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インタビュー:ハイデルベルグ・ジャパン水野社長に聞く-スマートファクトリーの実現へ

2018.1.19

drupa2016で生産機の完全自動運転を象徴する『Push to Stop』という概念を掲げたのを皮切りに、印刷システムだけでなく、仕組み作りからシステムの活用方法に至るまで、複数の工程をひとつに統合し生産機を完全自動運転することを提案しているハイデルベルグ社。第四次産業革命に向けた生産性革命に向けて着手する時であり、今こそ変革の時であるという。ハイデルベルグ・ジャパン㈱水野秀也社長に話を伺った。

 

IoTと連携した生産革命に取り組むスマートファクトリーの実現へ

 

生産性革命でコスト構造を見直し利益を上げるハイデル_水野氏.2

この数年、印刷市場は大きく変化しています。印刷総量が減少し、IT化、電子化、電子メディアやEコマースなどが急速に拡大して、デジタル化社会が進んでいます。2017年は、印刷に関わる全ての企業が、これからの印刷ビジネスについて改めて考える過渡期であったと感じます。
ハイデルベルグ・ジャパンも、提供してきた装置やサービスの内容が大きく変わった1年でした。既存の設備の入れ替えをサポートするというレベルではなく、顧客企業にとっての大事な設備は何かを考えて提案する方針へシフトしてきました。従来型の経営スタイルから、全く新しい領域へリセットしていく。その意味でも、「改善」から「革命」へ切り替わる狭間の年だったのではないかと思います。

 

現在、第四次産業革命の時代を迎えています。しかし日本は、第三次産業革命でITの実装に失敗したと言われています。その結果、非効率化を生み、日本の生産性は大変低いものとなっています。ですから第四次産業革命に向けて、今、ITの実装化に乗り出さなければ、本当に乗り遅れてしまうと思います。製造業においても、サービス業においても生産性を上げなくていいという理由はありません。
第四次産業革命が目指しているのは、政府が発表している総合政策『生産性革命』です。“革命”という表現からわかるように、成功すれば2倍~3倍の効果を出すものとなります。

 

生産性を上げることで得られるメリットはコストだけの問題ではありません。品質やサービスの付加価値に繋がります。生産性の上がらない工場で、ものを作るだけで従業員がキュウキュウとしていては、どうやって品質を担保できるでしょうか。
こうした日本の生産性の問題に拍車をかけているのが、人手不足の問題です。国内における労働人口の減少が顕著で、かつ深刻です。印刷業のみならず、将来的に日本の製造業が従来の製造サイクルを維持できるのか疑問です。

現在、3交代・24時間体制で動いている工場も、いつかは人手不足で2交代にせざるを得なくなるかもしれません。その時、3交代制を2交代制にしても、同じ生産量を維持できる仕組みをつくるというのが生産性革命で可能なるということです。

 

生産性革命は、設備ならばOEE(総合設備効率)を向上していくことで実現できます。オフセット印刷機であれ、デジタル印刷機であれ、製本設備であれ、各設備のポテンシャルを活かせる仕組みが必要で、それなくしてマスカスタマイゼーションは実現しません。

そして生産性を向上する場合、製造部分だけではなく、見積りを出してから納品し、時には効果測定して、次のジョブに繋げるまでの、全体の生産性向上を図らないといけません。

実際、印刷業におけるものづくりのプロセスにおいて55%がCTP出力前の労力負荷であるといわれていますが、この部分の生産性を上げることを考える必要があるのです。言い換えればタッチポイントを減らす事です。加えて、川下のものづくりと併せて生産性を上げることで、少ない人でも品質の高い製品やサービスが提供できるようになり、人は、人が為すべき仕事に集中できるようになるのです。

こうした生産性革命への取組みが、2018年の一番の課題になるのではないでしょうか。ただし、もう時間的余裕はあまりありません。今そこに取り組めた企業が、新しい印刷業の姿を創り出す会社になっていると思います。
現在、品質や納期、仕様などへの顧客からの要求が厳しくなっています。加えて人手不足が深刻で、設備も老朽化していく。こうした様々な課題が山積している時だからこそ変革のチャンスの時であり、今、取り組むか、取り組まないかの選択が、今後5年後、10年後の企業のあり方に大きく影響してくると思います。

 

人とデジタルが共存したビジネス社会へ

ハイデルベルグ社が提案している生産性を高めあるための概念『Push to Stop』

ハイデルベルグ社が提案している生産性を高めあるための概念『Push to Stop』

変革していくためにも、企業のあり方が問われています。会社の方針や戦略が社内で統一化されているのかということと、改めて自社が何を強みにしていくのかというコアコンピタンスの見直しが必要です。

社会の変化のスピードが速く、2~3年前の目標も、すぐ陳腐化してしまう可能性があります。そのため、目標を常に再確認していく時代です。そうした中では、顧客先との関係性の見直しも必要になるかもしれません。

しかし、営業企画、マーケティングについては必ず人間の感覚、「情」が残る部分だとも思っています。顧客先は、内容によって価格で発注先を決めたり、品質で発注先を決めたりします。Web発注のような場合でも、「情」の部分が必要になると感じます。安ければいいということではないという市場が間違いなくあると思います。

