【インタビュー】プリントネット 第三創業期へ新社長に鈴木崇之氏 ~ 体制一新し、成長加速へ

製造受託機能をさらに強化

 プリントネット株式会社(鹿児島県鹿児島市)は執行役員社長に鈴木崇之氏を選任した。代表取締役社長の小田原洋一氏は代表取締役会長兼社長に就任した。同社は2004年にネット印刷サービスを開始して急成長を遂げ、2018年には東証ジャスダック市場(現スタンダード市場)への上場を果たした。小田原洋一会長は今後のさらなる事業拡大を見据えた上で、役員を含む社内体制の強化が喫緊の課題と位置づけ、執行体制を一新することにした。同社の小田原洋一会長、鈴木崇之氏に経営体制変更と今後の事業展開について話を伺った。

小田原会長(左)と鈴木社長

第三創業期へさらなる飛躍
代表取締役会長兼社長  小田原洋一氏

 当社は昭和43年に私の父が『小田原印刷』として個人創業しました。当時、従業員12、3人の地域密着型の印刷業で、第1創業期として位置付けています。

 社長を引き継いだ2004年からは第2創業期です。社長就任後にすぐにネット印刷事業を立ち上げました。手探りで商品撮影から価格表の作成まで一人で担い、注文もFAXやメールで、生産体制も脆弱でした。カタログ通販とネット通販を併用している状態で、社内にSEはもちろんいません。

 ネット印刷としてのハンディキャップは立地です。製品を出荷するにしても鹿児島からだと他社に比べて不利でした。この頃の経営方針は“スピード、スピード、スピード”です。何事もスピードを重視していました。

 大きな転機になったのが、本格的にネット印刷事業を始めて3年後の2008年に東京西工場(山梨県上野原市)が操業したことです。当時の売上は約5億円ですから債務超過ぎりぎりの決断でした。資金は自前で借り入れるしかなく、失敗が許されないストレスを常に感じていました。しかし、東京西工場により首都圏、東日本の需要を取り込めたのは当社の成長にとって大きな契機となったのは間違いありません。その後も工場を増設し、お客様のニーズに迅速に応える体制を強化していきました。

 当社は2018年に東証ジャスダック市場に上場しましたが、もっと早く上場すべきだったと感じています。ここが心残りです。

 コロナ禍を経て、業績は順調に伸びています。ここで勘違いしていけないのは、ネット印刷市場自体が伸びており、当社はそれに引っ張られているだけということです。単に波に乗っているが今の当社です。

 私の役割は軌道に乗せたここまでと認識しています。ここからは第3創業期として、鈴木社長が会社を牽引し、さらなる成長を実現してもらいたいと考えています。

 鈴木社長とは5年前に紙の回収業者を紹介してもらったことをきっかけに知り合いました。その後、毎月のように当社に営業で訪問するようになり、色々な提案をもらい、ミーティングを重ねてきました。最初は役員として支えてもらおうと考えましたが、会社全体を動かすにはトップに就く必要があると、私と鈴木社長の意見が一致して、今回の社長交代に至りました。

 当社は第2創業期からのメンバーが管理職を務めています。彼らは優秀な人材に育ちましたが、まだ若く、世間知らずです。今のままで能力やスキルが固まってしまったら会社の成長が止まります。自分たちは頑張っていると思っているでしょう。でも、競業他社はそれ以上に努力して勉強しています。管理職が一層スキルを上げていけばもっと成長できます。鈴木社長は色々な組織を経験し、這い上がるパワーもあります。ここで当社をリセットして、彼らが能力を存分に発揮できるよう導いてもらいたいと思います。

お客様、協力企業と共に成長
執行役員社長  鈴木崇之氏

 私は26歳の時に父が経営する印刷製本会社を引き継ぎ、結果的に会社をたたまざるを得ない経験をしています。今も会社は継続しているのですが、私自身、どん底にまで落ち、経営の失敗が並大抵の苦しさではないことを実感しました。その後、ありがたいことに、多くの会社から来てもらいたいというお話を頂き、今に至っています。

 小田原会長とは業績が悪化している企業を引き継いだ点でルーツが似ており、苦しい時にどう踏ん張るか、土壇場からどう這い上がるかという考え方で意見が一致しています。会社をこうしたいというのは一つの現象に過ぎず、会社経営は胸に秘めた覚悟が大事だということも共有しています。

