタジャパンの『Printバル』はプリントメディアをマーケティングオートメーション(MA)と融合させ、デジタルメディア同様に効果測定やデータ収集を可能とさせる。その結果、既存のMAに比べ、より多くのユーザーに的確にメッセージを届けることができる。印刷会社は印刷物の受注のみならず販促支援まで担うことでクライアントとの強固な関係を構築。運用は負担の少ない「スモールスタート」から始められる。

 デジタルマーケティングでは、eメールやウェブサイトといったデジタルメディアを通じて、顧客の行動測定や蓄積を行うことが鍵となる。Printバルで生成されたプリントメディアは、デジタルメディアと同様に、顧客毎に自動的に付与されたトラッキングQRによって、だれに送ったプリントメディアが、いつ読み込まれたか、また、読み込んだ顧客が過去に遡って、どのようなウェブ行動をしているのかを取得することができる。

 Printバルには、ウェブ行動分析、コンテンツ管理、ランディングページ作成、アンケート設置、メールの配信と管理、オートメーションシナリオの作成、トラッキングQRを含んだプリントメディア作成、セミナーなどのキャンペーン管理、顧客との接点記録などの管理の機能を持っている。これらの機能から、例えば、Webマーケティングでの課題を解決したい場合、eメールとプリントメディアを併用して効果的に情報を発信したい場合や、Webセミナーでの課題を解決したい場合など、状況に合わせて利用する機能を選択することができる。

Printバルのイメージ

 富士フイルムビジネスイノベーションの『Marketing Cockpit』は、同社がクラウド上に開発した独自のシステム基盤を用いて、オンラインとオフラインそれぞれの顧客接点から得られる購買履歴や行動履歴、顧客属性などのデータを統合し、顧客行動や販促効果を可視化・分析する。様々な顧客接点のデータを俯瞰し、より適切な対象顧客や施策を明らかにする。

 システム基盤上では、同社開発のAIが複雑な顧客属性や行動履歴を解析し、顧客をセグメント化する。例えば、デジタル広告の配信やDMの発送に有効なセグメントと顧客リストを抽出して提供。クライアントはより適切な対象顧客が分かり、販促効果の向上に繋げられる。

 Marketing Cockpitでは、Webサイトへの訪問者の閲覧行動に合わせ、パーソナライズされたコンテンツを適切なタイミングで自動表示させるといったWebサイト改善も可能。また、顧客ごとにユニークなQRコードをDMに付加し、Webサイト流入後の行動を計測するようなオンライン・オフラインの連携施策も支援する。

Marketing Cockpitのイメージ

 リコージャパンは印刷会社とともに事業を創出する活動KICK STARATで、ユニークQRコード付きのDMを提案している。例えば、自動車の購入者に車検を通知するDMに送付先ごとに異なるQRコードを印刷。DMを受け手がQRコードからWebサイトにアクセスすると、閲覧したページや時間などが追跡でき、誰がどの情報に関心を寄せているのかが分かる。受け手が車検のページよりも新車情報を見ている場合、買い替えに関心があると予想でき、次にDMを送る場合にその人には新車のDMを送付。逆に車検に興味があるようであれば、車検を促すDMを出すことによって、DMのターゲットとタイミングの精度を上げ、成果が出る確率を上げる。

QRコードによるマーケティング施策を提案したリコージャパンのpage2022ブース

 デジタル技術と印刷メディアを組みわせた仕組み・仕掛けは効果が高いと言われている。現在、そうしたソリューションが各ベンダーから提案されているが、最も重要になるのがクライアントとの関係性。そうした施策の実施にはクライアントの顧客情報と密接に関わってくるためである。クライアントのマーケティング施策に踏み込んだ営業活動も必須で、クライアントの課題を把握し、解決できる方法を考案して提案できる力も必要となる。

 クライアントの期待値を上げる最適な方法は、顧客に寄り添う日々の地道な活動を積み重ねていくことであり、顧客体験の向上がかかせない。様々な便利なツールがベンダーから提案されているが、有効に活用できるかはツールの優劣よりも利用する側の営業戦略が問われてくる。

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