正文舎 印刷DX『デジタルプリントファクトリー』~ 無人でデジタル印刷機が稼動

正文舎(北海道札幌市/岸 昌洋社長)とリコージャパンは共同で、モノクロプロダクションプリンター『RICOH Pro 8320S』に、MIS(経営情報システム)とRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を連携させ、印刷DX(デジタルトランスフォーメーション)を実現した『正文舎デジタルプリントファクトリー』を開設した。ファクトリーは北海道札幌市の正文舎本社内に設置。MISに入力された受注情報をもとに、RPAの『リコープリンティングROBO』が『RICOH Pro 8320S』に自動的に印刷指示を出すもので、ほぼ無人でモノクロプロダクションプリンターが稼動する。主にモノクロの頁物、バリアブル印刷物を生産しており、オフセット印刷のプロセスと比較して倍の生産スピードを達成している。7月13日に開いた報道向けの見学会には正文舎 代表取締役の岸昌洋氏、リコーグラフィックコミュニケーションズBU プレジデントの加藤茂夫氏、リコージャパンPP事業部事業部長の三浦克久氏らが出席。同ファクトリーの概要と狙いを説明した。

ほぼ無人で稼動するモノクロプロダクションプリンター。人が介在するのは紙の補給程度。
ほぼ無人で稼動するモノクロプロダクションプリンター。人が介在するのは紙の補給程度。

正文舎は1934年に創業し、書籍印刷を主力業務としてきた。大量ページを効率的に組版するために、あらかじめ決められた作業を一括で行う同社のバッチ処理の技術は、現在、大量・高速のバリアブル印刷を可能にするデータ処理技術の基礎となった。印刷で培ったグラフィックとデータ処理のノウハウはWeb制作にも活かされている。

今回開設した『正文舎デジタルプリントファクトリー』(DPF)のコンセプトの一つが“Goodbye Chemical Reaction”(化学反応よ、さようなら)。オフセット印刷の紙面乾燥で発生する酸化重合などの不確定要因を排除し、数値的な管理の元にデジタル印刷機を中核にした生産環境の実現を目指した。

「オフセット印刷は納品数と同量の予備紙を必要としたり、廃液や有機溶剤が発生したりします。不安定なオフセット印刷に適した仕事が今後、当社にどれだけ残るのか疑問を感じてきました」という同社の岸社長は、事業の継続と成長に向けて、デジタル印刷を活用した価値の創出と働き方改革につながる生産のイノベーションを考え続けてきた。そのビジョンが一気に動いたのは2020年10月。申請していた補助金の採択が引き金になった。急遽、食堂だったスペースを確保し、DPFの構築に着手。2021年1月に稼動を開始した。

DPFの稼働開始直後から同社では繁忙期に突入。2台の『RICOH Pro 8320S』はフル回転し、問題なく乗り切った。

 RPAが印刷を指示

右から正文舎代表取締役の岸 昌洋氏、リコー グラフィックコミュニケーションズBU  プレジデントの加藤茂夫氏、リコージャパンPP事業部 事業部長の三浦克久氏
右から正文舎代表取締役の岸 昌洋氏、リコー グラフィックコミュニケーションズBU プレジデントの加藤茂夫氏、リコージャパンPP事業部 事業部長の三浦克久氏

デジタル印刷機(プロダクションプリンター)はオフセット印刷などと異なり・版・が不要で多品種・小ロット印刷への適性が高く、かつ刷版工程や紙面乾燥の必要がないため、生産プロセスを短縮することができる。基本的にオペレーターに高いスキルが要求されず、印刷をスタートすれば大抵は間違いなく印刷が完了する。

ただし、実際には印刷スタート前に、オペレーターが紙の作業指示書をもとに印刷用のデータを呼び出し、部数やサイズなどを入力する。必要であれば面付や、色紙の差し込みページを指定。ジョブ数が多ければ、印刷前準備の作業工数が増えてミスを誘引しかねない。

同社では、色上質紙の扉が数か所に入る案件で、オペレーターが印刷前にプリントコントローラー(Fiery)にページ位置を入力していた。校了後に扉の挿入位置が確定すると、現場に手書きで扉を挿入するページ数を指示。入力ミスが発生すると手作業で丁合し直していた。

