PODi 「北米先進プリントビジネス視察報告会」を開催 米国の印刷会社5社を訪問した視察ツアーで得た知見と現地の声から日本印刷会社の成長と未来を語る

一般社団法人PODiは10月22日、東京都中央区のIncubation CANVAS TOKYOで「北米先進プリントビジネス視察報告会」を開催した。同イベントでは、8月に米国の印刷会社5社を訪問した視察ツアーから得た知見を基に、現地のリアルな声から印刷会社の成長と未来について語った。

Session1:
米国印刷会社の現在地:事業成長と経営の焦点

PODi 中尾誠一氏

「米国印刷会社の現在地:事業成長と経営の焦点」では、PODi 中尾誠一氏が日本と米国の印刷市場における構造的な違いを指摘した。米国の人口は日本の約3倍弱であるのに対し、印刷会社の数は日米ともに約2万社前後と大きく変わらないため、米国は1社あたりの市場規模(販売規模)が日本より大きい。また、米国では設備投資やM&Aが積極的に行われる傾向がある。

売上構成についても、日本がチラシや出版物中心であるのに対し、米国はダイレクトメール(DM)とマーケティング関連サービスが主力となっている。米国のDM市場は、SNSやEメールへの不信感・フィッシング懸念が高まる中で存在感を増している。紙のDMは家庭への開封率が約73%(2020年調査時点)に達し、何らかのレスポンス率も約20%と他媒体を上回る高い効果を持つ。視察した5社のうち4社がDMを主力事業としており、DMがデジタル印刷の普及を強く牽引していると述べた。

PODi 中尾誠一氏

視察ツアーで訪問したViso Graphics社、Johnson & Quin社、DataMail社、Polaris Direct社、Bradford & Bigelow社の5社では、単なる印刷作業にとどまらないビジネスモデルが普及している。米国では「10万部印刷してほしい」という受注ではなく、「売上を10%伸ばしてほしい」という顧客の成果に対する要望に応えるケースが多い。

具体的には、データ分析、デザイン、印刷、封入、発送、そしてマーケティング効果の分析までを一つのビジネスとして一括受注する「付加価値型ビジネス」へのシフトが進んでいる。日本で課題となっている価格競争による利益率低下と設備更新の遅れという悪循環に対し、米国では「差別化」によって利益を確保し、さらなる設備投資と差別化につなげる好循環を生み出している。中尾氏は、市場規模の大きさだけが成功要因ではなく、顧客に何を提案し、どこで利益を生み出すかという戦略の違いに注目すべきだと強調した。

中尾氏は「印刷会社」という自分たちの定義を、自ら変え続ける姿勢が重要であると強調した。自社を単なる印刷業と定義せず、コミュニケーション支援やサプライチェーンの最適化を担うパートナーへと立ち位置を更新し続けることが、米国の先進的な印刷会社の成長要因となっている。

中尾氏は視察から得られた知見として、日本の印刷会社が今後重視すべき経営の視点を提示した。設備投資については「新しい機械」を買うこと自体を目的とするのではなく、バリアブル印刷や短納期対応といった「新しい能力」への投資であると定義した。単なる速度向上ではなく、これまで獲得していなかった能力を手に入れることで、顧客への提案幅を広げる。

価格競争からの脱却に向けては、「印刷単価」の比較ではなく「顧客の総コスト」を見る重要性を説いた。在庫管理費、倉庫費、廃棄ロス、物流費まで含めた顧客側の総コストを削減する提案を行うことが、印刷会社の利益率向上につながる。さらに、既存の工程を改善するだけでなく、インライン加工の活用などによって、不要な工程そのものをなくすという発想が、労働力不足への対応と圧倒的な効率化を生むと解説した。

中尾氏は総括として「一言で語るのは難しいがデジタル印刷への投資は、ゴールではない。会社を変えるための『入口』である」と語り締め括った。

Session2:
米国の出版・書籍 印刷の未来像

錦明印刷株式会社 本間裕一氏
パラシュート株式会社 兵藤伊織氏

セッション「米国の出版・書籍印刷の未来像」では、錦明印刷株式会社の本間裕一氏とパラシュート株式会社の兵藤伊織氏が登壇し、米国の印刷業界の現状と日本の課題を検討した。

