モリサワ 「モリサワフォントができるまで」を公開 企画から製品化まで6つの制作工程を徹底解説
株式会社モリサワが、自社Webサイトにてフォントの企画から製品化までの道のりを詳細に解説した記事と動画を公開している。本稿では、リリースとして発表された内容を紹介する。
モリサワフォントができるまで

モリサワではさまざまな種類のフォントを制作し、毎年新しくリリースを行っています。
学校のレポートや仕事の書類によく使用される「明朝体」や、看板やサインでよく見る「ゴシック体」、お菓子のパッケージやポスターなどに使われる「デザイン書体」など、さまざまな種類のフォントが存在します。
フォントを変えるだけで、イメージや読みやすさが変わることもあり、情報を伝える場面やデザインの分野においてフォントは非常に重要な役割を果たしています。
そんなさまざまなフォント。新しいフォントができあがるまでには、長い時間がかかっているのをご存知でしょうか?
今回は、モリサワのフォントができるまでを、以下の6工程でご紹介します。
モリサワフォントができるまでの工程
- 1.リサーチ
- 2.企画
- 3.デザイン設計
- 4.文字拡張
- 5.検査
- 6.製品化
1. リサーチ
フォントの開発工程は特殊なものと思われがちですが、実際には一般的な製品開発と同じ工程で行われます。どんな製品を開発するか決める前に、「リサーチ」が必要です。
フォントの場合、どんなフォントを作っていくか企画を考えるのはタイプディレクターの役割。いろいろなものを参考にしながら構想を練っていきます。


実際に街中へ出てみて、気になったものは写真を撮ってストックしたりもします。
最近人気のあるフォントの傾向を探ったり、既存の書体で応えきれていないニーズはなにか、などデータを分析しながら考えることもあります。
日常で触れるさまざまなものが、フォント開発のヒントになります。
1. 企画
次は「企画」。ここからチームを編成して進めていきます。
主に以下の担当者でプロジェクトを進めていきます。
タイプディレクター:プロジェクトの発案、進行管理を行う
タイプデザイナー:提案に沿って文字を形にしていく
エンジニア:書体デザインをフォントとして完成させる
プロジェクトチームでは、リサーチ結果などを踏まえて、企画のコンセプトを共有し、利用シーンの想定や、デザインの方向性、用意する太さの数、特殊な機能などを細かく設定していきます。

フォントは文字のデザインだけで完成するものではなく、プログラムとして機能するために多くの情報を設定します。開発が進んで後戻りすることのないように、企画やコンセプトに無理が生じないか、しっかりと検討を行います。
企画会議で話し合われること
コンセプト:デザインの方向性、利用シーンの想定
仕様:文字セット、ウエイト(太さ)
特殊機能:OpenType機能、追加文字 など
こうして開発着手が決まると、デザインに取り掛かっていきます。
といっても最初は試作の段階で、目的にあわせて複数のパターンを作ったり、デザインがあらゆる文字で成立するかの検討をしたりします。

デザインのモチーフも、社内でゼロから起こすこともあれば、例えば書家の方の協力を得て着想を得ることもあります。
日本語はもちろん、欧文をはじめとする海外のフォントを作る際も、さまざまなスタイルからヒントを得ています。デザインのトレンドに沿うよう、こうした会議は年間を通じて行われています。
3. デザイン設計
企画会議でコンセプトが決まると、コンセプトを形にしていく一番はじめの作業としてタイプデザイナーチームが「デザイン設計」を行います。
一つのフォントに収録されている文字は、日本語フォントでは少ないものでも約4,000字、多いものだと20,000字を超えるものもあります。

どの文字を収録するかを定める「文字セット」や、太さのバリエーションをいくつ用意するかによっても、制作に必要な文字数は異なります。
全ての文字を一斉に作り始めるのではなくて、まずは基準となる、いわゆる「モデル文字」の開発から取りかかっていきます。

モデル文字は大体400~600字。縦線や横線、へんとつくりのバランスや、とめ・はね・はらいの形状などに書体として統一性を持たせるための基準となり、全ての文字にとってのデザインの基礎になります。
これらの文字を作りながら改めて「コンセプト通りのデザインが成立するか」を検討していきます。
画数が多い文字が黒くなりすぎないように工夫するなど、この段階から細かなチェックを繰り返し行っています。

この作業は主にメインのタイプデザイナーが担当しますが、もちろん他のデザイナーとも協力して進めていきますし、タイプディレクターともやりとりを密に行っていきます。
4. 文字拡張
デザインが定まると、次に「文字拡張」を行っていきます。決めた文字セットに合わせて、文字の数を増やしていく作業です。

