プルキャスト 小ロットジョブを効率処理するプロダクションワークフロー

プルキャスト 小ロットジョブを効率処理するプロダクションワークフロー
岡本幸憲氏(左)と近藤寛一氏
岡本幸憲氏(左)と近藤寛一氏

株式会社プルキャストは小ロット・多品種化の課題を抱える印刷会社に対し、プリプレス処理を自動化する「PC One Flow」の提供を開始した。なぜ、プリプレス処理の自動化が求められるのか。市場の変化を含めた背景について同社社長 CEOの岡本幸憲氏とCOOの近藤寛一氏に話を聞いた。

量の確保が現場の混乱を招く

印刷の本来の価値は顧客のビジネス支援やコミュニケーションの円滑化である。そこでは1枚当たりの単価やコストの価値があまり問われない。クライアントのビジネスの成長への関わりが期待されるからである。
デジタル印刷は小ロット生産、納期短縮の適性を持った生産手法だが、クライアントのビジネスを支援する上では強力なツールになり得る。多様化する顧客のニーズに対し、デジタル印刷によりバージョニングやパーソナライゼーションされた印刷物はクライアントに、消費者もしくは取引先と正確なコミュニケーションを取りやすくするというメリットをもたらす。
Web to Printと連携することでもデジタル印刷は大きな価値を生む。多拠点間で展開する企業の場合、地域や顧客の特性によって各拠点で必要とされる販促物の種類や部数を変える傾向にある。これを各拠点で発注していたのでは中間コストが膨らみ、高い費用対効果が見込めない。かといって、本部が各拠点の要望を聞きながら、多品種に渡る印刷を発注していたのでは管理や業務が一極集中して煩雑化し、負担が重くなる。Web to Printはそうした各拠点で必要な販促物を効率よく発注でき、かつ、本部が統合管理できる仕組みで、販促物の投資効率を高める。

デジタル技術を取り入れたマーケティング手法が進化している中で、印刷会社の都合が前面に出てしまってはクライアントが振り向いてくれない。印刷会社がデジタル印刷を単なる小ロット生産、納期短縮のツールとして、また、Web to Printを受注・営業窓口の一つと認識したままだとすれば、おそらくクライアントにとって有効なソリューションの提案は難しくなるだろう。クライアントの意識がどこにあり、どこに価値を見出すかが、デジタル印刷ビジネスのスタート地点になってくる。

Web to Printのソリューションや支援ツール、コンサルティングを提供する株式会社プルキャスト社長 CEOの岡本幸憲氏は、前職のプリントサービスプロバイダー企業でそうした状況と正面から向き合い続けた。その結果、既存のビジネスの仕組みや生産手法の中だけで動き回る自分に限界を感じ、4年前に同社を起業することになる。

「Web to Printで囲い込んで量を確保したくなる。でも、この仕組みはお仕事下さいではなく、契約して下さいという話。つまり、Web to Printで受注したら、お客様の期待通りの品質の製品を安定的に供給できなければならない。また、営業担当者が介在しない分、明日の受注量が予測できない。多くて3,000部だったものが、今日、突然3万部も入ってきたらどうなるか。契約を守れなくなるリスクを負うことになる」
岡本氏はそうした場面に出会う印刷会社の多くが人海戦術に頼ると指摘する。仮にピークに合わせて人員を確保し、設備を導入しても、生産現場の稼働率は低いままに推移し、利益を圧迫するので現実的ではない。だから、無理が利くうちは無理を利かせるが、やがて限界はくる。
岡本氏本人も前職で岐路に立たされたことがある。あるクライアントから、「うちは管理顧客数が3,000万人。そこからセグメントしてバリアブルのDMを送付するカスタマーは750万人だけど大丈夫?」という話が寄せられた。とても1社で賄いきれる量ではない。協力会社に依頼するにしても、自社と同じ品質、納期が担保できる保証もない。結局は「フロント側はいくらでも提案できるが、生産できるリアルなバックヤードがなければ実現ができない」と痛感することになる。

自動化で多ジョブを効率処理

PC OneFlowが理想とするプロダクションワークフロー
PC OneFlowが理想とするプロダクションワークフロー

おそらく出力だけの問題であれば、ある程度は対応できたかもしれない。しかし、受注したジョブの管理、プリプレス処理のプロセスを考えた時に、人手に頼っていたのではスケールが追求できない。受注するフロントの部分は大きな口が開いており、理論上、いくらでも受注できる。出力側もデジタル印刷機の進化でインクジェット機のように高速出力に対応できる機種を選択することができる。しかし、ジョブ数が増えれば増えるほど、その中間地点にある、印刷データを受け取り、最適化して出力に受け渡すプリプレス処理がボトルネック化する恐れが生じるのである。
同社COO(最高執行責任者)の近藤寛一氏は「フロントはいくらでも効率化できるということ。現にクライアント自身がシステム会社に依頼して、Web受注の仕組みを作ってしまうことも出てきている。ただ、フロントが大きく前進しても、バックヤードが疲弊してしまっては結果が伴わない」と指摘する。
同社は2016年2月に開催されたpage2016で、Web to Printの仕組みと、製造工程をつなぎ、小ロットで大量のジョブのアウトプットを増やす「PC OneFlow」を発表した。PC OneFlowはプリプレス処理を効率化するソフトウェアである。受注したPDFなどの印刷用データと受注情報から、紙種や頁数、判型、色数などある一定のルールに基づき、ジョブを自動的にグループ化し、用紙替えなどの出力準備の回数を減らす。また、面付けやカラーマネジメント(両方ともオプション)も自動化し、受注から出力前までを省力化。これまで工務やプリプレスの担当者が時間をかけてこなしていた作業から解放される。
「自社でプリプレス処理を自動化する仕組みを構築しようとしても、投資額が大きくなり、効果は低くなる。PC OneFlowというツールはリーズナブルなコストで導入できる。運用に際しては私たちがこの20年間築き上げてきたノウハウを提供するのでスピード感やシステムの柔軟性も持たせられる」(岡本氏)

プルキャストが目指すのは市場の活性化。クローズで限られた部分でWeb to Printが採用されても、デジタル印刷自体の市場は広がらない。市場をボトムアップさせるために、同じ課題を抱える印刷会社を支援する黒子に徹し、スタンスはあくまでニュートラルでノンバイアス。様々なベンダーと協力しながら、印刷会社を支援していくという。その先には印刷会社、ベンダーとともに、正しい印刷ビジネスの生態系を見据える。
岡本氏は「クライアントはネットとリアル(印刷など)を同じスピードで利用したいと考えている。一方、紙の価値を再認識し始めており、販促企画の中には店舗での購買につなげるPOPやDMという言葉が入ってきている。ここで印刷の価値をきちんと伝えていかなければならない」と力を込める。
岡本氏がDocuTechに出会った時には約20年前。その時に「パーソナライゼーションで正確なコミュニケーションができる」とデジタル印刷の重要性に気付いた。そこから悪戦苦闘しつつ築き上げたデジタル印刷運用のノウハウは計り知れない。今まさに印刷現場にその技術を注ぎ込もうとしている。

株式会社プルキャスト
TEL 03-5733-0886
http://pullca.st/

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