【インタビュー】JAGAT 花房 賢専務理事 「恩送り」の気持ち大切に―JAGATの新たな価値を切り拓く

公益社団法人日本印刷技術協会(JAGAT)は6月12日に総会を開催し、新たな専務理事に花房賢氏が就任した。花房氏は34年前にJAGATに入社して以来、研究調査部を中心にDTP、原価管理、見える化など印刷業界の課題解決に向けた研究・開発や情報発信を担当してきた。来年、設立60周年を迎えるJAGATにとって、変化する時代の中で求められる役割も変わりつつあるという。花房新専務理事に話を伺った。

なおJAGATは、1967年に創立された印刷産業のシンクタンク。印刷とその周辺分野の技術、メディア動向、ビジネス、経営戦略まで調査・研究・提言活動を行っている。会員企業には印刷会社やメーカー、メディア関連企業などが並び、各種セミナーや総合展示会「page」の開催、DTPエキスパートの資格認証などを行っている。

JAGAT専務理事
花房 賢氏

34年間の現場経験が礎に

「私がJAGATに入社したのは34年前、23歳の時です。前職を退職した後、当時の“社団法人”という名称に惹かれて入社しました。印刷の知識もイメージもないまま、この業界に入ってきたというのが正直なところです」と言う花房氏。
入社後はジョブローテーションにより複数の部署を経験後、研究調査部に配属され、主に「テキスト&グラフィックス研究会」「印刷マーケティング研究会」などを担当してきた。まだDTP華やかざりし時代でもあり、JAGATでは新しいソフトが発表されるたびに新技術をテーマにしたセミナーや研修を開催し、多くの会員がセミナーに参加するためにJAGATを訪れていた。中でもカラーマネジメントに関しては、セミナーの運営経験を積み、講師を務めるまでに至っている。
この頃、JAGATは確立されていなかったDTP技術の体系化という役割も担っていた。それがDTPエキスパートである。「DTPが普及していく中で、経験値に頼るのではなく、理屈に裏付いた知識として普及させようということで立ち上がった資格制度です。研究会の活動の蓄積があったからこそ実現できたものだと思っています」。

花房氏が深く関わってきた技術の中に、見積もりソフトや見える化の仕組みがある。その最初のきっかけとなったのが、印刷会社への出向経験である。印刷会社の作業フローの中で、DTP作業の日報システムを構築。請求漏れを防ぐ〝見える化〟の仕組みづくりに取り組んだ。「当時の印刷会社の多くが、DTP作業に関する経費をきちんと請求できていませんでした。分析すると、営業担当者が請求していないケースが大半でした。そこで業務を見える化し、請求書に反映させる仕組みをつくったことは、後の活動にもつながる大きな転機でした」と振り返る。
その後には、見積もりソフトを開発している企業に出向した時期もあり、見積もりソフトの開発支援などにも携わった。
いずれも今の時代に照らし合わせれば、印刷業界の将来につながる取り組みではあったものの花が咲くことはなかった。その背景にはいくつかの理由があるが、そこから一番学んだことは、「理屈だけでは人は動かないということです」と語る。「どう考えても効率的でコストが下がるからいいはずだという一辺倒の姿勢では現場は動きません。いかに自分ごととして捉えてもらうか、一人一人に丁寧に問いかけていくことが大切だと身をもって知りました。この経験が後の見える化の普及活動に活きました」と振り返る。

専務理事に就任した今、花房氏がJAGATに求められる役割として強く意識しているのが「プラットフォームとしての役割」だ。JAGATを取り巻く環境は大きく変化し、会員数も600社を割り込んでいるなど、求められるものが変わりつつある。
「JAGATに求められている機能が変わってきているにもかかわらず、それに十分応えられていない部分もあると感じています。改めてJAGATは何のためにあるのかを、職員の皆さんと一緒に考え直しながら事業を進めていきたいと思っています。来年はJAGAT設立60周年を迎えます。このタイミングに持続的な組織のあり方を見つめ直すことが私の大きな仕事の一つです」と語る。
JAGATの役割の一つである業界のプラットフォームになることとして、「何と何をつなぐのか。印刷会社同士をつなぐこともあるでしょうし、発注者と印刷会社をつなぐこともある。あるいはメーカーと印刷会社をつなぐことも、JAGATの大きな役割の一つです」。