一つのフォントに携わるタイプデザイナーは、プロジェクトにもよりますが、およそ2~3人です。何千、何万という文字を、かな、漢字、数字や記号、アルファベットなど分担して作っていきます。2~3人と聞くと少ないと感じるかもしれませんが、人数が多ければそれだけ効率が上がるというと、そうではありません。
モデル文字を基準に作成をしていくと言っても、全ての文字が一様に同じパーツを使って構成できるわけではないからです。

点の位置を文字ごとに少し変えたり一本の線のように見えても微妙に太さが変わっていたり、デザインのコンセプトと読みやすさとのバランスを考えて、デザイナー同士がやりとりをしながら一文字一文字、じっくり時間をかけて作られていきます。

最近では、部首やエレメントのパーツを使って制作するスタイルもあります。書体のコンセプトに応じて最適な作り方をチームで検討しています。
文字をつくる中で迷ってしまう場合は、すぐにチーム内でコミュニケーションを取ります。デザインの統一感が損なわれないように、互いのイメージやニュアンスを明確に言語化する、ということを特に心がけています。
5.検査
デザインされた文字が揃ったところで、次に大切なのは「検査」です。
実際にフォントを使う際には、文字一つずつだけでなく、熟語や文章として、複数の文字を組み合わせて使うことがほとんどです。
それを踏まえ、この段階では「文字を組み合わせて使ったときに不自然ではないか」をチェックしていく必要があります。

いくつかの熟語や文章を実際に組んでみると、前後の文字と比べた時の黒みや、サイズ感の違いなどが見えてきて、どこを調整したらより自然に、より読みやすくなるのかを検証することができます。

最近のフォント制作はデジタルデバイスで作業することがほとんどですが、実際に紙に印刷したときにどう見えるかも重要なポイント。
検査の段階でも、オンスクリーンだけでなく、実際に紙に印刷してみる、ということを必ず行います。
時間をかけてチェックと修正を繰り返し、「とにかく よく見ること」。モリサワが文字と向き合うときに、昔からずっと変わらずに大切にしていることです。
6.製品化
次に、エンジニアチームが手掛ける「製品化」です。
実際にフォントを使うアプリケーション上で正確に動作するためのあらゆる調整や、コンセプトに沿った機能の実装など、フォントを製品としてきちんと使ってもらえるようにプログラミングしていきます。
アウトライン編集

「アウトライン編集」では、これまでの作業で出来上がったデザインのマスターデータの品質チェックを行います。デザイン上では一見OKでも、フォントにする上ではエラーと認識されてしまうポイントがあります。
例えば、文字のパーツの輪郭同士が近すぎたり、線の交わり方が鋭角になりすぎると、エラーになってしまいます。線が太くなると輪郭同士の距離も近くなり、エラーも出やすくなったりします。
また、データ上エラーにならなかったものも、ラインがはみ出したりしていることもあるので、最終的に肉眼での判断となります。
ビルド

続いて「ビルド」と呼ばれる作業に移ります。文字コードをアウトラインと紐付けたり、フォントごとに特殊な機能を呼び出せるように作り込んでいく、プログラミングのような作業です。
最終評価
最後にいよいよ、「最終評価」を行います。
ここでは、これまでの工程で行ってきたような誤字のチェックはもちろん、アプリケーション上で正しく動作するかの確認をフォントごとに行っていきます。
正しく動作しない時はまず、フォント自体の問題なのかアプリケーションの問題なのかを判断します。
最近ではフォントのあり方も大きく変わってきました。
より多くのシーンで、より豊富な表現を可能にするために、フォントごとに適切な機能を付随させていくことが求められています。エンジニアは、プロジェクト全体を支える縁の下の力持ちのような存在です。
ついにリリース!
こうして無事に全工程を終えたフォントは、いよいよリリースを迎えます。
このように、フォントは非常に長い時間をかけて企画・制作・検査などを経てリリースされているのです。
ここまでの工程を見て、フォント作りは文字の形をデザインすることだけではないことを知っていただきました。
一人ひとりが丁寧にフォントづくりに取り組み、多くの時間をかけて作られたからこそ、モリサワのフォントはいろいろな場所で使われています。

時代が変わり、文字の在り方も変わってきましたが、それでもずっと大切に守ってきたものは、
人の目で繰り返し見ていくこと。
一人ひとりの丁寧な仕事ぶり。
一つひとつの緻密な作業。
どの工程も、モリサワフォントには欠かせません。
▼動画はこちら
モリサワのフォントサブスクリプションサービス「Morisawa Fonts」
▶https://morisawafonts.com