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【インタビュー】
新製本産業ビジョン策定委員会 木戸敏雄委員長
印刷、出版に続く第3の市場を獲得
製本産業ビジョン2025『再・創業』で変革へ

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2020.5.21

製本産業ビジョン2025

製本産業ビジョン2025

全日本製本工業組合連合会(田中真文会長)は2020年1月、製本産業ビジョンと中期振興策『製本産業ビジョン2025自らの価値を問い直し、自らの未来を創りだす。』をまとめた。2025年に向けて、製本・加工業の変革の方向性を示したもので、“再・創業”をテーマに、第3の市場創出を訴えている。新製本産業ビジョン策定委員会の木戸敏雄委員長(東京都製本工業組合京橋支部/株式会社木戸製本所代表取締役)のコメントとともに、ビジョンの要旨を紹介する。

 

印刷・出版の依存度75%

 

木戸敏雄委員長

木戸敏雄委員長

製本業の主要市場は印刷産業と出版産業である。主に印刷会社や出版社から製本の業務を受託し、指定された納期に製品を納めてきた。仕事がふんだんにある時代であれば受注型の業態は経営効率が良く、生産性と品質の向上に絞って投資をすることで成長することができた。

新製本産業ビジョン策定委員会の木戸敏雄委員長は「印刷産業の出荷額は約8.9兆円から約5兆円にまで減少しました。出版市場の販売金額もピークの2兆6,563億円から、2019年には紙ベースの販売金額は1兆2,360億円で、半減しています」と市場の縮小を指摘し、「製本・加工業が印刷業と出版業という二つの業界に依存してきましたが、もう一つの市場、つまり第3の市場を作っていく必要があるということです」と、今回の製本産業ビジョンが示す方向を説明する。

経済産業者の工業統計を見ると、製本業の付加価値率(付加価値額÷出荷額)は60%を超えており、40%台の印刷業と比べて高い水準にある。印刷業に比べて原材料費が低いためで、70%を超えた年もあった。償却が済んだ製本・加工設備を長く使うことで、利潤を生み、さらに設備投資をしていく循環にあったといえる。ただ、裏を返せば装置産業の性質が濃く、仕事が細れば設備投資が先延ばしになるか、できなくなる。投資ができなければ、競争力は落ちていく。

『製本産業ビジョン 2025』(以下ビジョン)によると、製本業の顧客業界別・売上構成比は印刷業と出版業を合わせて75%を占める。従来よりも一般企業の比率が10%近くにまで高まっているものの、依存度はまだ高い。

前回の『製本産業ビジョン 2018』を振り返るアンケートでは、前ビジョンで示された5つの変革ストーリーについて、「取り組んだ」企業は27.7%にとどまった。取り組んだうちの46.3%が「成果が出た」と回答している。約5割の企業に成果が表れており、前ビジョンの有効性があることがわかるが、取り組まなかった理由は「日々の業務が忙しかったから」が43.0%と高く、“時間”という問題が浮き彫りになっている。

木戸委員長は「できる会社は変革に取り組んでいるということです。ほとんどの企業が変革の必要性を感じていますが、日々の仕事に追われているのです。しかし、仕事は減っていきます。新しいことに着手するには時間もお金もかかります。人の問題もあるでしょう。でも、生き残ろうとしたら今の仕事のやり方では難しいのが現状です」と述べる。

 

勇気を持って第一歩を

 

ビジョンでは「もし製本会社がなくなったとしたら」(第3章)の題で、①感性価値創出を支えるクリエイティブ集団「製本屋」、②リアルメディアのフィニッシャー、③“人”が使うものをつくっている、④“残しておきたい”モノを作っている、という製本会社が提供する価値の再認識を促し、顧客である印刷会社、出版社に対する役割を示している。また、“下請け”としての存在よりもパートナー関係の構築の重要性を強調。家電量販店に押された“町の電器屋”が部品交換・修理などのきめ細かなサービスを売りに生き残っている例を挙げ、「製本会社の仕事であるという状況を作るのは、顧客ではなくわれわれである」と能動的な行動を訴えている。

また、第三の市場を創造する視点には、個人需要を指向した“エンドユーザーとの直接取引”と、既存顧客を含めて製本プラスアルファの価値を提供して深堀する“特定業種・業界への専門的対応”を挙げ、印刷業界、出版業界の二大市場の周辺に、①図書館市場、②学校市場、③市町村市場、④個人市場、⑤その他市場の可能性を示している。ここに向けてどうアプローチしていくかがカギになり、ビジョンでは変革に取り組み、成果を上げている事例を紹介している。

「ビジョンでは変革の事例を紹介しています。例えば、インターネットとオンデマンド印刷機を使って荷札のネット通販を始めた製本会社の事例もあります。ニッチですが、荷札は全国に顧客がいて、成熟市場なので競争も少ない市場です。自社の加工という専門性と新しいデジタルの技術を融合して新しい市場を作り出しました」。ビジョンには荷札ビジネスをはじめ、出版・システム開発と連動、オリジナル商品などの事例のほか、変革のヒントとなる印刷会社や出版社、製本機械メーカー、デジタル印刷機メーカー、クリエイター、デザイン会社、紙卸業、教育サービス企業のコメントも掲載されている。

クライアントからコメントとしては、「日常的な営業活動というものが概念としてあまりない」などの指摘や、「アピールをしてもいいと思う」、「外注先をネットで探すこともあるので、製本会社もきちんとホームページを作っておいた方がいいと思う」という助言もあり、今後、新しいサービスや商品を開発する上での手掛かりにもなる。

第3の市場の可能性は広いといえる一方、前ビジョンの振り返りアンケートにもあるように、一歩が踏み出せるかが課題だろう。新しい市場には既存の市場と異なる取引慣行があり、新しいサービスや商品を提供していくためのビジネス形態と収益化する構造など、超えるべきハードルがある。

木戸委員長は「Webページも少し勉強すればできないことはないと思います。また、学校で、我々が作った本や教材がどう使われているかを調べたり、話を聞いたりすることもそれほど難しいことではありません。まずは一歩目を踏み出してみる。その一歩が二歩目、三歩目と続いていきます。勇気をもって踏み出すことだと思います」と、力を入れる。始めないことには何も得られない。「新型コロナウイルス感染症により、私たち中小企業は短期的な問題を乗り越えることがまず先決です。終息した後は社会やビジネス、働き方の構造が変わり、紙の需要にも影響が出そうです。しかし、その時に新しい社会に対応できる体制づくりも重要だと思います」。