 昨年の秋口に小田原会長から社長にというお話を頂き、二つ返事でお引き受けしました。前職の営業で訪問するようになり、プリントネットがお客様の時から、幹部に若さがあり、自信もあるなと感じていました。一方で、粗削りでもあり、世間から見たら若造に見られる年代です。私自身も26歳で社長を引き継いだ時には世間から舐められていると感じました。そこに立ち向かっていくために、私が経験してきたことを伝え、若さを殺さずに良い道筋と役割を与えたいと純粋に思えたので、小田原会長からのオファーを断る理由はありませんでした。

 当社は売上高100億円近い企業です。マネージャーにそれなりのスキルが求められ、組織にしっかりとした仕組みがあってしかるべきです。今までの土台にプラスαを加えてさらなる成長に向かう道筋をつけるのが自分のミッションになります。

 組織的には管理本部、製造本部、営業企画本部の3つの軸で運営していきます。それぞれにプレイングマネージャーを付けて、彼たちを幹部として340名の従業員を牽引していきます。小田原会長と私は全ての本部を管掌し、成長基盤を整えます。

 プリントネットの原点は純粋な印刷会社です。お客様からありがたいお仕事を頂き、印刷してしっかりお届けするDNAを引き継いでいます。先進的な技術を貪欲に取り入れていく気風に、泥臭い部分が備わっています。ここを継承してともに成長させていくのが3名のマネージャーです。

 ベンダーに所属していた頃、お客様は全国の総合印刷会社様でした。多くの印刷会社の方々をお話していると、先行きが不透明で設備投資の決断が難しいという声を良く聞きました。機械はどうしても古くなり、長く使えば故障の頻度も増えます。それでも投資が回収できるのかが見通せず、経営者の方の多くがこの先、生産能力をどう維持していくのかという課題を抱えていらっしゃいます。また、設備を持たないファブレス化を選択する経営者の方が増えることも予想されます。

 当社は同業のお客様がもともと多いのですが、今後、同業の方々の工場の役割をますます強化したいと考えています。設備投資の負担なく、御社の工場として使って下さいというコンセプトで、すでに何社かのお客様から製造委託の契約を進めましょうというお話を頂いています。

 当社はネット印刷に限らず、別途見積りにも対応し、きっちり商品をお届けするリアルな営業部隊『特販部』を設けています。お客様と打ち合わせし、フォローするこの部隊の人員を増強し、ネット印刷と製造を請け負う総合印刷のハイブリッドの形態をイメージしています。

 同業のお客様の声を聞くと、ネット印刷に対し、価格以外で満足されている方が少ないことが分かりました。大ロットや高品質が求められる案件について、外部に委託せずに内製する傾向にあることもつかんでいます。プリントネットは価格以外にも、特定名義で発送できる発送代行サービス、着日指定サービス、クレジット払いなど、価格だけではなく、サービスもご評価して頂いています。そして大事なお仕事でも安心して頼って頂ける品質、納期、コスト面での生産体制を有しています。プリントネットだったら安心して仕事を出して頂けるように人員、設備をますます強化していきます。

 また、当社には約50ヵ所に生産のパートナーである協力会社がいます。プリントネットのメニューが充実しているのも協力会社のおかげです。当社はお客様と協力会社をブリッジするジョイント役でもあります。

 私の持論は、ネット印刷が印刷業界全体を底上げするというものです。私は印刷製本会社の「せがれ」であり、ずっと印刷業界に関わって仕事をしてきましたので、紙媒体を大事にしていきたいし、デジタルメディアに移行した需要を印刷メディアに取り戻したいという想いを持っています。新しい印刷商品や新しい需要を創出するためにも、色々な商品軸を揃えて、印刷クライアントが発注するきっかけを作っていきたい。例えば、当社のホームページで、加飾した名刺の画像を見たクライアントが、こうした印刷物ができるのかとイメージを持てば印刷需要にとってプラスとなります。

