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【インタビュー】新生
平和記念資料館で販売のポストカードにMUD採用
PeaceOpenCard「ヒロシマの記憶」を制作

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2020.5.21

今年2月5日、「page2020」会期中に行われた全日本印刷工業組合連合会による「第13回メディア・ユニバーサルデザインコンペティション(MUDコンペティション)」表彰式において、株式会社新生が制作した「PeaceOpenCard(ピースオープンカード)」が、新設の「製本・加工技術」部門の優秀賞を受賞した。同社は、印刷及び関連サービス、データ処理・印字及び関連サービスを主な事業としているフォーム印刷会社だが、原爆孤児らの職業訓練所として、印刷・製本業で創業したという特有の歴史を持つ企業でもある。創業60年を機に制作した「Peace

OpenCard」は、企業としての在り方も体現した作品でもある。MUD優秀賞の受賞までの取り組みについて伺った。

 

創業60年を機に始まったCSR活動

 

「製本・加工」部門で優秀賞を受賞したPeaceOpenCard「ヒロシマの記憶」

「製本・加工」部門で優秀賞を受賞したPeaceOpenCard「ヒロシマの記憶」

新生は昭和28(1953)年に創業し、フォーム印刷機を中心に連続帳票、単票の仕上げまで社内一貫生産で対応している企業。業務の中には、OPニス加工はもちろん、現在でもバックカーボン加工の受注などを受けることもある。

特に単票の生産においては、背のり、針打ち、穴明け、背巻等も自社内で行い、1日平均1万~1万3,000冊を仕上げることも可能。近年では、データ印字に始まり、後加工の圧着処理や封入封緘まで行うBPO業務も増えてきている受注の一つであるという。加えて、以前からのバックカーボンや仕上げ後の「ヒモ付け」「ポケット貼り」「箔押し」等ひと手間かかるものも得意としている分野で、トータルで伝票制作に対応できることが強みとなっている。

同社の興りは、昭和28年4月、戦争の引き上げ孤児や原爆孤児を集めた児童養護施設としてスタートしたのが始まりである。当時、親を亡くした子ども達が自立するためには高校への進学が必要だったが、十分な支援もなく、自らの力で資金を稼ぐ必要があった。

そこで、学園内に印刷所を付設。後に代表となる森本耕正を技術指導者として所長に迎え、焼けた機械を掘り起し、あるいは活字を貰い受けるなどして、物資の不足している状況下で印刷業を開始した。その後、印刷工場を別法人とし、現在の株式会社新生に至っている。

社名の「新生(しんせい)」は、当時の子どもたちが「新しく生まれ変わりたい」という想いから名付けた学園の名を引き継いだものである。

こうした流れを創業60年の節目に振り返った時、創業者はすでに亡くなっており、当時の話を紐解く作業が困難な状況にあった。そのことから、改めて存命のうちに話をしっかり聞いておけばよかったという後悔があり、広島で課題となっている「被爆体験の語り部」たちの減少問題を取り上げたいと思うようになっていった。

そこで、一つの活動がスタートする。それが、“印刷”という業態を生かし、地域へ貢献することはできないかと始めたCSR活動のプロジェクト「PeaceOpenCard(ピースオープンカード)」である。

 

MUDコンペ制作・加工部門で優秀賞

 

今回、MUDコンペティションで受賞した作品であるポストカード『PeaceOpen Card「ヒロシマの記憶」』は、平和記念資料館のミュージアムショップで2017年より販売されているもの。発売当初の売れ行きは、あまり芳しいものではなく、製品自体に強い魅力があるとは思っていなかったという。

2019年、MUD教育検定3級の講習を受け、新生からは18名が合格。加えて、以前からMUDコンペティションに応募してみたいという思いがあったことから、この知識を製品に反映させ、ポストカードのブラッシュアップを図り、新たに作成。MUD検定の合格者からも、「PeaceOpen Cardをコンペに応募したらどうか」との推薦もあり、出品したところ、入賞に繋がった。

新たに制作されたポストカード『Peace OpenCard「ヒロシマの記憶」』は、新生の圧着技術なども反映されている。あえて全体的にモノトーンでまとめられたカードの中には、平和記念公園を象徴する折り鶴が入っており、折り紙の温かい色彩が演出効果を高めている。来場した記念品としてだけでなく、資料館で学んだこと、感じたことを書き添えてポストへ投函することで誰もが平和のメッセンジャーになれるようなポストカードに仕上がっている。

今回の受賞について、「過去に、こういったデザインコンペでの入賞経験がなく、力試しとして応募しました。そのため、当然、応募当時は入賞するとは夢にも思いませんでした」と語っている。

MUDコンペティションで優秀賞を受賞したことは、全体朝礼で社長から発表されたほか、社外においては広島県印刷工業組合会発行の「いんさつ広島」と、全日本印刷工業組合連合会発行の「日本の印刷」に取り上げられた。一つの話題づくりに繋がった。会社の起源が原爆孤児を集めた職業訓練所であり、先代や先輩たちが大切に守り抜いてきたものを「PeaceOpenCard」という形にすることができ、それを評価して貰えたということに喜びを感じていると述べている。

 

喜んでもらえるものづくり目指す

 

「原爆」と「平和」は、同社にとって“ルーツ”に関係が深いという意識に加え、平和のための活動を続けてきた「被爆体験の語り部」が高齢のため減少しているという深刻な課題に対して、微力ながらも次の世代へバトンタッチしていきたいと考えている。

ものづくりにおいては、「ささやかながらも誰かに喜んでもらえるモノづくりが大切だ」と考えている。創業まだ間もない頃、創業者達が苦心して納めた封筒に対して、被爆から復興中の役所の方が泣いて喜んでくれたというエピソードが残っているという。「誰が作っても同じ」「安い方が選ばれる」というのではなく、「お客様に喜んでもらえるものづくりが私たちの原点であり、これからも目指すべきものであると感じています」と述べている。

今後も、ものづくりへの思いを元に、アナログとデジタルを融合させ、形にこだわることなく、「お客様に喜んでもらえるモノ・コトを追求していきたい」としている。