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ポストプレスブック:インタビュー 勝ち残るためのポストプレス戦略(全製工連 田中眞文会長)

2021.8.9

p04-1 田中会長

田中 眞文会長

月刊誌5月号「ポストプレスブック 2021」合併号 特別インタビュー

全日本製本工業組合連合会 会長 田中眞文 氏

 

第3の市場創造の具現化へ
決断と覚悟で新たな挑戦を

 

全日本製本工業組合連合会は、昨年、製本産業ビジョンと中期振興策「製本産業ビジョン2025 自らの価値を問い直し、自らの未来を創り出す。」を発表した。そのテーマは“再・創業”。製本業の顧客業界別・売り上げ構成比で75%を占める出版・印刷業とは別の、第3の市場の創造を呼び掛けている。コロナ禍を迎え、ますます変化が求められる時代の中で、これからの製本加工業について、田中 眞文会長(株式会社田中紙工)に話を聞いた。

 

第3の市場を創る必要性

 

昨年は、製本産業ビジョンの普及啓蒙をしようと思っていた矢先にコロナ禍の状況となりました。本来であれば昨年10月、仙台大会の会場で、大々的に紹介する予定でしたが延期となり、今年、開催する予定です。全国大会は、2年に1度に開催が削減され、さらに1年延期となったことで、3年ぶりの開催となります。今は時代の変化が速いので、3年という時間は長く、3年前とは意識も大きく変わっていると思います。
なお製本市場については、東京においては出版系やコミック、絵本などが市場を牽引しました。こうして伸びた出版社と取引があるところはいいですが、それ以外については、例えば雑誌などは変わらず低迷しており、コロナ禍で商業印刷は激減するなど、製本・後加工まで影響が及んでいます。
昨年発表した製本産業ビジョンでは、従来からの市場である出版・印刷以外の新たな市場、“第三の市場”の創造が必要であると訴えました。コロナ禍を迎えたことで、5年くらいかけて訪れるだろう変化の時代が一気に来てしまったという状況です。奇しくも、“第三の市場”の創造が、本当に必要な状況になってしまいました。
なお、“第三の市場”は一つではありません。各社それぞれ特技や強みが異なりますから、各社ができることから、新たに手掛けていくことが必要です。
例えば、地域によっても経営環境は異なります。東京はまだ分業化された状況が残っているので、直接お客様と繋がっていないなど、“第三の市場”を創造するためのアプローチがし難いかもしれません。一方で、地方の企業では、すでにWebを活用してオリジナルの御朱印帖や一筆箋を販売するという企業が出ています。
何より、“第三の市場”の必要を感じて、チャレンジする意欲を持つ企業と、ない企業とで、すでに二極化してしまっている感じも受けています。これは問題です。
製本・後加工会社の従来からの仕事は、その大半が印刷会社や出版社からの仕事です。市場が少なくなっているうえに、価格的にも厳しくなってきています。そこで競争しても、利益率を上げることは大変厳しい競争です。しかし新しい市場は、まだ相場もない、ブルーオーシャンの市場の可能性を秘めています。そこにしっかり取り組むことができれば、未来に繋がるしっかりとしたビジネスが出来ると思うのです。

 

時代に応じた対応が必要

 

例えば、田中紙工のグループ会社の昇文堂では、新しい仕事といえば、「タロットカード」「占いカード」などの受注があります。学校や企業などだけでなく、最近ではYoutuberの人気占い師などがオリジナルタロットカードを制作すると、フォロワーが購入したりという動きがあります。こうした市場へは、営業担当者がSNSをチェックして、アポをとるなどして受注に繋げています。
あるいは、コロナ禍になり、スポーツ観戦では声を出して応援できなくなりました。そこで、応援グッズ制作として「ハリセンボーイ」という商品もつくりましたし、パーテーションの作成なども可能です。これは既存のカッティングプロッタなどを使ってできるものづくりです。時代にわせて商売のやりようは色々あると思っています。
新しいことを始めるためにも、肝心なのが「やる気」です。やる気をもって、挑戦できるかどうかが、これからの別れ道になってくるのではないでしょうか。
ちなみに全製工連でも、新しい取り組みが定着しつつあります。その一つがオンライン会議です。全国規模の会議であるほど、利便性を発揮しています。移動するコストも、時間も必要ありません。これまでリアル重視だった世のなかが、コロナ禍によりオンラインへと意識を統一させました。必ずしも出席率が良いわけではありません。リアルのほうが小さな打ち合わせや、1対1での何気ない会話が出来るというメリットもあり、リアルに出席したいという気持ちを持っている方も多いのは事実です。しかし今は、新しいシステムを取り入れるよいチャンスになっているのではないでしょうか。

 

Web to Print生かして市場開拓

 

いずれにしても、2020年は、コロナ禍で本当に厳しい年でした。助成金なども利用できる間はいいですが、それが終わってしまった時の準備が大切です。嵐が過ぎ去るのを待っているだけではいけません。次の手を準備していた企業と、過ぎ去るのを待っていた企業とでは差がついてしまうと思います。
厳しい年だけでなく、好調だった市場もあります。例えばマンガ『鬼滅の刃』が市場を牽引したコミックや、巣ごもり需要による絵本、学参などは好調でした。家の中で遊ぶカードゲーム、ジグソーパズル、ボードゲームなども引き合いが多かった仕事の一つです。
田中紙工で扱っているカードゲームやオリジナルトランプ、オリジナルかるた、トレーディングカードなどは動きがあった仕事でした。特に、オンデマンドトランプでは受注のための専用サイトを開設しており、一般の人でも気軽に発注できます。撮りためた画像など使ったオリジナルカードが、Web上から簡単に発注できるので制作の自由度が高く、さまざまな作品が登場しています。その延長線上として今年は、「オンデマンドかるた」の専用サイトも立ち上げる予定です。入れたい画像などを使った“かるた”が、Web上から簡単に作れます。1部から発注できるのが特長で、個人からの少しだけ欲しいというニーズに応えます。
今や、「紙vsデジタル」という時代ではありません。それはカードゲームやボードゲームが流行ったことからも感じられます。エンドユーザーは、その時に一番マッチしたものを選択します。しかし、そうした市場を獲得するためにも、Web to Printで小ロット対応を伸ばしていく戦略が必要だと考えています。
小ロット市場へのチャレンジは、デジタル印刷や専用サイトの開設など、大がかりなシステムと比較すると、コストを抑えてトライできる事業です。新しいことへのチャレンジは、試行錯誤しながら取り組むことが一番、大切だと思っています。
そして最後は、経営者の「やる気」と「覚悟」次第なのではないでしょうか。加えて、若い人の力を借りることも大切です。若い人はITスキルが高く、変化に簡単に順応できるからです。若い人にも一定の権限を与えて、動いてもらう。時代が変化しているのを的確に捉えながら、よりよいものづくりのために何を選択するかを考えていかないといけません。
今は、Web to Printの仕組みがあるので、以前よりも、新しい市場を開拓することが簡単にできるようになりました。コロナ禍で、改めて必要な紙メディアが明確になってきたともいえます。改めて、“第三の市場”の開拓を目指していきたいと思っています。

 

株式会社田中紙工
東京都板橋区坂下2-11-4
電話03-3966-4892
https://www.tanakashikou.co.jp/

 

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