そのための具体的な取り組みの一つとして、来年2月に開催の「page2027」専用サイトとして機能しているウェブメディアを、通年オープンのポータルサイトとして発展させていく構想を抱いている。
「JAGATのセミナー・研修の告知だけでなく、メーカーの無料セミナー情報もまとめて見られて、展示会レポートも掲載される。印刷会社の皆さんが必要な情報にいつでもアクセスできるような場所をつくっていきたいと思っています」。

JAGATが担うべき役割は「つなぐ」こと

専務理事就任後の最初の大きな仕事として花房氏が力を注いでいるのが、「page2027」の成功である。今回のテーマは「なぜ、いま印刷するのか」。このテーマには、印刷業界の未来につながる深い思いが込められている。
「デジタルがどんどん普及して当たり前になればなるほど、印刷の価値は上がると思っています。生成AIの登場もあって、何が本物で何が偽物かわからなくなっている時代に、印刷物としての『確かさ』や希少性は、むしろ高まっていくと感じています」。

その象徴として白羽の矢を当てたのが、2025年4月に紙の雑誌として復活した雑誌『ぴあ』である。page2027の基調講演には、『ぴあ』編集長の岡政人氏を招き、「なぜ今、紙の雑誌が復活されたのか」を語ってもらう予定だ。
「『ぴあ』が廃刊になったのは、デジタルに移管するためでした。しかし大阪万博のガイドブックを紙で出したところ大変な反響があり、再び紙への可能性を感じたそうです。デジタルは目的が決まっている時に便利なメディアですが、偶然の出会いは生み出しにくい。紙には〝偶然〟を生み出す良さがあります。一方で復活した『ぴあ』は二次元コードからチケット購入に直接飛べる仕様になっているなど、デジタルの入り口としての紙メディアという役割も担っています。どちらかを選択するのではなく、アナログとデジタルの融合に取り組んでいます」。花房氏は『ぴあ』の事例から、印刷業界全体へのメッセージを発信していきたいと考えている。

「なぜ、いま印刷するのか」―page2027に込めた思い

加えて、page2027に向けて、「Print as a Smart Media(プリント・アズ・ア・スマート・メディア)」というキャッチフレーズも用意している。「印刷物はデジタルと対立するものではなく、デジタルとつながることで新たな価値を生み出せる。その可能性をpage2027の場でアピールしたいと思っています。さらに、ブランドオーナーやマーケターなど発注側の方々にも多く来場していただけるような仕掛けを考えているところです」。
印刷物の総量が減少していく流れは避けられないと花房氏は冷静に見ている。しかし、だからこそ「価値ある印刷」を発注者にきちんと再評価してもらうことが重要だ。「印刷の価値をお客様にきちんと説明して、適切な対価をいただいてビジネスをしていく。その一方、印刷しなくてもよいものはなくなっていくことも考えられます。その時に、従来からの市場に対するビジネスをどうフォローしていくのかを皆さんと一緒に考えていきたいです」。

仕事を通じて大切にしている言葉として、『恩返しではなく、恩送りをする』を挙げる。この言葉は、㈱アサプリホールディングスの松岡祐司氏から贈られた言葉である。「34年間JAGATでお世話になり、印刷業界の皆さんにも大変お世話になってきました。今度は自分が次の世代に何かを贈っていく番だと思っています。JAGATという組織が、印刷業界にとって本当に必要とされる存在であり続けられるよう、職員の皆さんと一緒に取り組んでいきたいと思っています」と語っている。

▶JAGATホームページは こちら

―出典:プリテックステージニュース 2026年7月15日号【暑中特集号】

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