(左から)錦明印刷 本間裕一氏、パラシュート 兵藤伊織氏

本間氏は、教育書籍に特化した米国のBradford & Bigelow社を視察した経験を報告した。同社は扱う書籍のサイズや仕様をほぼ統一しており、ウェブサイト上でも特定のサイズ以外は受注しない方針を明示しているという。大ロットから小ロットまで3段階に機械を使い分け、デジタルとオフセットを品質面で両立させている点を評価した。

一方で、日本での実現可能性については、デジタル印刷での小ロット対応はコスト上昇を招きやすく、オフセットの品質基準に合わせようとすると紙の選定を含めたコストがさらに上がると指摘した。日本の紙の銘柄は多様であり、ロール紙によるデータ取りを前提とした仕様統一は出版社側の理解を得にくいため、米国と同様の環境を整えることは困難であるとの見解を示した。

兵藤氏は、前職で取扱説明書の自社内デジタル印刷化を推進した経験に基づき、紙のサイズや種類を固定することが生産効率の鍵であると強調。ターゲットを絞ることで輪転機の稼働率を高める米国の専業化モデルの優位性を説いた。

両氏はデジタル印刷による変革と紙媒体の価値についても議論した。兵藤氏は、日本の書籍は品質が高い一方で、ジャケットや帯といった付加的な仕様が多く、コスト高の要因になっていると分析。出版社が印刷会社の要望を受け入れない「出版社の言う通りに作ってきた文化」が日本のデジタル化の障壁であると指摘した。ただし、絶版本や限定本を中心にデジタル印刷への移行は着実に進んでいると現状を説明した。

教育分野における動向について、本間氏はタブレットやスマートフォンへの移行が一巡し、紙媒体への回帰が起きている感覚があると話した。兵藤氏も、自身の子供が「タブレットより紙の方が覚えやすい」と話した経験や、韓国・欧州で教科書を紙に戻す動きがあることを紹介。デジタルと紙の二項対立ではなく、両方を組み合わせることの重要性を主張した。

今後の業界のあり方について、兵藤氏は出版社が印刷会社に対して過去と同等の価格を要求し続けている現状を問題視した。印刷会社が主体的に声を上げ、提案や交渉を行わなければ出版業界全体が縮小すると警告し、印刷会社が主導権を持ってビジネスモデルを構築する必要性を強調した。

同セッションを通じて、米国の成功事例を参照しながら、顧客接点との連携強化によるビジネス成長の必要性と、日本特有の課題を克服するためのアプローチが多角的に検討された。

Session3:
若手マネジメントが見た米国型経営とは
東洋美術印刷株式会社 山本康喜氏
株式会社ニシカワ 西川一城氏
錦明印刷株式会社 塚田瑛司氏

セッション「若手マネジメントが見た米国型経営とは」では、東洋美術印刷株式会社の山本康喜氏、株式会社ニシカワの西川一城氏、錦明印刷株式会社の塚田瑛司氏の若手マネジメント3名が、現地のリアルな声から印刷会社の成長と未来について討論した。

セッションの冒頭、登壇者が最も印象に残った訪問先企業を挙げ、米国型経営の特徴を分析した。
塚田氏は、多様性と品質を両立させ市場ニーズに合わせて自社を変革するViso Graphics社と、出版・教育という特定セクターに特化するBradford & Bigelow社を対比し、「自分たちの強みに合ったマーケットを選ぶ」戦略の重要性を強調した。


(左から)ニシカワ 西川一城氏、錦明印刷 塚田瑛司氏、東洋美術印刷 山本康喜氏

山本氏はViso Graphics社を挙げ、20代後半から30代の後継者がMIS(経営管理システム)とAIを連携させた見積もり自動化を短期間で実現している点や、テクノロジーへの深い見識を評価した。西川氏は、女性が代表を務めるPolaris Direct社に着目し、マーケティング視点から立ち上げられた組織ゆえの「成果を作り上げるための仕事」という姿勢が強い点を特徴として挙げた。

日米の経営の差異について、山本氏は訪問した企業の多くがダイレクトメール(DM)事業を手がけている点に触れた。米国ではテレビ、DM、ウェブの3種のアプローチの中でDMのROI(投資利益率)が最も高いというロジックが共通認識となっている。One to Oneマーケティングの徹底や輸送費削減、印刷の標準化によって顧客を説得する一貫したロジックが、業界の明るい未来を支えているとの見解を示した。
塚田氏は、米国企業は「自分たちが何を提供するのか」という提供価値の軸が明確であり、マーケティング戦略立案支援などのバリューチェーン上流で強みを発揮していると分析した。また、西川氏は広大な国土をカバーするためにウェブ受注体制とマーケティングが高度に連動し、営業人数を最小限に抑えている体制を指摘した。

