JAGAT page2026基調講演「AI時代の印刷ビジネス再考(完結編)」開講、AI時代の印刷ビジネスとデジタル・アナログ融合の指針を提示 広告と販促の境界を超えた印刷会社の企画提案能力への期待

公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)は、2月18日、東京・池袋のサンシャインシティで開催された「page2026」で、「AI時代の印刷ビジネス再考(完結編)」と題した基調講演を行った。
モデレーターはJAGATの郡司秀明専務理事が務め、パネリストには株式会社研文社代表取締役社長でJAGAT会長である網野勝彦氏、株式会社グーフCEOの岡本幸憲氏、株式会社マーケティングサイエンスラボ代表の本間充氏が登壇し、AI時代における印刷産業の進むべき道を議論した。

左から郡司氏、岡本氏、網野氏、本間氏

広告と販促の境界を超えた印刷会社の企画提案能力への期待

まず本間氏は、印刷広告と販促の定義について言及し、中長期的なブランドイメージの構築を目的とする広告に対し、販促は直接的な購買を促進する短期的な活動であると説明した。企業内では両部門の予算が競合関係にある現実を指摘した上で、専門人材が不足しがちな企業の宣伝・販促部門に対し、デザイナーやコピーライターを擁する印刷会社が上流工程から深く関わり、その企画提案能力を活用すべきであると提言した。

大量生産からマスカスタマイゼーションへの構造的転換

続いて、株式会社研文社の網野会長が、同社の歩みと変革について語った。同社は創業以来、金融や自動車業界を主要顧客として高度経済成長とともに歩んできた背景を持つ。しかし、コロナ禍によるマスメディア印刷の需要激減を受け、収益の柱を従来の大量生産モデルからデジタル印刷へと本格的にシフトさせた。

特にデジタル印刷機と加飾印刷の導入については、付加価値の高い製品創出を目的としていたが、当初はそれらを扱いこなす技術が追いつかず、事業化へのハードルは高かった。転機となったのは2020年のコロナ禍におけるロックダウン期間である。この機を活用し、デザイナーとオペレーターが一体となってデザイン技術などの専門スキルを徹底的に磨き上げた。その結果、制作した作品が海外アワードで4つの賞を獲得し、高度な技術力による新たな付加価値創造の可能性を実証。これを機に多方面から多様な案件の相談が寄せられるようになった経緯を明かした。

満席の講演会場

グーフの岡本CEOは、社会のニーズを予測し続けてきた30年の歩みを踏まえ、印刷業界の構造的変革の必要性を説いた。キャッシュフローを担保する「マスカスタマイゼーション」という構造を軸に据える同社は、従来の「1枚単価」という価格設定からの脱却を提唱している。100万通のメール配信に匹敵する効果を、パーソナライズされた1万通の高精度なDMで実現し、その成果に応じて利益をシェアする「成果報酬型」への転換を提示した。ものづくりと利益のギャップを埋め、確実にキャッシュフローを担保する構造への変革を強調し、紙の価値は確実に取り戻せるとの確信を述べた。

「フィジタル」がもたらす紙媒体の信頼性と価値の再評価

AI時代における紙の役割について本間氏は、デジタルデータとフィジカル(物理的な接触)を融合させる「フィジタル」の重要性を強調した。ディズニーワールドの事例を挙げ、AIがデータ分析したゲストへの推奨情報を、あえて人間が口頭で伝えることで信頼性が向上する効果を紹介。無機質なデータのまま送るのではなく、物理的な体験を介在させることの意義を説いた。また、デジタル広告の信頼性が揺らぐ中で紙媒体の信頼性が再評価されていると指摘し、また紙からデジタルへのデータ回収の仕組みを構築することで、印刷物の効果測定と最適化が可能になるデータの循環を提案した。

これを受け、モデレーターの郡司専務理事は、デジタルと紙を融合させることの重要性を改めて確認し、紙が持つ本質的な価値を再認識したことを総括した。

地域密着型印刷会社にこそ残された価値創造のチャンス

議論の終盤では、小規模印刷会社の生存戦略に焦点が当てられた。網野会長は、大量生産という前提が崩れた現在、地域に密着しクライアントと深い信頼関係を築いている印刷会社にこそチャンスがあると力説した。地域の特性を熟知していることが、従来のモデルに代わる最大の強みになるとした。

本間氏も、地域密着型の企業を支える印刷会社こそが、顧客の懐に入り込み、上流工程のBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)を支援する立場に立てると指摘。顧客の仕事を直接支えるパートナーとしての地位を確立することが、次世代の印刷ビジネスを牽引する鍵となることを示した。

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