 プリントネットは自分だけが成長するのではなく、同業の印刷業の方々、協力会社、お客様という全体で伸びていくエコシステムを目指しています。私は前職で役職に就いた時、「幹部の一員になったからには、お客様、そして業界発展のために高い目線を持つことが必要だ」ということを教わりました。プリントネットは全てのお客様により良いサービスを提供しつつ、印刷業界の発展の一助になりたいと考えています。印刷産業はまだまだ成長できる機会はあります。ともに歩んでいきたいと思います。

【鈴木崇之(すずきたかゆき)氏 略歴】

2014年1月 富士フイルムグローバルグラフィックシステムズ株式会社(現富士フイルムグラフィックソリューションズ株式会社)入社
2019年4月 同社デジタルソリューション営業部課長
2023年4月 プリントネット株式会社入社 執行役員社長就任(現任)

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新体制を支える3人のマネージャー

左から小田原氏、高橋氏、猪俣氏
左から小田原氏、高橋氏、猪俣氏

充実のカスタマーセンター
執行役員製造本部長(営業企画本部)  小田原一誠氏

 他のネット印刷と比較して、当社の強みの一つが『カスタマーセンター』です。オペレーターに電話がつながることはもちろんのこと、年末年始の5日間以外は稼動しており、お客様のお悩みやご相談、ご意見に即座に対応することができます。よく外部のコールセンターに委託されたカスタマーセンターがありますが、当社は本社の1階にカスタマーセンターを置き、現場を経験している社員を配属しています。自前でカスタマーセンターの人材を育成しており、蓄積した知識でレスポンスが早いところがお客様から高いご評価を頂いています。

 カスタマーセンターでは、オペレーターとホームページの画面を共有しながら、発注や登録などの操作方法を伝える画面共有サポートも提供しています。これにより操作に不慣れなお客様でも安心して発注、登録することができます。

 このほか当社ではホームページに掲載されている商品メニューにない別途見積り案件も受け付けています。また、マーケティング室にはカスタマーセンター勤務者が所属しており、お客様の声をダイレクトにホームページの操作性の改善や、商品開発など様々な施策に落とし込んでいます。

品質ファースト貫く
製造本部 東京西工場工場長  高橋直樹氏(高橋氏の高は、はしご高)

 製造部ではお客様のニーズに応えるために、・品質ファースト・を掲げて、品質をはじめ、納期、コストを日々追求しています。製造部の取り組み次第で利益が大きく変わってしまうので、経営戦略を実現するためにも重要な役割を担っていると認識しています。そして、ネット印刷に外注する不安をお持ちのお客様に安心してご発注できる生産環境を整えることが製造本部の役割です。

 具体的には最新鋭の設備を揃えるとともに、スマートファクトリー化を進めてさらに安定した高い品質、確実な納期、低コストを実現しています。最終的にはファクトリーオートメーションを目指しています。今後、印刷業界はファブレス化が進んで行くことが予測されます。設備をお持ちでない印刷サプライヤーの方々をサポートしていくためにも万全な生産体制を整えていきます。

 品質面では2012年にJapan Color認証を取得して以来、独自の厳しい品質基準を設けてご納得頂ける商品を提供してきました。弊社の主力工場である九州工場、東京西工場で色味を合わせられるのもJapan Colorを色の基準にしているためです。

 納期についてはスマートファクトリー化を進める過程で、生産プロセスの改善を続けて効率化し、生産にかかるリードタイムの削減と生産力の向上を進めています。これによりお客様の望む納期に確実に応えています。

 コスト面では全国から多くの注文を集めてギャンギングによりコスト効率を上げるとともに、資材の一括購入によるボリュームディスカウントでコストを削減しています。これが低価格で提供できる背景です。

 私たちの工場は、お客様または見込みのお客様を対象に、工場見学を実施しています。実際の製造工程や品質管理体制を見て頂くことで、信頼を高めて頂けると考えています。

強固な財務基盤
管理本部 管理部部長  猪俣裕貴氏

 私は2006年に入社し、現場で仕事をしてきました。印刷機の補助から機長になり、東京西工場にも7年間配属されています。2016年にコーポレート部門に異動して、上場に向けた準備にも携わりました。

 当社は上場会社として14日ルールを順守しています。もう一つの強みが財務基盤です。上場企業として恥じないしっかりとした財務基盤は、投資家の方々の投資判断にも寄与していると思います。

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