日本の強みについて西川氏は、クリエイティブ人材と営業人材が社内に共存している点を挙げた。塚田氏も、日本の商業印刷会社はクリエイティブや企画提案力が高く、米国の淡白なDM物と比較して優位性があるとの認識を示した。最後に、業界活性化に向けたメーカーへの要望として、メーカー間のデータ互換性の確保や、前後工程を含めた顧客課題解決への支援、現場経験の少ない営業担当者へのサポート体制の充実などを求めた。

Session4:
DM運用とマーケティングの革新
大和美術印刷株式会社 篠田直宏氏
株式会社阿部紙工 小笠原琢哉氏
共同印刷株式会社 池田諒平氏

セッション「DM運用とマーケティングの革新」では、大和美術印刷株式会社の篠田直宏氏、株式会社阿部紙工の小笠原琢哉氏、共同印刷株式会社の池田諒平氏が登壇し、視察先での学びを共有した。

池田氏はDataMail社を最も印象深い企業として挙げ、1日400万通の発送能力や、1人でプリンター台を運用できる効率的な生産体制、営業や設計開発担当が少ない徹底した効率化を報告した。
小笠原氏もDataMail社に着目し、複数社の郵便物をまとめて代行発送することで郵便料金を約60%削減する「郵便料金適正化サービス」を紹介した。材料コストをかけずにデータ処理や仕分け費用で収益を上げるビジネスモデルを評価するとともに、封筒をほぼ自社製造している点に日本の商習慣との違いを指摘した。

(左から)共同印刷 池田諒平氏、阿部紙工 小笠原琢哉氏、大和美術印刷 篠田直宏氏

池田氏はDataMail社を最も印象深い企業として挙げ、1日400万通の発送能力や、1人でプリンター台を運用できる効率的な生産体制、営業や設計開発担当が少ない徹底した効率化を報告した。
小笠原氏もDataMail社に着目し、複数社の郵便物をまとめて代行発送することで郵便料金を約60%削減する「郵便料金適正化サービス」を紹介。材料コストをかけずにデータ処理や仕分け費用で収益を上げるビジネスモデルを評価するとともに、封筒をほぼ自社製造している点に日本の商習慣との違いを指摘した。一方、篠田氏はPolaris Direct社を挙げ、自社に近い中小規模ながら広告代理店に依存せずクライアントと直接接点を持ち、2015年頃からDMとデジタルを連携させた独自のマーケティングサービスを構築している点を評価した。

日本と米国のDM市場の違いについて、小笠原氏は米国では新規顧客獲得の起点としてDMを位置づけ、そこからナーチャリングを展開する手法が主流であると指摘した。既存顧客接点を前提にDMを活用する日本とは、マーケティングの順序が逆であるという見解を示した。
品質面について池田氏は、米国では封筒が雑然と積まれていたり不備率に許容基準があったりと、品質に対する寛容さがあると述べた。日本の高品質志向が米国型のビジネスモデルではコスト面での障壁になる可能性に触れた。
篠田氏は米国において金融、政府政策、ヘルスケアの3分野は法律で紙による送付が義務付けられているという情報を共有し、選挙関連の通知が巨大なDMビジネスを形成している背景を解説した。

日本の印刷会社の課題として池田氏は、米国の印刷会社が「自社のビジネスはマーケティングである」と定義しているのに対し、日本は依然としてものづくり志向から抜け出せていない点を挙げた。小笠原氏は、専門分野を深掘りし、効果測定のフィードバックを継続的に顧客へ提供しアクションに繋げることがマーケティングの実践であると述べた。

将来展望として、池田氏は「DMは伸びる分野」と自信を持って提案する重要性を説き、小笠原氏は印刷をBPO(ビジネス・プロセス・アウトソーシング)ビジネスとして位置づけることが鍵になると述べた。篠田氏は人口減少による市場縮小を見据え、新しいビジネス領域の開拓と規格化・標準化の推進が必要であると指摘した。

会場の様子

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