 

その一方で、ものづくりの現場は、出来るだけ「情」を排除したほうがいいわけです。製造品質に対する評価は、「情」ではなく「理」の部分だからです。ですから将来的にAIやロボットが生産現場に導入されてしかるべきだということです。業界としても、自動化、省力化にとどまらず、第四次産業革命の中で解決していくべき課題の一つかと思います。
なおハイデルベルグでは、印刷機やサービス、材料など、各コンポーネントでそれぞれに特長はあるものの、分けて提案していません。私どもは、エコシステムを提供することを使命と考えているからです。
見積りを出す段階から納品までの間には、ワークフローのプリネクトや印刷機のスピードマスター、製本機のスター・ポーラー、印刷必需品のサフィラ、あるいはシステムサービスなど、お役に立てて頂けるシステムが様々あります。しかしこれらは、エコシステムを機能させるコンポーネントであり、それを象徴する表現が「Push to Stop」です。

「Push to Stop」は、生産性革命を実現するための仕組みです。OEE(総合生産効率)という指標のもと、設備の生産性を最大限に発揮することで、極限までコストを下げ、高品質なものを提供する仕組みです。指標のもとに問題点を見える化し、際限なく改善していくプロセスでもあります。この仕組みを活かしてもらうためには、ITの実装化と同時に、設備に対する時間コストの認識が必要です。それにより会社の組織や人の活用などの方向を変えていき、本当の意味での生産性革命が実現します。

 

生産性革命はコスト構造を見直し、営業利益を上げる取り組み

B1インクジェットデジタル印刷機「Primefire106」

B1インクジェットデジタル印刷機「Primefire106」

なお2018年は、3つの注目すべき製品を投入します。

一つは「ハイデルベルグアシスタント」です。これは、お客様毎に持っている設備の生産性やOEE(総合生産効率)を見える化したり、ツールを活用して生産性や品質を上げるためのアドバイスも行えるほか、予知保全も可能です。予知保全は、IoTをベースにしたビッグデータから、未然に装置トラブルを防ぐことができます。
実は10年前から、顧客のデータベースにアクセスし、稼働状況や予知保全などを知ることができる仕組みをもっています。全世界で約1万5,000社のデータが上がってきます。印刷機械にはおよそ3,000~6,000のセンサーが付いており、そこからモーターの温度や、印刷機の回転数といったデータを、顧客の同意のもと匿名で得ています。
メーカーとして装置の特性を知っているため、例えば菊全6色、コーター付きの機械をセグメント化するというようなことが可能です。すると、世界中の同じ設備のデータが上がってくるので、どんな使われ方をしているのか判ります。集められたデータを基に、普段の平均温度よりも高くなれば正常値ではないと判断して、機械が停止してしまう前に問題があることを伝えることができます。こうしたビッグデータの活用は、世界的にも産業機械の分野で最も進んでいる部分です。

次に、「ビジネスインテリジェンス」の提供です。「ビジネスインテリジェンス」は、一層生産性を高めるための指標を示してくれるものです。例えば、ボトルネックがどこにあるか、同じ装置なのに生産性が違う原因は何かなどがわかります。OEEは、「品質指標」「スピード」「非生産時間」の3つの合計値で見ていきますが、この3つに分類して分析すると他に比べて生産性が低い印刷機の理由が明確になったりします。マイクロソフトのクラウドを活用して、自由にカスタマイズできるようになっており、リアルタイムで仕事の進捗状況などの情報を共有できるようになります。

3つ目が、秋頃に日本に登場する、B1インクジェットデジタル印刷機「プライムファイア」です。マスカスタマイゼーションを実現するインクジェット機であり、新しい印刷ビジネスの可能性が生れるのではないかと期待しています。

 

デジタル化社会になり現場におけるデータは揃っていますが、これまでは活用できる情報ではありませんでした。こうしたビッグデータをスマートデータに替えていく使命がサプライヤーにあると思っています。第四次産業革命におけるIoT活用とは、ビッグデータをスマートデータに変え、そのデータに基づいて、これまで単体で動いていた印刷機や製本機、CTPなどのシステムの全体最適を実現していきます。
サプライヤーが、システムを、ましてや機械を単独で販売する時代は終わりました。システムを導入された企業が、いかにそれを活かしていくのか、さらには利益を向上していくのかまで議論の枠を拡げて、適切なアドバイスができるようにならないと本当の意味での全体最適を実現できないと思っています。そして我々の生産性革命への提案は、決して印刷物の安売り促進ではありません。コスト構造を見直すことは、製造業において永遠の課題であり、それによって利益率を上げ、お客様に適切なサービスが提供できるようにしていくことが必要です。

 

また2018年は、多くのお客様の工場において、「Push to Stop」をベースとしたスマートファクトリー化を実現したいと考えています。それは、圧倒的な生産性革命を起こし、印刷業をもっと価値あるものにしていく真の生産性革命を意味します。印刷業がものづくりについて真正面に向き合い、より高度なものにしていった結果、世の中の人が、印刷物によって豊かで彩りある生活を送れるようになることは私どもの使命です。デジタル社会を恐れず、印刷産業のDNAに新たなページを残していく最初の年にしていきたいと思います。