裏面に各地の教室名や教室の地図が記載される学習塾のチラシでは、裏面と表面の付け合わせが発生するほか、教室ごとに異なる部数を入力していた。オペレーターはクライアントから提供されたExcelのリストを元に、裏面と表面を付け合わせて教室ごとの部数を入力。何百種類にも及ぶと、部数の入力間違いによる再出力や、同じ内容の二重出力の無駄が生じることがあった。

デジタルプリントファクトリーのフロー
デジタルプリントファクトリーのフロー

DPFでは、まず営業部門からMISに入力された受注情報(印刷仕様情報)がCSVに出力され、『リコープリンティングROBO』に受け渡される。『リコープリンティングROBO』は受注情報から印刷部数や出力トレイなどの印刷指示情報をJDF化。プリントコントローラーにJDFを受け渡し、印刷前準備を完了する。表裏の付け渡しもExcelのデータを元に、『リコープリンティングROBO』がプリントコントローラーに指示を出し、部数も設定して自動で印刷を準備する。

同社では2階のDPFに、3階の制作部門から出力指示のみを出す。用紙切れやトラブルが生じた場合だけ、担当者にメールで通知される。

荷札のバーコードにより無線綴じ機、断裁機が自動的にセットアップ。出荷もバーコードで管理
荷札のバーコードにより無線綴じ機、断裁機が自動的にセットアップ。出荷もバーコードで管理

印刷時にはジョブごとにバーコードや発注先、納品先が印刷された荷札が印刷される。複数のジョブが連続して印刷され、そのままスタックされても、製本・加工の工程で荷札により判別することができる。

製本・加工の工程では、荷札のバーコードを読み込むと、ホリゾンの無線綴機『BQ‐270V』、断裁機『APC‐610』が自動的にサイズや厚みをセッティングするため、オペレーターが機械にセットアップ情報を入力する必要はない。検品・出荷の工程でも荷札のバーコードにより出荷先や出荷先ごとの個数が管理される。DPF内にはWebカメラも設置。作業状況を記録することで、出荷後に事故の際の追跡・調査も可能にしている。

現在は『RICOH Pro 8320S』から稼動実績がJMFで出力され、作業日報としてMISにフィードバックされている。今後は無線綴機、断裁機のセットアップをバーコードからJDFに切り替えるともに、JMFによる稼動実績の収集を予定している。

岸社長は「当初はオフセット印刷との分岐点として500部程度を想定していましたが、デジタル印刷機は刷版や折り、丁合セットのプロセスがなく、連続して稼動していますので、想定以上の部数を生産しています。MISから昨年の実績と比較すると、オフセット印刷に比べて半分の時間で済んでいます。リピート案件ではさらに速くなっており、製本作業者が慣れてくるともっとスピードアップすると考えています」と成果を実感。同社工務部部長の平澤博美氏は「2,000部ぐらいのジョブはデジタル印刷機に回しています。部数というよりも、本文と違う紙がインサートされるもの、ページ数が少ないものから印刷方式を判断しています。残業は相当減り、働き方改革につながっています」と述べている。

機械の自動化、無人運転では、機械本体の信頼性が担保となる。止まらずに安定した品質で生産し続けることが前提になるが、『RICOH Pro 8320S』については「表裏の見当ずれもなく、安定して動いています」(同社製版課 課長 浦田久永氏)という。保守についてはDPFのフロアに『RICOH Pro 8320S』の部品をストックし、サービスマンが到着次第、修理できる体制を整えた。

岸社長は「DPFのポイントはデジタル印刷機を、デジタル技術で運用することです。それによって人は人にしかできないことに従事していくことが第1フェイズです。今後、第2フェイズ、第3フェイズと進めていきます」と説明。正文舎では今後、製本・加工のJDF運用や、バリアブル印刷用の印字・表裏合わせを検査するユニットの追加を計画するほか、「仕事があっての自動化です。これから創注をいかにDXにしていくか。できればリコーさんと一緒に取り組んでいければと考えています。デジタル技術で価値あるものをお客様、社会にお届けすることが我々の考えるDXです」(岸社長)と、ビジネス面でのデジタル変革を見据えている。

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